第7話 まんま





▷▷▷▷眩耀神(リリーナ)◁◁◁◁





その日の夜、妾はウォード家の食卓に招待された。

いくら妻を治療したからとはいえ、居候にここまで親切にしてくれるとは、いやはや、ウォード家はなかなかやるものだ。



食卓では、妾の右隣にルーシー、左隣にはミアナが座った。

ルーシーは病み上がりだから無理はするなとみんなに言われていたが、妾の魔法はそんな脆弱なものではないわ。


病気はもちろん、体力、筋力まで修復しておるからな。


そのルーシーは、ずっと妾を見てニコニコしている。

余程、病気が治ったことが嬉しいのだろう。



に、してもだ。

明日で1歳になる妾の前には、皿だけは豪華になった離乳食が置かれている。



なぜじゃ。

なぜ、離乳食なんだ•••。



隣ではルーシーが久々に口にする固形物を嬉しそうに食べている。

その固形物が何かは分からないが、彩り良く盛られた料理は、妾の離乳食とはかけ離れた物だった。


もしや、食卓に招いておいて、妾達だけ冷遇しているのではないだろうか?



いや、隣のミアナの料理は、全てルーシーと同じ物だ。

ならば、やはり妾にはまだ離乳食卒業は早いということなのか•••。



はぁー

妾は溜息をついてルーシーを見つめる。

そして、呟いた。



『飯をくれ•••』

《現実:まんま•••》









▷▷▷▷ルーシー◁◁◁◁






眩い光に包まれた後、これまで私を蝕んでいた胸の苦しみ、息苦しさ、全身の気怠さが無くなった。


驚いたことに、病気が治っただけではなく、私は直ぐに歩けるようになっていた。


ここ数ヶ月、人に会うことすら数えるほど、ましてや自分の足で歩くなど、想像すら出来なかった。


私は嬉しくて、屋敷の中を歩き回った。

もちろん、住み慣れた我が家ではあったが、どこか懐かしく、温かい気持ちに包まれた。



嬉しさが込み上げ、夫のダニーや娘のルルーには止められましたが、私は皆様との夕食に参加することにしたのです。



そして、今、先程まで天使のような笑顔を見せていたリリーナ様が、私に向かってこう言ったのです。



「ママ」と



病気が治った嬉しさから、自身のことしか考えていなかったことを恥じました。



明日で1歳を迎えるリリーナ様。

まだ、1歳なのです。


神の加護を持ち、大人のような落ち着きを見せていたとしても、まだ子供。


お母様であるトワイライト王国第三王妃、リタリー様とは、生まれて直ぐ離れて暮らしていると聞いています。


そんな状況では、母を、ママを求めるのは子供として当然です。




私は何と声をかけてよいか固まってしまいました。

私だけでなく、メイドを含め、周りにいた者は「ママ」を求めるリリーナ様の声に皆、固まっています。



『飯をくれ•••』

《現実:まんま•••》



また、私のことを「ママ」と呼びました。

居ても立っても居られず、私はリリーナ様を抱きしめました。



「ここにいる間は、私のことをママと思って下さい」


『飯を•••』

《現実:まんま•••》



私はリリーナ様が母を思う気持ちを受け、涙が溢れそうになりました。

周りでも、涙を拭ったり、鼻を啜ったりする音が響きます。



ああ、せめて私が母親代わりになろう。

ルルーもリリーナ様を信頼しているようですし、私が母親のように接しても問題ないでしょう。



「コルネ様、ミアナ様。リリーナ様の成長は早いと聞きます。どうでしょうか、少しだけ大人と同じ食べ物を与えてみませんか?」


『飯を•••、いいのか!?』

《現実:まんま、いいの?》



私の提案を聞いた瞬間、リリーナ様の瞳は輝きを取り戻しました。

やはり、母親から食べさせてもらいたかった、甘えさせてもらいたかったのでしょう。


そんなリリーナ様の表情を見て、コルネ様もミアナ様も賛同して下さいました。




私は自分の前に置かれていた子羊のステーキをナイフを使って細かく切り分け、スプーンに乗せてリリーナ様の口まで運んだ。


元気よく、笑顔で口を大きく開けたリリーナ様は、パクッとステーキを食べました。



しかし、笑顔は一瞬で消えました。

子羊のステーキを食べたリリーナ様の表情からは血の気が無くなり、そのまま固まってしまったのです。


ああ、やはり、母親のことを思い出してしまったのでしょうか。

寂しさが蘇ってしまったのかもしれません。




この国の王女でありながら、身を隠すために崩れかけたボロ家に住み、洋服も身分を隠すために庶民と同じ物を着ていたと聞いています。


今日は我がウォード家への移動の日でしたが、ドレスを着ていませんでした。


万が一、何かあった場合に備えての処置なのでしょう。


しかし、それではあまりにも不憫過ぎる。




明日の1歳の誕生日についても『神の呪い』を考慮して行わないそうです。

本来なら、父である国王様、母である王妃様と一緒にお披露目を兼ねた豪華なパーティーを開催したでしょうに。




そうですわ。

なら、明日、我が家でささやかな誕生日パーティーを行いましょう。


そうすれば、リリーナ様に笑顔が戻るはずですわ。




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