第11話 山の男2

 俺は山の中で一夜をあかした。

 もしかしたら野生動物とかに食べられるかも……。なんてことを寝る前にちょっと思ったりしたが。考えてすぐ。そういえばあまりこの山では人を襲う動物は居ないことを思い出した俺は普通に川の近くの石の上で休んだ。そもそも普段から孤児院の大広間。石の床に寝ていたので、特に外で、それも石の上で寝るのには問題はなかった。まあさすがに少し寒さは感じたが。でも真冬ではなかったので風邪をひくこともなかった。


 俺が背伸びをしつつ。ガチガチになった身体を伸ばしつつ起き上がり。あたりを見ると――空は快晴。そして気持ちい風が吹いていた。今日の予定は、とりあえず川を下るである。それでヨイキテンツチッカの町に着いたら――などと思っていたが。すぐには俺は歩き出していなかった。


「居なくなったことをなんと説明したらいいのだろう?」


 起きてから少し。俺はそんなことを考えつつまた近くの木になっていた木の実をつまんでいた。ちなみに、先ほど少し寝ていた場所からは移動した。何故かというと、寝ていた近くの木の実は甘くなかったから。どうやら日当たりなどもあるのか。似たような感じ。実の色でも甘さが全く違った。もしかしたら別の何か――と思ったが。少し移動したところの木の実はまた甘かったので、俺は甘い木の実があるところで座りつつ。近くの葉っぱで作った受け皿にに木の実を集めて来て、石の上で木の実をつまみながら考えていた。

 本当は気にしなくてもいい事かもしれない。でも俺は無駄に考えてしまっていた。すると――。


 ガサガサ……。


 急に俺の背後で物音がした。まさかの、知らない間に、何かの動物の縄張りに入ってしまったのだろうか。いや、この山にはそういうのは居ないはず。いや、でももしかしたら、自分が結構な山奥に来ている可能性もあり。町の人が知らないだけということもあるかも――などと俺は思いつつ。木の実を食べるのをやめ。あたりを警戒した。ここで野生動物が出てきた場合逃げれる自信はなかったがとりあえず近くに棒。木の枝とかがないかとキョロキョロしていると――。


「……誰か居るのか?」

「————えっ?」


 聞こえていたのは獣の鳴き声などではなく。誰か。人の声が聞こえてきたのだった。   


 俺は声の聞こえた方の茂みを見ていると――草が動き。すぐに大きな荷物を背負ったおじいさんが現れて『おお、こんなところ子どもか。たまげたな』そんなことをつぶやきつつ。こちらに手を振りながら声をかけてきたのだった。


「……助かった」


 人の姿を見た俺はそう呟きながら警戒を解いた。そして大きな荷物を背負ったおじいさんが近寄って来て、自分の背負っていた荷物を地面に置き優しく話しかけてきた。


「お前さん。こんなところで1人か?」

「あ――はい」


 返事をしてから、この返事で良かったのだろうか?子供が1人は怪しまれないか?いや俺そこそこ大きく見えなくは――ないか。などと俺は思ったが。俺の前に居る大きな荷物を背負っていたおじいさんはニコニコとした表情のまま。こちらを全く怪しんでいる雰囲気はなかった。


「そりゃ驚いた。どこの子だ?結構な山の上じゃぞ。1人で何しとるんだ?」

「あっ……えっと――」


 俺は大きな荷物を背負っていたおじいさんに聞かれて少し考えた。普段なら孤児院のことを言えばいいが。あそこはもうない。焼け落ちた光景を思い出す俺。果たして、孤児院を名乗っていいのか?と、考えた俺は……。


「その――わからなくて……気が付いたら……」


 突然の記憶喪失の設定ではないが。パッと頭に浮かんだのは、何故か孤児院には触れない方が言いという直感だった。けれどこんな曖昧な答えでは、大きな荷物を背負っていたおじいさんが怪しむ。答えた後にそんなことを思ったが。不思議なことに大きな荷物を背負っていたおじいさんは全く顔色を変えずそのまま俺に話しかけてきた。


「ほう。そりゃ大変じゃの。お前さん名前は何というんじゃ?」

「……名前は――マナアキ」


 ここは偽名ではなく。ちゃんと自分の名前を名乗った。まあこの名前が本当の名前かはわからないのだがね。でもまた何となく。偽名を使う必要はないかなと直感で思った俺だった。


