第13話 突然の料理
▷▷▷▷イザベラ◁◁◁◁
私は、イザベラ•マーヌル。
トワイライト王国の貴族位A、マーヌル家の領主。
また、お会いしましたね。
ふふふ。
さあ、もう直ぐです。
ウォード家の領主、ダニーの顔が見ものですね。
今私がいるのはウォード家にある庭園。
とてもよく手入れが行き渡っており、全ての花が色取り取りに咲き、芝生も高さが揃えられて、日差しに反射してとても綺麗。
庭園には5〜6名用の円テーブルが多く用意されていて、その円テーブルの周りには約500人の貴族が待機している。
円テーブルの最前にいる私は、これから起こることを考え、ほくそ笑むのを堪えるのが精一杯な状況。
ふっ、ふふふ
そうこうしている間に、屋敷のメイド達が立食用の大きな銀食器をいくつも運び始め、立食台の前には料理人も立ち始めた。
私は少し体勢を変え、横目で運ばれてきた銀食器の中身を覗き込んだ。
銀食器の中身は空だった。
ふふふ
予想では有り合わせで作ったような貧相な料理を用意すると思っていたが、まさか空の食器を並べるとは•••。
私と同じように銀食器を覗き込んだ貴族達も騒めき始める。
そこに、ウォード家の領主ダニーと、妻のルーシー、今日の主役である娘のルルーが現れた。
主役の登場に先程まで騒ついていた貴族達も笑顔で拍手を送り始める。
庭園に設置されたステージにダニー達が到着すると、ダニーが前に出て挨拶を始めた。
「皆様、今日は我が娘、ルルー5歳の誕生会にお集まりいただき、誠にありがとうございます。まず始めに、先程発生した火事に関して、皆様に謝罪をさせていただきたい」
く、くくく
笑いが止まらないわ
「我が家の調理場において、原因不明の火災が発生し、皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫びする」
火災発生の知らせと、貴族位Aのダニーの謝罪に会場が騒めく。
「火災による怪我人は幸いいなかったのだが、発生場所が調理場ということで、今日の日に用意していた料理が全て燃えてしまった」
このダニーの言葉にも貴族達は騒めくが、怪我人がいなかったことを安堵する声も多く聞こえた。
•怪我人がいなくてよかったわ
•不幸中の幸いだな
•けれど、今日の誕生会は中止かしらね?
私は貴族達の囁きに対して、少し大きめの声で言葉を発した。
「料理がないので、誕生会は中止ね。態々来たけれど、しょうがないわね。料理がないんでずもの」
•確かに料理がないんじゃ中止だな
•パーティーで料理が出されずに中止とは、初めて聞くな
私の発言を皮切りに囁き声は大きくなり、会場全体の騒めきを大きくした。
「皆さん、用意していた料理は確かに燃えてしまったが、新たに用意させていただいた。だから、安心してパーティーを楽しんで欲しい」
大きくなった騒めきの中、突然ダニーが発した言葉に貴族達は理解が追いつかない。
目の前の銀食器には料理が入っていないのだから、それは当たり前のことだった。
「ダニー、火災で色々あったのは分かるけれど、嘘は良くないわ。素直に料理がないので中止、それで良いのではなくて?」
この気を逃すまいと、私はダニーに向けて言った。
するとダニーは笑みを浮かべると右手の親指と薬指を擦り、パチンッと指を鳴らした。
その瞬間、眩い光が会場を包み込むと、銀食器の中には見たこともない料理が並べられていた。
「「「「おぉぉぉぉーーー」」」」
会場から大きな歓声が沸き起こった。
それと同時にメイド達が機敏に動き、来賓に対してワインやジュース等、飲み物を配り始める。
ど、どうして•••。
どこから現れたのこの料理は•••。
飲み物が行き渡ると、ダニーの乾杯の挨拶が始まるが、私の耳には一切届かない。
ただただ、目の前で起こった奇跡に愕然としていた。
いつの間にか乾杯の挨拶が終わると、貴族達が料理を取りに動き出し、立食台の前にいた料理人はその場で肉のような物を調理し出す。
「お、美味しいわ!!」
「し、信じられない美味しさだ!!」
「このような美味なる物、生まれてから初めよ!!」
料理を食べた貴族達から大袈裟な声が聞こえる。
貴族位Aに対し、おべっかを使っているのだろうが、余りにも大袈裟だ。
ふん
どうやって現れたかは分からないけれど、急拵えで作った料理が美味しいはずない。
こうなったら、食べてこけ脅してやるわ。
私は1番近くに合った料理を取ると、まじまじと見る。
確かに食べたことがない料理で、お肉のような塊に焼き目がつき、茶色のソースがかかっていた。
恐る恐る一口食べると、お肉の旨味とソースの甘味が口いっぱいに広がった。
「お、美味しい•••!!」
私は思わず言葉を口に出していた。
あまりの美味しさに呆然としている私の前に、スーペリア王国の国王ヴィクトル、王妃のマリーナ、王女のエリス、王子のヒューズが立っていた。
▷▷▷▷エリス◁◁◁◁
私の名前は、エリス•リンデ•スーペリア。
スーペリア王国の第一王女。
私の前には今、リリーナ様が用意した料理の味に愕然とし、あからさまに肩を落としているマーヌル家の領主、イザベラ•マーヌルがいる。
「あ、あ、その目は•••」
私に気づいたイザベラが、私の目を見て驚きとも恐怖ともいえる表情を浮かべた。
それは、イザベラだけではなく、周りにいるトワイライト王国の貴族達からも同じような呟きと表情が私に向けられる。
けれど、今の私はリリーナ様に授けていただいたこの目、浄化目を誇りに思っているため、周りの感情や目線は気にならなかった。
私は静かに浄化目に魔力を流す。
ズキッと目と目の裏の辺りから激しい痛みが襲い、思わず顔を顰めてしまうが、魔力を流し続ける。
魔力を流し終わった私はイザベラの瞳を見つめる。
「な、なんなの。や、止めて!!」
イザベラを見た私の虹彩は、藍色から赤色に変わった。
やはり、犯人はイザベラだったようだ。
「あなたが調理場に魔法を放ち、火災を発生させた犯人ですね」
「ち、違うわ。な、何を言ってるのよ!!」
「私は、火災発生の少し前にあなたが調理場にいるのを見かけました」
「う、嘘を言わないで頂戴!!いくら王族でも許さないわよ!!」
私は痛みに耐えながら更に魔力を流し、イザベラを大きく開いた瞳で見つめ続けると、私の虹彩は赤色から濃い緑色に変わる。
イザベラはふらふらと頭を揺らしながら、口を開く。
「わ、私がやったわ•••」
イザベラの自白に会場から今日1番の騒めきが起こる。
「どうしてそのようなことをしたのですか?」
「ウォード家が気に入らなかったの•••。娘同士が仲良いだけでスーペリアに取り入って•••」
•なんて卑劣な考えなの
•まさか、マーヌル家がこんなことをするなんて
•だから、夫をメイドに取られるのよ
貴族達からイザベラに容赦ない言葉が飛び交い、エリスは深いため息を吐く。
ここにいる多くの貴族に白目を裏でなじられていたエリスは、あなた達も対して変わらないじゃない、とイザベラにだけ聞こえる声で呟いた。
イザベラは真っ直ぐ私の目を見ると、少したげ笑みを浮かべ、そして静かに涙を流した。
その後、イザベラはウォード家の衛兵によって捕らえられ、会場の外に運ばれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます