紗奈ちゃんの裏話②
「行っちゃったね」
「そうね」
「……」
お兄ちゃんを乗せた新幹線がだんだんと小さくなっていく。
さっきまでは大きかった白い車体も、今では小指くらいの大きさ。
そしてやがては見えなくなってしまった。
『次の新幹線は──』
駅のアナウンスが流れる。
それに応えるように、他の見送りしていた人たちもだんだんとホームから姿を消していった。
「私たちもそろそろ帰りましょう?」
「うん……」
このままここにいる必要も無いもんね。
雪ちゃんに手を引かれ、エスカレーターに乗る。
「大丈夫よ。 すぐに帰ってくるわ」
「うん……」
これから、1週間も会えなくなる。
その間は雪ちゃんがいるけど、お兄ちゃんがいないのはやっぱり寂しい。
「それに毎日メールだってするんでしょう?」
「うん……」
確かに、毎日メールするって言ってた。
でも、SNSのやりとりなんてすぐに終わっちゃう。
顔も見れないし、お兄ちゃんも忙しいと思うし。
だけど、お兄ちゃんとは繋がりたい。
……どうしよう。
良い考えが全く思いつかない。
でも、いいお嫁さんになるには旦那さんの事も考えないと。
新幹線のホームで、雪ちゃんがそう言ってた。
自分の都合を押し付けちゃダメだって。
そして愛する人の帰りを信じて待つって。
だけど、今の私には出来ない。
出来るなら、今だってお兄ちゃんの声を聞きたい。
自分のわがままといいお嫁さんの理想のギャップ。
そのあまりにもかけ離れた距離に「うーん」と思わず、頭を抱えてしまう。
どうやら、お嫁さんになるにはまだまだみたい。
でも、いずれはいいお嫁さんになるもん。
すると、ポンポンと肩を叩かれた。
「良い考えがあるわ」
そう言って、ふふっと笑う雪ちゃん。
なんだろう。
その顔はなんだか、悪いことを考えているお兄ちゃんに似ていた。
***
もしもし?
聞こえる?
突然、こんなメール送ってごめんね?
声を聞かせたくて……それと、見送りの時はごめんね?
忙しい時に迷惑だったよね?
ごめんなさい。
それでね。 雪ちゃんからの提案で、ビデオメールっていうものを送ることにしたの。
これが初めてだから最初は短いけど、許してね。
私の知っているお兄ちゃんはいつも頑張っています。
朝早く起きて、私の分までのお弁当を作って、いつも大学に行ってる。 グータラな私じゃ絶対に無理だよ。
でも、お兄ちゃんは毎日ちゃんとやっているね。
それはね。 とてもすごいことだと思う。
だから、今回も絶対に上手くいくはずだよ。
関西でのプロジェクト頑張ってね。
バイバイ。
訳あって旅行する事になったのだが、毎晩届く幼馴染からのビデオメッセージが可愛いすぎてヤバい 綿宮 望 @watamiya
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