第12話 りょうり、だちゅ
▷▷▷▷イザベラ◁◁◁◁
私は、イザベラ•マーヌル。
トワイライト王国の貴族位A、マーヌル家の領主。
マーヌル家に婿入りした夫とは離縁したばかりで、35歳、独身。
元夫は、よりによってメイドと駆け落ちした。
まあ、そんなことは私にとっては些細なことなのだけど。
私にとって許せないのは、同じ貴族位Aのウォード家。
娘同士が仲が良いという理由だけで、大王国であるスーペリアの王と王妃に懇意にしてもらっている。
私に子供はいない。
それが余計に腹立たしい。
私は身を粉にして働き、マーヌル家を貴族位Aまで伸し上げた。
それでも、スーペリアの王族に取り入ることは叶わなかった。
たかが娘同士が仲が良いというだけで、どうしてこの私が屈せなければならないのか。
腹立たしくてしょうがない。
だから今日、私はウォード家の失墜を狙って、ある行動に出たわ。
ウォード家の娘の誕生日パーティーには、トワイライト王国の貴族が出席する。
貴族開催のパーティーは、同ランク以下の貴族は必ず出席しなければならない。
即ち、最高ランクの貴族位Aのウォード家が開催したパーティーには全貴族が参加することになる。
この国では、パーティーは貴族位を測る場でもあり、成功は当たり前で、その内容も値踏みされる。
ふふふ
スーペリアの王族、トワイライト王国の全貴族が参加するこのパーティーで、もしも、料理が何も提供されなかったらどうなるのでしょうね。
私は遅延魔法が得意なの。
料理人が慌ただしく動いている調理場に向けて遅延魔法を仕掛ける。
あとは時間が経てば•••
ふふふ
無事、遅延魔法を仕掛け終わり、ほくそ笑む私の前に、スーペリア王国のアンデッド•プリンセスが現れた。
目撃されたことに一瞬焦るも、よく見れば両親である王と王妃はいない。
焦らせてくれたわね
まあ、あなた1人では何もできないしょうけど
それにして
『醜い目•••。よく生きてられるわね』
▷▷▷▷眩耀神(リリーナ)◁◁◁◁
ドッーーーーン
爆発音を聞いた妾が部屋を飛び出ると、調理場から炎が上がっており、料理人やメイドが逃げ惑っていた。
辺りは煙が充満し、皆、苦しそうに喉や胸を抑えて咳き込んでいる。
『まったく騒々しいな。この騒ぎをどうにかせねば、1人パーティーが始められそうにない』
『はい、です』
『はぁ〜、仕方あるまい』
妾は調理場に近づくと、魔法を放つ。
【テリオ•ブラスト(完璧な爆風)】
【テリオ•グレイシャー(完璧な氷河)】
爆発したかのように炎を上げている調理場に向けて、敢えて爆風を撃ち放ち炎と煙を相殺させると、氷でその場の熱を一気に下げた。
妾のそんな勇姿を見たコルネとミアナが慌てて駆け寄ってくる。
「リリーナ様、ご無事ですか?あまり無茶をされては、爺の心臓が止まってしまいます」
「リリーナ様。ご無事でよかったです。それにしても、僅か1歳でこのような大魔法が使えるとは、さすがです!!」
『この程度で騒ぐでないわ』
《現実:このちぇいど、ちゃわぐないない》
妾がコルネとミアナと話していると、その場にいた皆が安堵し、妾に礼を言ってくる。
ただ、安堵していたのも束の間、焼け爛れた調理場の惨状を目の当たりにした料理人は、膝から崩れ落ち、泣き始めた。
「料理が•••。全ての料理が駄目に•••」
「くそっ!!どうしてこんなことに!!」
料理人が打ち拉がれていると、騒ぎを知ったパーティー主催者のダニーが現場に戻ってきた。
そこには、パーティー会場まで案内する途中だったためか、ヴィクトル、マリーナ、エリス、ヒューズの姿もあった。
「こ、これは一体•••」
「申し訳ありません、旦那様。料理が、全て駄目に•••」
料理人はダニーの前で泣きながら土下座をした。
ダニーは料理人を責めるようなことはせず、ひとつひとつ、何が起こったのか聞いている。
その話の内容は、突然爆発が起こり、辺りに炎と煙が広がったというものだった。
「そうか。皆が無事でよかった」
「旦那様、本当に申し訳ありませんでした」
「話を聞く限り、お前達に責はない」
「そ、そうですが•••、料理人として料理がお出しできない以上、私は•••」
「もうよいのだ。パーティーに集まってくれた人には正直に事情を話さそう」
「私も一緒に説明させてもらう」
ヴィクトルはダニーの肩に手を乗せ、力強く言った。
「あ、あの」
その時、浄化目が開眼し、虹彩が藍色の美しい瞳に生まれ変わったエリスが少し迷いながら言葉を発した。
「どうしたんだい、エリス」
「わ、私、騒ぎが起こる直前に、マーヌル家の主が調理場の近くにいたのを見ました!!」
「な、なんだって!!エリス、それは本当かい?」
「はい。間違いありません!!」
「そうか。だったら、その瞳を使う時かもしれないな」
「はい!!」
ヴィクトルの言葉に、エリスは迷うことなく、力強く返事をした。
『これで、一件落着になりそうじゃな』
『いいん、です?』
『何がじゃ?』
『料理、です。神様シンから貰った料理、出すこともできる、です』
『かなりの人数が参加するパーティーのようじゃし、無理じゃろ』
『パーティーの参加者は約500人。神様シンから貰った料理も、500食分、なのです』
『が、が、が』
妾はその場で口を大きく開き、変な声を出してしまった。
『ご、500食!?』
『はい、です。神様シンも自分の命とひとつの惑星の破壊がかかってたので、奮発したの、です』
『それだけあれば、当分困らんの』
『パーティーに、料理、出さないのです?』
『そんな義理なかろうが』
『でも、です。きっと、ご褒美もらえる、です』
『褒美とは何だ?』
『褒美は、う〜んとです、お礼の品物を貰える、です』
お礼の品物•••
この世界での品物とは何だろうか?
ぐっ
気になる
しかし、妾の料理が•••
『料理はまた、貰える、です』
ダリアの言うことは一理ある。
確かに料理は神のシンに頼めばまた手に入るが、『褒美』とやらは、今回を逃せばもう手に入らないかもしれない。
ぐぐぐ
仕方ない
覚悟を決めた妾は、ダニーとヴィクトルの前に出る。
料理人はまだ泣きながら土下座していた。
やれやれじゃ
妾は泣いている料理人に指示を出す。
『皿を用意しろ。料理を出してやる』
《現実:おちゃらようい。りょうり、だちゅ》
「へっ??」
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