第8話 ぱーり、飲み会、幹事
『ま、不味い•••』
これがこの世界の料理•••
このウォード家は貴族位Aという身分の高い家らしい。
そのウォード家の料理が不味い•••。
しかも、この家の主、ダニー•ウォードの妻、ルーシーの皿から貰った料理のため、居候の妾に不味い料理を出した訳ではないのだ。
こんなもののために、妾は人間になったのか•••
許さない•••
料理なるものが美味しいと、妾に嘘を吹き込んだ神、シン•アントワネットだけは許さない•••
やつと、やつが今いる異世界ごと破壊するか?
《こ、これはまずいです。眩耀神様が、お怒りです。惑星が何個か無くなるかも、です》
妾が破壊の計画を立てていると、心配そうな表情でルーシーが話しかけてきた。
「明日の1歳の誕生日は、ここにいるみんなでパーティーをしましょう」
『パーティー!!』
《現実:ぱーり!!》
「コルネ様、ミアナ様、いかがでしょうか。大々的にできないことは存じておりますが、ここにいる皆で祝う位なら問題ないと思うのですが?」
「有難き提案でございます。誕生日パーティーと聞いた瞬間、リリーナ様の笑顔が戻ってきました。是非、この笑顔を守るためによろしくお願いします」
「準備など、色々とご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんが、私からもどうぞよろしくお願いします」
「では、決まりましたね」
ルーシーは満面の笑みで妾を見てきた。
コルネやミアナ、ダニーやルルー、それに周りにいるメイドまでが笑顔になっている。
妾のことを、そこまでして祝いたいのじゃな。
うむうむ
『パーティーのこと、よろしく頼むのだ』
《現実:ぱーり、よろしゅくおまいします》
周りから拍手が起こり、中には泣いている者までいた。
『ふむふむ。祝らしてやるかな』
《よ、よかった、です。眩耀神様の機嫌が直りました、です》
『してダリアよ』
『は、はい、です!!』
『パーティーの料理は美味いのじゃろうな!?』
『ダリアは料理を1度も食べたことないので分からない、です。ただ、パーティー料理といえば、料理人が1番力を入れる時、です』
『なるほど。なら、明日こそは美味い料理が食べれそうだの』
《だ、大丈夫でしょうか。一応、神様シンに連絡しておきましょう、です》
翌日、妾は人間マニュアルを確認していた。
パーティーといえば飲み会。
忘年会やら新年会、歓迎会に送別会と色々な飲み会があるそうだ。
その飲み会のどのページにも出てくるのが『幹事』という言葉。
幹事を調べてみると、お店の選定から料理のジャンル、参加者の調整から予算管理まで行う者らしい。
聞くだけなら楽そうだが、妾の読んでいるページの記載には、やれお店は綺麗じゃなくてはダメ、料理は、田中部長がお肉好き、鈴木本部長は魚好き、2人の要望を叶えなければならないなど、複雑な内容が書かれている。
しかも、文句は言う癖に、田中部長は5,000円しか払ってくれず、鈴木本部長に至っては3,000円で飲み放題付きのプランでなければならないと記載がある。
飲み会を1回開催するのに、こんなことを調整しなければならないのか•••。
妾はこっそり悪神の千里眼を使い、屋敷の様子を確認する。
「メイン料理の準備はできたか!?パーティー開催まであと2時間だぞー!!」
「テーブルのセットはできたのかしら!?急いで、時間がないわ」
「奥様から天気が良いため、庭園で開催する旨の連絡がありました。急いで日除けのタープをお願い」
「なんとか間に合いそうね。朝から何も食べないで準備を続けた甲斐があったわ」
妾の千里眼で見聞きしたのは、屋敷の料理人、メイドと言われる皆が慌ただしく動き続け、パーティーの準備をしている状況だった。
やはり、飲み会の開催は大変なんだのうー。
しかも、今は庶民である妾のために、こんなに懸命に準備をしてくれているとは。
ここはひとつ、神より偉い悪神の1人、眩耀神が有難い言葉でも授けてやろうではないか。
