第15話 消えた妖精




▷▷▷▷トワイライトの妖精◁◁◁◁





この世界には妖精が存在する。



緑の妖精

水の妖精

火の妖精

風の妖精

土の妖精




『おかしいよ、緑』

『うん、おかしいね、水』

『何かあったな、これ、火』

『高貴な方の怒り、風』

『神だけど妖精の神じゃない、土』

『ころ、もっともっと偉い神様だよ、緑』



トワイライト王国にいる妖精達は、ただならぬ気配を感じ取り、一堂に会していた。

言葉の語尾に自ら授かっている精霊の力を付けて話す妖精達は、その口調から想像できないほど狼狽えていた。



『ファータ様、じゃない、水』

『もっとやばい感じだぜ、火』



この世界で人族の神を司っているのは人神、シン•アントワネット。

妖精を司っているのが、妖精神、ファータ•フェアリー。



『そんな高貴な人って、まさか、風』

『嘘、あの方なの、土』



妖精達を司るファータより高貴で、妖精達が震え上がる存在、そう、それは悪神様しかいないのだ。



『『少し前に、何か感じたら移動せよ、ファータ様が言ってた、緑水火風土!!』』


『『直ぐにいかなきゃ、緑水火風土!!』』




この瞬間、悪神様を追いかけ、すべての妖精達がトワイライト王国から消えた。









▷▷▷▷眩耀神(リリーナ)◁◁◁◁





『むっすぅぅぅぅぅ』


「り、リリーナ様??」


『むっすぅぅぅぅぅ』


「コルネ様どうしましょう。先日からリリーナ様のご機嫌があまり良くないようで」

「ミアナ、私も原因が分からず困っているのです。で、ですが、このむくれたお顔はこれで•••」



「「か、かわいいーーーー!!」」




スペアリブを食べさせてくれると言われてから3日、一向にスペアリブが出てこないことで妾は怒っていた。


しかも、妾は今馬車に乗せられており、5日間も旅をするらしい。


怒りに震える妾だが、旅の目的は妾に褒美を与えるためと聞いており、それだけが唯一、怒りが爆発するのを抑えている。



『しかし、こやつら庶民のくせに馬車など借りよって』

『しょ、庶民でも馬車は乗る、です』

『それだけならまだしも、馬車の外や後ろには兵士がいるではないか。これは何なのじゃ?』

『ま、また、向こうで祭りでもやるんです?』

《本当はヴィクトル達の護衛なの、です》


『ほう、今度こそ屋台はあるかのー!!』




馬車の中は広く、8人乗ってもゆとりが有る空間になっており、そこにヴィクトル、マリーナ、エリス、ヒューズ、コルネ、ミアナ、そして妾が乗っている。


妾はミアナに抱っこされているのだが、先程から機嫌を取ろうと色々話しかけてきた。


あまりにも無視していると妾も大人気ないので、時より適当な笑みを返してやる。



『ニヤリ(適当な笑み)』

《現実:にまぁ(天使の笑み)》


「ふはぁー、いつ見ても天使の笑みです!!」



ミアナの相手をしている内に、辺りは暗くなり始め、馬車は街道の脇に止まった。


「リリーナ様。今日は街まで辿り着けませんでしたので、ここでお泊まりでちゅよ」



祭り用の兵士達が忙しなく動き、布ようなものでできた白く大きな家を作り出した。

ミアナが教えてくれたが、これはテントと言うものらしい。


テントが完成し、中に入ると、そこは最初に住んでいたボロ家よりも広く、中には椅子やテーブル、ベッド等も置かれていた。



「このテントは、リリーナ様とコルネ様と私で使うものでちゅよー」

『見事な家じゃのー』

《現実:ちゅごいおうちぃ》


「はあーー、リリーナ様、かわいくて癒されまちゅ」



しばらくテントの中で過ごしていると、何やら良き香りがしてきた。

この世界の料理は不味く、香りや匂いも決して食欲を掻き立てるものではない。


ただ、今香ってくるのはとても美味しそうな匂いだ。



『くんくん』

「リリーナ様。お腹ちゅきまちたねー」


匂いを嗅いでいると、テントの入り口が開かれ、見知らぬ若い女性が顔を出した。



「ミアナ、食事の用意が出来たわよ」

「ありがとう。今、行くわ。さあ、リリーナ様ー、ご飯でちゅよー」



ミアナに抱っこされてテントの外に出ると、そこには8人用のテーブルが用意され、テーブル上には彩り豊かな食事が乗っていた。


妾が来た時にちょうどヴィクトル一家も来て、馬車に乗っていた7人が席に着いた。


何やらヴィクトルが話し、乾杯、と言ってから皆が食事を始めた。



『この良き香り、散々裏切られたが期待して良いのだろうか•••』



妾は小さな手でスプーンを取り、まずスープを飲んだ。



こ、これは


ふ、普通じゃ!!


ま、不味くない!!



スープの次は、メインと言っていた何かの肉を焼き、ソースがかかっているものを食べた。



こ、これも普通じゃ!!




「こ、これは、美味しいな」

「本当ですわ。私共の王宮料理より美味しいのではなくて」

「こ、光栄でございます」


ヴィクトルとマリーナの感想に対して、先程テントまで呼びに来た女性が応えた。



『ミアナ、あやつは誰じゃ』

《現実:みあな、だりぇ??》


「リリーナ様。こちらは今回の旅の間の食事を用意していただけるミシェルですよ。私の幼馴染なんです」


ミシェルは妾を見てニコリと笑う。


『ミシェルがこれを作ったのか?』

《現実:みちぇる、ちゅくったの?》


「はい。リリーナ様。私が作らせていただきました」



ミシェルの作る料理は普通だ。

ただ、この世界で普通の料理が作れるのはかなりの才能持ち、そして努力をしているに違いない。


神のシンにあのスペアリブやハンバーグやトンカツのレシピを貰えば、ミシェルなら作れるのではないだろうか。



これは、是が非でも妾の配下に入ってもらわんとならんな。



くくく



『お前は妾がいただくぞ』



妾はミシェルを見つめ、全てを強欲に奪うような、悪人のような笑顔を送る。



『ニヤリ(悪人の笑顔)』

《現実:にまぁ(天使の笑顔)』



「「か、かわいいーーー!!」」




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