第12話 山の男3
チャーリーの提案に返事をして、付いて行くことにした俺。もしだが。ここでチャーリーに付いていかなかったら。数日後山の中で息絶えていた可能性もある。俺は帰るところがないのだから。天気が悪ければさらに早く息絶えていたかもしれない。もちろん頭の隅では、チャーリーに付いて行っていいものか。大丈夫なのだろうか?というのもあったが。これは俺の直感だが。この人は大丈夫と何故か思っていた。ほんとなんとなくなんだが。大丈夫と思ったのだった。
ここで俺はチャーリーに付いて行く決心をしたため。この山で息絶えるということがなくなったのだった。
★
俺はチャーリーに付いて山道を歩いた。さすがに大人に付いて行くのは大変だった。一歩が違う。チャーリーはそこそこの年齢。70代くらいに見えるが歩くのはしっかりしており。多少の段差ならどんどん進んで行った。ちなみに歩きながら今日はテミスまで行くということを聞いたところだ。
「マナアキはテミスに行ったことあるのか?」
「ないかな」
「そうか。じゃあ楽しみにするんだな。凄いぞ。あっ。ヨイキテンツチッカの町を先に通るがなマナアキはヨイキテンツチッカは知っているんだったか?」
「う、うん。少し」
本当は隅々まで知っている。でも今の俺はわからない子である。多分隠している事はなんとなくチャーリーにはバレている気がしたが。チャーリーはその後も何も言ってこなかった。それに今思ったが。俺の身体にある怪我。あとボロボロの服を着ているしどう見ても訳あり。というのは気が付かれていたと思う。でもチャーリーは何も言わず普通に接してくれた。
チャーリーとともに話しながら山道をしばらく歩くと――よく知った町並みが遠くに見えてきた。
どうやら俺は1人で山の中を歩き回っている間に、完全に歩く方角を間違っていたので、ヨイキテンツチッカに戻ってこれなかったらしい。ちなみにチャーリーと歩き出してから約3時間くらいして町が見えてきたのだった。ホント真逆。遠くに遠くにと俺は知らず知らずのうちに歩いて行っていたらしい。少し前までは『山に自分は居るので、山を下れば大丈夫。または川に沿って進めば』などと思っていたが。あのまま進んでいたら本当に大変な事。誰にも会うことなく息絶えていたかもしれない。ちょっと怖さを感じていた。
まあ怖さを感じつつも、ヨイキテンツチッカの町を遠くからでも見ると安心する風景だった。そして町が近づくと道も良くなってきて、歩きやすくなったが。それと同時に俺は不安になっていた。
俺はこの土地は名前しか知らないことになっている。だからあまり目立たないようにチャーリーの後ろを歩いていたのだが……先ほども触れたがそもそも俺はボロボロの服を着ている。少し破れたり。多分燃えて出来た穴。あと歩き回ったからか出来たであろう擦り傷。そもそもその前からあった傷が身体にある。治療してあったところの包帯などは、いつの間にか外れて無くなっていたが。怪我は見ればわかるレベルだ。まあこういう姿をしている子供はいないことはないので、気にしなければかもだが。さすがに目立つだろうと俺は思っていたし。そもそも俺の事を知っている人が町中にいるかもしれない。孤児院からあまり出ることがなかった俺は孤児院に来てくれる人以外とはあまり接点がなかったが――それでも全く接点がないわけではなかった。だから気が付かれるのでは?と思いつつチャーリーの後ろを歩いていたのだった。
ヨイキテンツチッカの町は通常は賑わっているというより。静かな町。落ち着いた町だ。お祭りなどがあれば賑わうが日常的ににぎわっている感じはなく。のんびりした時間が流れているのが普通なのだが――少しぶりに見るヨイキテンツチッカの町の雰囲気は今までとは違った。
「うむ?何事じゃ?バタバタしておるの。いつもは静かな町なのに。祭りではないの。祭りの雰囲気はないからの」
変な雰囲気のヨイキテンツチッカの町を見たチャーリーも町中を歩きながら戸惑っていた。町の中がバタバタしていたからだ。
まあそれもあって幸いなのか俺とチャーリーは特に声をかけられたり。俺の方に視線が――ということなく。そのまま町の中を通り町の外れ。ヨイキテンツチッカからテミスに向けての馬車に乗れるところへとやって来た。馬車に乗る場所があるのは俺も知っていたが。来るのは初めてだった。ちなみに馬車に関しては稀に教会のところまで荷物を運んでくることがあったのでそれで見たことはあった。
馬車に関して知っている事を話すと。屋根とかがある豪華な馬車もたまに町の中で見ることがあるが。今俺とチャーリーの目の前にある馬車はよくよく町で見るタイプの馬車。屋根がなく簡単なつくりの馬車だ。荷物を運んでいることがほとんどだが。お金を払えば人も乗せてもらえる。乗るのにお金がかかるということは、孤児院生活だった俺からすると馬車に乗るということは初めての経験だった。