お昼に開催される飲み会まであと1時間程になった時、妾の部屋の扉がノックされた。
ミアナが扉を開けると、3人のメイド達を従え、ルーシーが部屋に入ってきた。
「さあ、リリーナ様、おめかしの時間ですよ」
『おめかし?』
《現実:おめかち?》
「そうですよ。今日はリリーナ様が主役なんですから、髪をセットして、綺麗なドレスを着るんです」
『主役!!』
《現実:ちゅやく》
「はい、主役ですよ。お姫様」
『おお、妾を姫と呼ぶとは、こやつもなかなかじゃな』
《現実:わたち姫ちゃま?なかなかにゃの》
「ふふふっ」
ルーシーが笑うと、ミアナや3人のメイドまでにこやかに笑った。
それから湯浴みをし、綺麗なエメラルドグリーンのドレスを着せてもらい、最後に髪をセットしてもらった。
『ドレスなるもの、動きずらいがどうなのじゃ?』
《現実:どれちゅ、どう?》
「「「「「かわいいーー!!」」」」」
『うむ、かわいいのか』
《現実:かあーい?》
「「「「「かわいいーー!!」」」」」
『キュンでーす、じゃな』
《現実:キュン、でしゅ?》
「きゅ、きゅん?」
「キュン?何だか、今の気持ちにぴったりな気がします」
「ええ。この可愛さはまさしく•••」
「「「「「キュンでーす!!」」」」」
《こうやって流行っていくん、です。ダリア、勉強になりました、です》
お昼になり、妾のための飲み会(誕生日パーティー)が屋敷の庭園で開催された。
参加者は妾に、ダニー、ルーシー、ルルー、コルネ、ダリア。
庭園に用意された綺麗なクロスが敷かれたテーブルの前に座る。
10名程の料理人が庭園に設置されたキッチンで慌ただしく1品目の料理の準備を行い、メイド達がテーブルに飲み物を運んでいた。
「リリーナ様。とても綺麗です」
「本当に素晴らしい」
ダニーとコルネは妾のドレス姿を見て、眼福な光景を見ているような、そんな表情をしている。
「かわいい!!リリーナ様。ルルーもキュンでーす」
ルルーはルーシーに教えてもらったのか、キュンでーす、と言いながら妾の腕を組み、くっついてきた。
「それでは、リリーナ様、1歳の誕生日パーティーを行います。リリーナ様、ご挨拶はできますか?」
ルーシーの言葉に、妾は当然と言わんばかりに胸を張ってその場に立った。
ただ、妾の背ではテーブルの下に消えてしまうため、近くに設けられた簡易な壇上に立たせてもらった。
ここなら全員、見渡せるの。
『皆のもの、今日は妾のために飲み会を開いてくれて感謝する。ダニー、ルーシー、ルルー、この場を提供してくれたこと、辱い』
《現実:きょは、あたちのために、あーとう。だに、るーちぃ、るる、たーじけない》
みんなが拍手し、挨拶が終わったと思ったコルネが妾に近づき、席に連れて行こうとする。
だが、妾はコルネが差し出した手を取らず、挨拶を続けた。
なぜだか分からぬが、これには皆、キョトンと驚いた顔をした。
《普通なら、開催してくれたウォード家への感謝が伝えられたので、挨拶は終わり、です。なので、みんながキョトンとするのは、ダリアも気持ちが分かるの、です》
『それから、昨夜から今に至るまで、料理の準備をしてくれた料理人の面々、テーブルセットや庭園での急な準備をしてくれたメイドの面々、この場を借りて感謝を伝えるぞ』
《現実:よりゅおちょくから、いままで、りょーりのじゅんび、りょーりにんのちと、あーとう。
てーぶゅる、おにわのじゅんび、めいどのちと、あーとう》
妾の言葉を聞いた料理人、メイドはみんな涙ぐみ、鼻を啜る声が響いた。
刹那の静けさの後、ウォード家のみんな、コルネとミアナ、そして料理人とメイドも全員妾に向けて拍手を送ってきた。
ふむふむ
幹事を労うのは、上の役目だからな
にしても、泣くとは大袈裟なやつらじゃ
そんなに幹事が辛かったかのー
《眩耀神様は知らない、です。この世界で、使用人達を讃えるなんて、ないこと、です》
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