第10話 彼らを見つめる目
黄道たちが
足を踏み入れた建物の中には
白い布が掛けられて
規則正しく何かが並んでいる。
「…ケイ。迂闊に入るな」
黄道はポケットから拳銃を取り出し
それを構えながら
その先についている懐中電灯を点けた。
そして
部屋の中の一点を灯りで照らす。
彼らを取り巻くモノ。
「これはーー蝋人形……?」
光に浮かび上がってきたモノは多数の蝋人形だ。
「ボクの感じた、たくさんの魂はこれだったんだ……」
圭一郎が呟く。「…この人形達の中に宿っている魂……」
こうしている今でも、たくさんの人形 ( ひとがた ) が
彼らの目の前を歩いて行っている。
それはーーこの建物に近づいた時から
建物の中に入ってからもずっと
圭一郎の右目には視えていた。
「ここに……彼女の身体があるのか?」
「……ごめん。わからない」
圭一郎は一体の人形を指差した。
「だけど…見てよ。歴史に出てくる人がいるよ」
黄道は一体一体布を外し、丁寧に見て回っている。
「そうだな。リンカーン大統領の人形もある」
「あ、これはナポレオンだ」
ふたりは並んでいる人形たちの中央で立ち止まり
ライトを当てながらそれらを見回した。
「ここでは時間が止まっているのか……」
その頃
「日も暮れてきた事ですし。生徒達も皆、家に帰しました。ですからあなたも早々に引き上げてください」
美沙は校門からひとり
閉め出されようとしていた。
「…でも……まだ警部と圭一郎くんが……」
校庭に乗り入れていた車は
既にそこに停まってはいない。
女教師は校庭をぐるっと見回しながら
「きっともう帰られたんでしょう。あなたも早くお帰りください」
ーー ガラガラガラ……
「ではご機嫌よう」
「…あ、あの……」
ーー ガチャン!!
無情にも彼女の目の前で
門は閉じられた。
その後、丁寧に鎖を巻いて鍵をかけている。
仕方なく
美沙は、とぼとぼと歩き出す。
「ふたりとも黙って帰っちゃうなんて……薄情だわ」
携帯で黄道にかけてみるも
「…圏外……」
しかし
曲がり角を曲がった所で
「…あれ?」
自分たちの乗ってきた車を見つけた。
車の中には、帽子を顔に乗せたままで
寝ている運転手の姿が見える。
「なによ、帰ってないじゃない……だったらまだーー」
美沙は学園を振り返る。「やっぱりあの建物の中に……」
「…わたしも戻らないと!」
踵を返し
今来た道を戻って行った。
「…さて。どうしたものかな。この中に彼女がいるのなら、俺たちは捜さないといけないが」
「ここの人形の中に、気になるものはないよ」
「そうか。ここに置いてあるのは歴代の有名人だけのようだな。見当違いか……」
「ごめん。ボク…魂が多すぎてよくわからないよ」
ふたりはその場に座り込む。
「せめてここに小湊がいれば、どこにどんな人形が置いてあるのかだいたいわかるんだが……」
言いかけた黄道に
「小湊……? あのおばさん?」
圭一郎はもう一度、聞き返す。「あの、トロいおばさん?」
黄道は微笑みながら口を開いた。
「そう言うな。…彼女はああ見えても地図や記号を写真のように記憶するんだ。だからーー」
その言葉に
「それでボクの名前も間違えてたのか。 『圭』の漢字をカタカナの 『 キ 』だって…」
圭一郎は考え込みながら言う。
「多少、無理はあるが…まぁ、そうだ。ここに来る前、俺はあいつに学園の地図を何枚か見せた。その中には、この建物の地図もあったかも知れない。それをあいつが覚えていれば……」
圭一郎は辺りを見回しながら
「だけど…地図なんてとっくに忘れちゃってるかも知れないよ? あの人、ボクと中庭にいた時だって地図知ってたみたいには見えなかったし……」
圭一郎の言葉に黄道は微笑む。「…それが女の怖い所だ。しらばっくれるのが上手い」
「それ…ジュンの買いかぶりすぎ」
「そうか?」
黄道が言いかけた時
「警部! 圭一郎くん?!」
裏口から
美沙の声が聞こえてきた。
「ここだ。よくわかったな」
黄道は美沙の顔に
周りを照らしていたライトを当てる。
ぼうっと幽霊のように
暗闇の中で彼女の顔が浮き上がり
「警部! 止めてくださいよ!」
美沙は咄嗟に手で顔を庇った。
「あはははこわ〜っ!!」
圭一郎が笑っている。
「だけど、ボクらがここだって、よくわかったね?」
美沙は灯りに照らされながら
圭一郎たちの傍にやって来る。
「地図、見せてもらってたから。それよりも、電気点けないと。これではどこになにがあるのかわからないじゃないですか?」
そして
暗闇の中ーー
「…確かここにスイッチが……」
美沙は手探りでスイッチの場所に歩いて行く。
「あ、あった!」
「おばさん?!」
「よせっ!!」
ふたりの制止を無視し、美沙は電気を点けた。
パッと室内が明るくなる。
天井には、直径2メートルぐらいのシャンデリアが煌々と光を放っており
建物内、全てが大理石で出来ていた。
空気がひんやりとしているのは
空調設備がきちんとされているからだろう。
「ボクら一応忍び込んでるんだから電気を点けるのはやばいんじゃ……」
「…小湊……」
呆れる黄道と圭一郎。
「…だって。真っ暗じゃどこになにがあるのかわからないじゃないですか?」
美沙は笑いながら答える。「それに、もうみんなとっくに帰ってますよ」
「みんなが帰ってたって警備員さんがいるじゃん。…このままじゃ見つかるよ……」
未だ心配をしている圭一郎に
「ケイ…無駄だ。それにーー」
「だってジュン……」
黄道は続ける。「一旦電気を点けた時点で俺たちの侵入はバレている」
「…バレてる?」
美沙は呑気に言う。「それって誰にですか?」
「屋外にいる【彼ら】に…」
黄道は冷静に答えた。「おそらく皆、ここに来ている」
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