「……馬車なんて始めて乗った」
そのためちょっと馬車の荷台に乗ると感動していた俺だったりする。すると俺のつぶやきが聞こえたらしくチャーリーが少し驚いた感じで話しかけてきた。
「マナアキ馬車は初めてか?」
「うん。見たことはあったけど――乗るってことはなかったと思うから」
「そうか。そうか。そりゃよかった。馬車はいいぞ。歩くと何日もかかるところを寝ている間に連れて行ってくれるからな」
チャーリーはそう言いながら荷物を置くとそのまま荷台の柵にもたれた。そして馬を操る人に支払いをしていた。その間に俺はチャーリーの真似をするように同じく馬車の荷台の柵に持たれながら座った。
「若いのちょっといいかの」
「はい。何ですか?」
チャーリーが馬を操る若い男性。そうそうこれはあとでチャーリーから聞いたことだが。馬を操る人は
「ヨイキテンツチッカはなんかあったのか?今日はやけに騒々しかったな」
「あー、なんか教会?だったかな?大きな火事があったみたいで、かなりの人が亡くなったらしいよ。辛いこったな。俺より小さい子供たちも何人も居たらしくてな」
町の中心部の方を見ながら馬を操る若い男性はぼそりと答えた。ちなみにそれを聞いていた俺は、口には出さなかったが『それは教会じゃなくて……孤児院だよ』と、心の中で答えておいた。すると話を聞いたチャーリーが少し慌てた様子で再度馬を操る若い男性に問いかけた。
「教会——それは聖女のアネヘラ様が居るところか?」
俺と会ってからずっとニコニコしていたチャーリーの様子が少し変わったため。俺もチャーリーと馬を操る若い男性の方をちらりと見た。
「あー、お客さん。悪いね。俺こっちに住んでなくてね。あまりここの事は詳しくはないんだよ。さっきちらっと火事の事も荷物を渡した町の人に聞いただけでね。でも――聖女さんは関係なさそうだったかな?アネヘラさんだっけ?確かここの聖女さんだよな?聖女さんになんかあったらもっと騒いでるだろうからね」
「そうか。それもそうだな。彼女も元気にしておるといいが」
馬を操る若い男性の返事を聞いたチャーリーはほっとしたのか話し方が元に戻った。聖女さんとチャーリーは知り合いなのだろうか?ちなみに俺も聖女さんの事は知っている。そしてヨイキテンツチッカにも聖女さんが居る事も。でも――会ったことがないし。教会の方へは俺は行ったことがなかったためわからなかった。あと、大人たちが話していたが。最近ヨイキテンツチッカの聖女さんだけではないが。どこの聖女さんも忙しいとか言う話を聞いた気がする。だから前より会えることが減ったとか。
「聖女さんかー。そういえば俺は少し前にシッカジモアに言った時に見たかな。前は結構どこ行っても聖女さんは居たって話だけど、最近じゃ教会に縁のない俺なんかじゃそうそう会えないんだよな。癒してもらいたいよ。ってか、お客さん聖女さんと知り合いなの?」
すると今度は、興味ありげに若い男性がチャーリーに聞いてきていた。まあ俺は2人の話には入れそうな感じはなかったので、大人しくしていることにした。
そうそうあと孤児院で聞いた話を追加すると。聖女さんとは神様に近く。不思議な力を持っているとか。まあ聖女さん以外にも町には不思議な力を持っている人が居るとかいう話も聞いたことがあるが。あー、そうそう、国王が居るところには不思議な力を持っている人が居るらしい。まあ俺には無縁。関係ない事なのであまり気にしたことがなかったのでわからないが……そもそも今の国王はあまり出てこないとかで見たことすらないから全く知らない。
まあ噂だが一番よく聞く不思議な力とは――魔法が使えるとか。何もないところで火をつけたり。水を出したりできるとか。あとは、癒し?だったか。治療?なのかは見たことないのでわからないが。そんなことが出来る人が居るらしい。何の力もない俺からしてみると『ホントにそんなことあるの?』という感じだが。
そもそも実際に不思議な力を持つという人の多くは、何も力のない人より優遇されるため。田舎町には居ない。どんどんテミスの方に行くとか。だから俺は今までそういう不思議な力とか言うのを見る機会はなかった。
俺がいろいろ思っている間もチャーリーと馬を操る若い男性が聖女さんの事で話していたが。どうやら2人は聖女さんとも会ったことあるし。その他の不思議な力を持つ人の事も知っているらしく。馬車が動き出すまで話が弾んでいたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます