第14話 ちゅーぺりあ
亜空間からタイミングよく料理を出した妾は、悪神の千里眼を利用してパーティー(飲み会)の様子を見ていた。
『あ、あ、あの料理人が焼いているのはなんじゃ!?』
『すき焼き、という牛肉を焼いて、生卵を付けて食べる料理、みたいです』
『あ、あ、あの黄金色のはなんじゃ!?』
『トンカツ、それと、ミルフィーユカツ、らしいです』
『あ、あ、あの伸びているのはなんじゃ!?』
『グラタン、です。伸びてるのは、チーズです』
『あ、あ、あの骨が付いているのはなんじゃ!?』
『あれは、スペアリブ、です。』
あ、ああ、ぁぁ
なぜ、妾がこんなに我慢せねばならないのじゃ•••。
初めから飲み会には参加しない予定ではあったが、あの料理が食べれないのは何とも殺生な•••。
悔しさと空腹を我慢している内に、妾はそのまま眠ってしまった。
何時間眠ったか分からないが、妾が起きるとベッドには何故か寝巻き姿になったルルーとエリスが眠っていた。
どうやら飲み会は終わったようじゃな。
ふとベッドに横になったまま部屋を見渡すと、そこにはヴィクトルとダニー、コルネとミアナの姿があった。
「リリーナ様には、一度、スーペリア王国まで来てもらいたいと考えている」
「そ、それはどういったお考えからでしょうか?」
ヴィクトルの申し出に、ダニーが少し不安そうな顔で問いかける。
コルネとミアナもダニーと同じような表情を浮かべていた。
「心配はするな。我が娘エリスの目を開眼してもらった礼をしたいだけだ」
「そ、そうですか」
ダニーは軽く息を吐くと、安堵の表情を浮かべた。
『おい、ダリア!!礼とは褒美のことであろう!?』
『そう、です』
『きたぞ、きたぞ、褒美じゃーーー!!』
妾がダリアと亜空間越しに会話をしていると、先程よりも低い声でヴィクトルが話し始めた。
「ただし、リリーナ様をスーペリアまでお連れしても、トワイライトの王が静観するようなら少し考えないとならないな」
「そ、それは•••」
『おいダリア。先程からこやつらは何を懸念しておるのじゃ??』
『それは、です。リリーナ様をほったらかしている父親に対して、ヴィクトルが不信感を抱いている、です』
ダニーは額からを汗を掻き、何も言えずにいた。
その状況を見たコルネが、ダニーの代わりに話し始めた。
「恐れながらヴィクトル様。トワイライトの王、オーエン様は、当時第一王妃であったマデリア様が神の呪いによって亡くなったことを受け、距離を置いているのでございます」
「それは承知している。リリーナ様を殺めようとして、逆に亡くなり、伝承からそれは呪いの影響だと」
「左様でございます」
ヴィクトルは手を顎に持っていき、何かを考えながら険しい表情をした。
ヴィクトルのその雰囲気から、その場にいるダニーとコルネ、ミアナは次の言葉を聞くのが怖い、そういった面持ちをしている。
「それが、納得できない。呪いか何か分からないが、あれから9ヶ月が経っていると聞く。そんなに長い間、娘と離れていて平気なのか?私はエリスとそんな長い間離れるなど到底無理だ」
「そ、それは•••」
「それに、第二王妃に子供が生まれたそうじゃないか」
「はい•••」
そこまで話すとヴィクトルは笑みを浮かべた。
「勘違いするな、コルネ。私は今回リリーナ様の素晴らしさを目の当たりにしたからこそ、今の環境が不憫でならないだけなのだ」
「そう言っていただけて、リリーナ様は幸せ者でございます」
「私はダニーはもちろん、コルネとミアナの事は信頼している。だがな、人はその環境に慣れ、新たな物が誕生すると古きを忘れるのだ。だからこそ、トワイライト王のことはしっかり見といてほしい」
「「はい」」
話の切りがよくなった時、妾が起きているのをコルネとミアナが見つけた。
