第9話 きみにょひとみ、きれーね
飲み会(誕生日パーティー)は、妾の完璧な挨拶もあり、皆、終始楽しそうに終了した。
そう、皆はな•••
妾は楽しみにしていたパーティー料理を食べたのだが、前日の夕食同様、不味かった。
肉は臭みが全開、スープは味が薄く、魚に関しては湯で茹でているのか、身に味はなく口当たりもフニャフニャであった。
皆が笑顔で妾を見てくるため、一応は食べた振りをして亜空間にいるダリアに全て転送した。
『おい、ダリア。これが料理というヤツだ。美味いと思うか?』
『とっても、とっても、不味いです。亜空間にドンドン送られてきて、正直、迷惑、です』
『不味いよな。妾の舌がおかしい訳ではないよな??』
『は、はい、です』
『なら、やはり妾に嘘を申した神のシンは殺さなければならないな』
『そ、それなのです、が、神様シンにダリアから連絡をしました、です』
『ほう。遺言はなんと?』
亜空間からダリアが慌てて何かを用意している音が聞こえる。
何をしようと、妾に嘘を申した罪は深い。
神であるシンを滅し、執心している異世界も破壊する必要があるな。
《や、やばい、です。世界が滅びる、です。しょうがないです。試食用としてもらったハンバーグ、という料理をだす、です。ダリアがこっそり食べる予定、でしたけど、しょうがない、です》
しばらくして、亜空間から何やら素晴らしい香りのする物が現れた。
これは食べ物なのだろうか?
いや、そうに違いない。
このどこか甘い香りが食欲をそそり、まだ熱を持っている肉のような物からは湯気が出ており、心が惹かれてしまう。
『これは、ハンバーグ、という料理、です』
※デミグラース付き
『ハンバーグ•••』
今は飲み会終わりの深夜。
部屋には妾1人しかいない。
ハンバーグと一緒に用意されたフォークを小さい手で掴むと、妾はハンバーグを一口大にし、口に運ぶ。
ピカーーーーーー!!
ハンバーグを噛んだ瞬間、無意識に妾の体から神気が溢れ、薄暗かった部屋が一瞬で明るくなった。
『な、なんじゃこれは•••』
噛んだ瞬間溢れる肉汁、肉自体にも抜群の味付けがされており、野菜の旨味も感じる。
極め付けはこのハンバーグにかけられている液体だ。
一言では語り尽くせないほどの旨味が広がっている。
これが、シンの言っていた料理なのか•••
人間に転移してまで食べる価値があるものじゃ•••
『それでです、神様シンから伝言を預かってるので、読みます、です』
シンの伝言では、シンが執心している世界でも料理は不味いらしい。
ただ、異世界から転移したマリー•アントワネット、そう15億年振りに妾の同族として誕生した少女が作る料理、それこそがシンの言う美味な料理であったのだ。
シンは1週間以内に今回のハンバーグを含む、様々な料理を大量に届けることを妾に約束した。
ダリアの話では、シンのヤツは相当慌てていたらしい。
自身も異世界も破壊されそうになったら当たり前かもしれんが。
ふふふ
いいだろう
破壊は無しにしてやろう
今から次の料理が楽しみだ
《眩耀神様の機嫌が直った、です。神様シンも異世界も助かった、です》
それから1週間後、シンからの料理が届いた。
まだ亜空間にあるため、妾は見ていないが、ダリアの話ではかなりの種類の料理と、スウィーツと呼ばれるものが大量に届いていると聞いた。
くくく
楽しみじゃ
しかし、タイミング悪く今日はルルーの5歳の誕生日ということで、屋敷には大勢の貴族を招いてパーティーをするらしい。
そのため、朝からその準備と貴族達の対応で屋敷はバタついている。
妾もパーティーに出なければならないのだろうか?
あんな不味い物を食べながら、知らないやつらと話さなければならないのか?
妾は部屋でシンから届いた料理を食べていたい。
コンコン
妾が悩んでいると部屋の扉がノックされ、そこにはミアナがいた。
ミアナはどこか寂しげな顔をして、妾を抱っこした。
ミアナは部屋を出ると、いつもとは違う動線を歩き始めた。
その動線は所謂裏方用らしく、屋敷の料理人やメイド達が忙しそうに走っている。
しばらく裏動線を歩いていると、ある部屋の前に辿り着いた。
ミアナが扉をノックすると、中からコルネの声が聞こえ、抱っこされたまま部屋の中に入った。
部屋の中には、コルネの他にダニーとルーシーの姿があったのだが、皆、ミアナ同様、暗い表情をしている。
「リリーナ様。今日はルルー様、5歳の誕生日パーティーが行われます」
コルネはどこか申し訳なさそうに話し始めた。
「それででございます。本来ならリリーナ様にも参加していただきたいのですが、リリーナ様はまだ御披露目前でございまして•••」
コルネは言葉に詰まり、辛そうな表情を浮かべ、妾から視線を逸らしてしまった。
『なんじゃコルネのやつめ。ダリア、何が言いたいのか分かるか?』
『はい、です。用は、世間的にリリーナはお披露目してないので、パーティーには出せない、だから、この部屋で大人しく待っていてくれ、です』
『なんと!!それは好都合じゃな』
妾はコルネを真っ直ぐ見つめる。
ミアナに抱っこされたままのため、目線は同じ位になっている。
『大丈夫じゃ。気にするでない』
《現実:だーじょぶ。きにないない》
「お、お、お•••。こんなに幼いリリーナ様が全てを悟って•••。それに比べ私は、最後まで伝えることすらできず。不甲斐ない爺ですね•••」
妾はコルネの頭を優しく撫でる。
コルネの目からは涙が流れ、それを見ていたルーシーは妾を抱きしめ、ダニーも天を向いて涙を堪えていた。
それから皆に一頻り抱きしめられた後、妾はようやく1人になった。
というより、無理矢理1人にしたのだ。
ミアナもコルネも手伝いがあるらしく、妾をを1人にしない策を講じていたため、無理矢理突っぱねたのだ。
《普通の1歳児じゃ、絶対に1人にはしないです。ただ、コルネもミアナも、眩耀神様が普通の1歳児とは違うと思っているので、1人が実現したの、です》
ただし、1人になれる時間は1時間もない。
早く食わなければならない。
『早く料理を出すのだ、ミアナ!!』
『ダメですよ、眩耀神様。万が一、誰かに会ってしまった場合に備えて、挨拶はしっかりするように言われたです。練習、です』
『挨拶くらい、できる』
『では、朝の挨拶から、です』
『おはようございます』
『次は、お昼の挨拶、です』
『こんにちは、今日も君の瞳は綺麗だね』
『んっ!?です。瞳、綺麗??です??』
『そうじゃ。昨日見た漫画ではそう挨拶していたぞ』
『そ、それは、ち、ちが•••』
コンコン
その時、扉をノックする音がした。
くそ
まさか、ミアナか!?
早すぎるぞ
妾は仕方なく返事をし、扉を開けると、そこには子供の女が立っていた。
中に人がいると思っていなかったのか、あからさまに狼狽する少女に、妾はお昼の挨拶をした。
『こんにちは。今日も君の瞳は綺麗だね』
《現実:こにちわ。きみにょひとみ、きれーね》
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