第2話 土嚢を盛れ
エリックが再び目覚めたときには夜の放送が始まっていた。
「—―大統領の会見をお送りしました。政府は次の地震が起きる前に堤防をさらに強固にするため、大統領令を発布すると宣言しました。国民は堤防に30個の土嚢を指定された地点に運んでください。これは国民の義務であり、明日の朝までに完了させてください。繰り返します――」
エリックは開いた口がふさがらなかった。
「土嚢積んだだけでどうにかなるなら苦労はないだろ…」
あきれ返っているエリックを背に、役人が土嚢についての説明のため、マイカ市にも訪れたようであった。周囲もざわつき始め、完全に日が沈んだ町が妙な活気に包まれた。
「マイカ市にお住みの方はC区画の堤防に土嚢を運んでください。詳しい場所は土嚢を受け取るときに係員に聞いてください。皆さんの運ぶ土嚢がこの国を救います。頑張りましょう!」
「冗談だろ…」
役人が大真面目に土嚢運びのレクチャーを始めたので、エリックは顎が外れる思いであった。
三日月島は文字通り三日月の形をした島で、C区画の堤防は三日月の内側の弧である、湾状の海岸すべてである。湾内の海岸すべてといっても、三日月島は直径10kmの円にすっぽり収まるくらいの小さな島なのでC地区はだいたい3kmとちょっとである。
土嚢はどうやら町のはずれの倉庫にあるようで、この計画が事前に準備されていたことを物語っている。係員は3人しかおらず長蛇の列が出来上がっていた。エリックが来た時にはすでにうんざりするほどであった。
「エリック、元気そうじゃん。」
「ナイクか、おはよう。」
「おはようって、おまえ…」
「さっき起きたんだ。大学の課題が終わらなくてね。」
「僕みたいに真面目にコツコツやらないからだよ。」
ナイクはエリックと同じ三日月工科大学に通う学生である。2人とも水資源学部で船舶学を専攻している。三日月島は耕地に限りがあり、食料の多くを海から得ている。そのため、海に出るための船を研究することは食糧問題の解決につながるのだ。
たわいのない会話に花を咲かせていると、さっきまでの絶望や焦りは幾分かやわらぎ、時間を忘れられた。
気が付くと、先頭まであと3人のところまで来ていた。
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