第11話 永遠に生きる少女
「 【彼ら】?!」
「…【彼ら】って?!」
ふたりは揃って黄道に聞き返した。
「その、【彼ら】って誰の事ですかっ?!」
「ジュン?!」
しかし
それに特に答える事もなく
「小湊」
「は、はいっ?!」
「この建物内の経路は覚えているか?!」
「…はい!」
黄道は美沙に問う。「では、この建物内の人形の配置はわかるな?」
「はい。大まかですが…わかります!」
「わかった。…俺の見たところ、この部屋には各時代の有名人の人形が置いてある。つまり、歴史になんらかの影響を及ぼした人物だ。他には、どこにどんな人形が置いてあるのかわかるか?」
「…はい。あの……」
美沙は少し考え込んだ。
「…ジュン、いきなり聞いても……」
圭一郎が言いかけた時
「この部屋を出て…まっすぐ行くと、廊下の突き当たりに階段があります。その階段を上がってすぐ右側の部屋には、日本の各時代の有名人たちが…。たぶん、それには芸能人も含まれていると思います。それからーー」
美沙の言葉は続く。
「ーーその隣りには…同じく各時代の、各国の有名人。その隣りの部屋にはーー」
「……すげぇ……」
説明を聞いている圭一郎は
はきはきと答える美沙の、その記憶力に感心していた。
ーーいつもは鈍臭いくせに……
「隣りには…なんだ?」
「ーーたぶん…学園祭の準備をしているのか…各クラスの出し物を飾っている部屋になっている筈です」
「学園祭?」
「はい。右から1-A、1-B、1-C。2-A、2-B、2-C。そして、3-A、3-B、3-C…です」
「…そうか」
黄道は何かを考えているようだったが
ふと
「小湊。この部屋の中を見て回れ」
指示をする。
「あの…この部屋の中を…ですか?」
「そうだ。俺は左から順に見ていく。君はケイと、右から見ていけ」
「は、はい!」
ひとつずつ
掛かっている布を外していく黄道に
「それって時間のムダじゃないの? だってこの部屋には各国の歴史に名前を残した有名人しか置いてないって……さっきジュンも言ってたじゃん」
圭一郎が言う。「調べるのなら、二階のーー」
「ーー各クラスの出し物のほうか?」
彼は尚も布を外しながら
「ここに、有名人しか置いていないと誰が言った? そこに、書いてあるだけだろう?」
圭一郎と美沙は顔を見合わせる。
「え? …だけど…二階は三部屋に区切ってあったけど、この部屋は、無駄にだだっ広い一部屋だけだし。それに、置いてある案内には 【各国の有名人】ってプレートが置いてある。さっきから見かける人形は、リンカーンとかナポレオン。ヒットラーとか。後ろの列にはフランスのマリーアントワネットの展示が……」
「いいから小湊としっかり見ていけ。明らか他とは違うモノがあった場合には言え。いいな?」
「……」
ーーこんなの時間のムダ…だって……
次々に布を外し、露わになる蝋人形たち。
「…ここら辺はほとんどが女の人だ。ドレスを着た女の人……」
ーードレス?
「どうした? ケイ……?」
圭一郎はひとつの布の前に立ち止まっている。
「圭一郎くん?」
「どうした?」
圭一郎は
「……ジュン。これだ」
やがて
静かに口を開いた。「…これは蝋人形じゃない……」
「本当か? ケイ」
「蝋人形じゃない?! でもここは蝋人形館でしょ?! じゃあ、なんなの?!」
黄道と美沙は圭一郎の傍にやって来る。
足元には【モナコ公妃】のプレートが置いてある。
他の人形は椅子に座っていたり、立っていたりと様々なポーズをとってはいるが
これだけは布の位置が低く細長いケースに入っているように見える。
奥に位置しているからか
表からは見えにくい場所に置いてある。
ーー目立たないように。
黄道は
掛かっている布を外した。
白いドレスに身を包んだ人形が
ガラスで作ったケース=棺に横たわっている。
「…モナコ公妃?」
「グレース・ケリーだ」
3人は棺を見つめたまま
その場に佇んだ。
「…だけど、展示作品が棺に入っているなんて悪趣味だわ……」
「…彼女はーー」
美沙の横で黄道が話し出す。
「アメリカの女優だった。後にモナコ公妃になったんだが、自動車事故で亡くなった。だが、死因は脳溢血だった…とも言われている」
「これってーー」
続けて圭一郎が話し出す。「亡くなった彼女をモチーフにしているんだよ。死んでも尚、彼女はとても綺麗だったから……」
黄道は圭一郎を黙って見つめている。
「…この顔もとても穏やかで綺麗だね……」
「…ある意味、彼女はこの棺の中で永遠に生きている。正確には…眠り続けている…そんな風にしたかったんだろう」
「…だけど、ジュン。ここにあるかも知れないってどうしてわかったの?」
「思い込みだ」
圭一郎は首を傾げる。「…思い込み?」
「プレートに【各国の有名人】と書いてあれば誰もそれを疑う事はしないだろう。実に人間の心理を突いている」
「そっか……」
ふたりの横で同じように見ていた美沙は
「ですが警部、どうしてこれが相田 ゆかりだと思うんですか?」
その問いに
「昔写真で見ただけだが。実際の彼女の髪は金髪だった気がする。だがこれは明るめの茶色だ」
「あ……」
「手首や棺の中には紅い塊が、そこ、かしこに散りばめられている」
黄道の答えに美沙は首を傾げた。「紅い石……?」
「たぶん、彼女の血液だ。鑑識で調べれば簡単にわかるだろう」
「け、血液?!」
美沙はその棺に横たわっている少女の姿をまじまじと見つめた。
紅い石は彼女の首に。
両手首に。
身体の周りに。
一見
花びらのように
散りばめられている。
「…これが人の血液って……」
「量が多すぎて棺の中にも入れたんだろう」
「…にも……?」
美沙は聞き返した。「警部! それだと紅い石は他にもあるみたいじゃないですか?」
黄道は棺の中の少女を見ながら
「たぶん…【彼ら】の身体にな」
つぶやいた。
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