ミアナはいつものようやに笑顔で近づき、妾を抱っこする。
「リリーナ様はスーペリアに行きたいでちゅかー」
『す、スペアリブ!!食べる、食べるぞ!!』
《現実:ちゅ、ちゅーぺりあ、ちゃべりゅ》
「す、すごい反応ですね。そんなにスーペリアに行きたいんですね」
『す、スペアリブ!!スペアリブ!!』
《現実:ちゅ、ちゅーぺりあ、ちゅーぺりあ》
「ほほほっ。これは、スーペリア行きは決まりですね」
コルネは笑いながらそう言った。
▷▷▷▷オーエン◁◁◁◁
私はトワイライト王国の王、オーエン•プリズム•トワイライト。
ふはは
はーっはっは
たった今、嬉しい知らせが入り、玉座に座る私は声を出して笑っている。
先日、第二王妃であるケプナーが男の子を産み、先程行われた神託の儀式において、『神の加護』持ちだったことが分かったのだ。
ここ1年、マデリアの陰謀により辛い想いをしてきたが、これでようやく悩みが晴れると思うと、自然と笑っていた。
第三王妃リタリーの子であるリリーナも『神の加護』持ちだが、マデリアの所為で呪いの影響が出ている。
ケプナーの子、第二王子であるネイサンが『神の加護』持ちであったのだから、リリーナは今しばらく様子見だな。
私が考えをまとめ終えた時、玉座の間の扉がノックされた。
「オーエン•プリズム•トワイライト王様、第三王妃リタリー様が入室を希望されています」
扉の向こうから兵士の問いかけがあり、私はリタリーの入室を許可した。
玉座まで笑顔で近づいてきたリタリーは、まだ若く元々美しいこともあるが、とても子供を産んでいるとは思えない色気を醸し出している。
「国王陛下、ケプナー様の赤子が神の加護持ちだと聞きました」
「その通りだ」
「では、これでリリーナを迎えにいけるんですね」
「•••」
私の沈黙に対し、先程までのリタリーの笑顔が徐々に消えていく。
「リリーナは呪いの影響を受けている。しばし、静観する」
「そんな。この9ヶ月、呪いなどなかったではありませんか!!」
「だからもうしばらくと言っておる。ケプナーの子、ネイサンであれば必ず元のリリーナに戻してくれると信じておる」
「•••」
「分かってくれ」
リタリーは瞳に涙を浮かべ、何も言わずに玉座から退出した。
リタリーは貴族位Eの下級貴族であり、ケプナーは貴族位Aの令嬢だ。
それであれば、ケプナーの子、ネイサンの方が優れた力を持っているに違いないのだ。
リタリーには私のこの考えが見透かされたかもしれないが、もうしばらくの間、待っておくれ。
そう言えば、リタリーに一目惚れした私は、大臣や他の貴族の反対を押し切り強引に結婚したんだったな。
ふ、ふふ。
懐かしい。
▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎
『神の加護』
その国に繁栄を齎らし、あらゆる災いから国を救う、そう伝承されている。
スーペリア王国のヴィクトルが言う通り、時間が経てば人の悲しみは薄れ、考えは変わっていく。
しかし、オーエンは知らない。
『神の加護』は、元来、前世までで相当の善行を成した者のみが神によって与えられるもの。
『神の加護』持ちの子が生まれる頻度は、数千年に1度であり、滅多に現れない。
そう、滅多に•••。
また、『神の加護』はあくまで個人に幸せを齎すものであり、伝承のような効果はない。
そして、リリーナの『神の加護』持ちは、眩耀神が転移する前にレコードを修正して授けたもの。
神より偉い悪神の眩耀神が自ら授けた加護と、伝承とは比にならない、本物の『神の加護』なのである。
もちろん、このこともオーエンが知るはずもなかった。
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