第5話 終焉と未来

 動物が突然変異してから学校は集団登校になり、親が順に付き添い登下校している。

 でも、今日はゆう一人だけ。

 冒険みたいでワクワクした。


 鷹は考える。


 こどもが一人家から出てきた。

 何故だ。人間は今や狩りとられる存在だ。最近はこどもが一人で外出しているのを見たことがない。

 なにかの罠か?


 まあ、こどもだけなら俺一人で充分だ。

 一呼吸した後、急降下してくちばしのどを攻撃しようと狙いを定める。


『シューー』


 優は微妙に揺れる空気を感じ、風切り音を聞き取ってとっさにタカブレラを前に向ける。


 鷹はこどもだと油断していた。眼前のタカブレラに対して体勢をなんとか斜めに傾け回避する。急降下でスピードを加速させたせいで身体を傾けるだけで精一杯。

 次の瞬間、視界には電柱が。今度は羽根を動かし身体を左に傾け、回避しようとしたが、あしゆびがコンクリートの塊に触れる。

 しまった! と思ったときにはもう遅かった。

 右の趾の感覚がない。

 そのままのスピードで一度空へと戻る。


 優はその様子を眼で追い、趾を痛めたことに気づく。

「鷹さ~ん、脚が痛いならパパが治してくれるからわたしのおうちにきてね~」

 雲ひとつない青空に精一杯の声で叫んだ。


 その頃、動愛家では捜索隊の編成が進んでいた。

めぐみっ! 早くっ! フルを乗せるバギーを用意してっ! スーは日差し避けに乗って!」

 ゆたかは手を動かしながら考える。優には何となく動物を惹きつける不思議な力みたいなものを感じる。病院に来るみんなに嫌われたことはないし、このこは足が痛いの。このこはお腹が痛いの。と的確に症状を言い当てる。生まれたときから動物と触れているから第六感のようなものが育ったのだろうか。

 だがそれはペットに対してで、野生の動物に通用するかはわからない。行き先はきっと廃工場だろう。急がなければ。

 冷や汗で額はびしょ濡れだ。


「ワード!先に優を追ってくれ!」

 すぐにワードは玄関を飛び出す。赤金色の毛をなびかせ颯爽と街を駆ける。


 鷹は鉄塔へ避難し、観察している。


 さっきの家から今度は犬が飛び出してきた。あの家に行けば趾を治してくれるのだろうか?

 人間は捕食する以外にも利用方法があるのか?


 優は、鷹さん足大丈夫かなぁ? と思いながら再び歩き出していた。


 熊と蛇は考える。


 何故、こども一人で歩いているのか? もしかして俺たちを捕獲するための囮か? それとも馬鹿なのか?  わからない……

 とりあえずいつも通り攻撃しよう。


 暗くて狭い建物の間から蛇が飛び出し、尻尾を細かく震わせ音を発しながら舌を出して威嚇に出た。


『シャーッ!』


 優はヘビットを装着しているから噛まれる心配はないが、顔が怖くて少し後ずさりする。


 熊は後ろの路地から襲うつもりで様子を見ていた。これは出て行って襲うべきなのか? 罠かもしれない。知能が上がったせいで余計なことを考えてしまう。


 躊躇していると、何かがこちらに走ってくる姿が見えた。

 犬か……犬ぐらいならどうにでもなる。


「優~!」


「もう見つかっちゃったかぁ」

 看板娘は舌を出して微笑む。


 ワードは他の動物がいる匂いを感じ取った。

「僕の背中に乗って!」

 傍に寄ってしゃがみこみ優を背中に乗せる。

「しっかり掴まっててね」


 そう言うと助走を取り、一気に蛇を飛び越えて駆け抜けた。


 熊と蛇は唖然とする。


「ワードの背中に乗るの久しぶりだねぇ!モフモフも風も気持ちいい~」

 保育園のときはワードの背中に乗ってよく遊んだと懐かしんでいると山田町の看板が眼に飛び込んだ。

「あの道を左だよ。その先を右に曲がったら工場があるはず」

 学校であそこには近寄らないようにと注意されているから間違いないと思い、優は自信満々に案内する。


「キーーーキューーー」

 鷹の鳴き声が澄んだ青空に響き渡る。


 入り口のフェンス扉は鎖で頑丈に閉じられている。

「入れそうな所を探そうよ」

 優は楽しそうに敷地際を歩いていると、少し進んでフェンスが破れているところを発見した。

 そこから侵入して、建物まで歩くと勝手口の壊れた扉が見え、そこから中に入る。


「いぬさ~ん! ねこさ~ん!」


 しばらくすると物陰から犬と猫が出てきた。確かにかなりの人数がいる。

 優は眼をキラキラ輝かせていた。ワードは念のため優を乗せていつでも逃げれる準備体勢をとる。

「みんなと仲良くしたいの。そこの猫さんは脚痛いの。そっちの犬さんは背中に違和感あるの。全部パパとママが治してくれるから、一緒に仲良くするの。もう一度人を信じて欲しいの。フルももう家族なの」


 そう言うとブルドッグが前に一歩出た。

「アニキは生きてるのか?」

頭をうんうんと上下にふる。


「ゆう! 無事か? よかった、間に合ったか」

後ろを振り替えると豊、恵、ルピー、スー、フルがいた。


「ちょうどいい。おれはここにいる人間に助けられた。みんなが人間を嫌い、ここにいるのは知っている。でも、動物に優しい人間もいるんだ。もう一度信じてみないか?」

 フルの黒い綺麗な毛並みが窓から差し込む光に照らされ、白く光り神々しさを感じさせる。


「アニキがそう言うならわかったよ」

 先ほどのブルドッグが近づいてくる。それに続き、他のみんなも同意してくれた。


「あ、そうだ! スーお願いがあるの。外を飛んでいる鷹さんが脚痛いのなってるから、説得しておうちにつれてきて欲しいの」

 スーは翼を一度広げて、了解サインの後、優雅にその場を飛びたった。

 

 豊は自宅に戻ってすぐ獣医大学の友達や愛護団体に連絡する。動物と共存できる場所を作りたいと。

 

 スーは熱心に鷹を説得した。

 鷹はその呼び掛けに答えてみることにした。

 豊は照れくさそうに窓に留まり、来院した鷹を治療してやった。包帯は目印にもなるしサービスした。


 熊と蛇は動愛家を観察していた。連日、犬や猫が出入りしている。包帯を巻いた鷹も飛び立った。怪我したときに行けば治療してくれるのだろうか。機会があれば一度顔を出してみようと決めた。


 ……


 目まぐるしく世界が変わっていく。


 生物同士の弱肉強食の地域。

 逃げた先。人間のみが生きる草食が主な都市。

 人間と動物が共存する都市。


 人間が原因で、世界は3つに別れて進んでいく。


 動愛動物病院には、いや、優のもとには今日もたくさんの動物が訪れる。

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頂点捕食者のヒトは食物連鎖内の位置を再認識する~絶対、生き残ってみせる!~ 宗像 緑(むなかた みどり) @sekaigakawaru

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