「マナアキか。わしはチャーリー。この先のマウノッヤに住んでおる爺だ」

「——マウノッヤ?」


 マウノッヤ……聞いたことあるような……ないような、と俺が思っていると。


「マナアキは本当に1人なのか?おっ、これは美味い木の実だな」


 足元に石の上にあった木の実を見つけた大きな荷物を背負っていたおじいさん。チャーリーと名乗ったおじいさんがしゃがみ『美味いの』と、言いながら木の実を摘まんだ。俺はチャーリーがしゃがんだためつられるようにしゃがんだ。


「……わかんないけど、1人になったみたい」

「そうか――行くとこはあるのかの?」

「……」


 チャーリーに聞かれて、ふと考える俺。孤児院が無くなった今。俺はどこに帰ればいいのか。どこに行けばいいのか。あの時動き回らずにあの場に居れば何とかはなったかもしれない。でも俺は動き回っていた。さらに既にかなりの時間が経っている。もしかしたら戻ったところで、俺が孤児院の子とわかってもらえないかもしれない。俺はこの後どこに行けばいいのだろうか……。


「……ないかも」


 考えた結果俺は小さな声でそんなことをつぶやいた。すると何故かチャーリーはニコニコしたまま。


「なら、わしと来るがいい。そうじゃ。一緒に行こう」

「——えっ?」


 一瞬何を言われたのか俺はわからなかったが。とりあえずチャーリーの方を見た。するとチャーリーは俺が集めてきた木の実をさらに食べつつ話し出した。


「わしはずっと1人でなー。子供らでもおったらマウノッヤの家で死ぬまで居るつもりだったが。最後に旅に出ようと思ったんじゃよ。それが今だ。昔から行ってみたいところがあってな。ちょっくら頑張って行ってみようとな。まあ爺のくせにちょっと旅に出ると言いつつドキドキじゃがな。はっはっはっ」

「——旅?」


 チャーリーの話を聞きながら俺は「なるほど。チャーリーの荷物が多いのはそういうことか」と理解し。俺も木の実を食べながらチャーリーを再度見る。


「そこは、はるか遠くにある島国でな」

「島国?」


 俺がら聞くとチャーリーは『そうじゃそうじゃ』と、そんなことを言いながら、持っていた荷物の中から折りたたまれた紙を取り出し。地面に広げた。どうやら——地図?手書きの地図らしい。ヨイキテンツチッカの周辺の地図は孤児院の壁に貼ってあり。見たことがあったので何となくは知っていたが。今見ているのは、もっと広い範囲で書かれているみたいだった。そもそも孤児院にあったのはヨイキテンツチッカから大きな町。テミスの方面だけだった。他は書かれていなかったはずだ。


「そうだ。今わしらが居るところも島国言うところだがな。こういう島は他にもたくさんあってな。わしが行ってみたい場所はの。今わしらが居るこの場所から――山を超え、ヨイキテンツチッカからテミス。さらにそこから進んで行って、シッカジモアの港から船が出てるんだよ」

「ヨイキテンツチッカ……」


 俺が今のチャーリーの話で知っていたことは、孤児院があったヨイキテンツチッカ。ここはもちろん知っている。あと話を聞きながら思い出していたテミスも……大きな町。国王が居る場所。というのだけは俺は、聞いたことがあり知っている。ちなみにテミスには行ったことはない。また、シッカジモアというのは始めて聞いた場所だった。


「シッカジモアからはな。何日も船に乗っていくんだ」

「船」


 船はわかる。だが乗ったことはない。


「そうだ。船に乗って行くんだ。どうだ?子供が1人増えようが問題ない。行く当てもないなら爺と来るか?ほら、マナアキ。歩けるか?何かの縁だ。一緒に行こう。楽しい旅になるぞ」


 俺が次々チャーリーの話の中から出てくる知らない言葉などについて考えているとチャーリーはそう言い立ち上がり。地面に置いていた荷物を背負い直した。ちなみに俺が集めた木の実はいつの間にかなくなっていた。まあ特にそれはいいのだが。チャーリーの行動を見た俺は――。


「……あ、えっ――——うん」


 少し考えた後。手に持っていた最後の小さな実を食べてから。口いっぱいに甘さを感じつつ返事をした。


 ここでの決断で、俺の運命は変わったのだろう。

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