第9話 あの日俺の眼に映った色は……3
煙たい――熱い――動けない。
俺は手足を縛られ火あぶりでもされているような感覚だった。自分がどこにいるのかはわからない。とにかくもがいていた。全く動かない自分の身体を動かそうともがいていた。何が起こっているのか。今ここがどこかのか。全くわからないし声も出せない――だったが。それは唐突に解除された。
「————はっ!?……こ、ここは……?」
目を覚ました俺の視線の先は空だった。熱くもなく。身体も動く。ちなみに視線の先にはちょうど太陽が昇ってきたところという感じの空が見えている。この空は見たことがある。早く起きると見れる空だ。いつも通り――と思った俺だったが。すぐに鼻には焦げ臭い。異様な臭いを感じた。俺は少し動かすと痛む身体を我慢しつつ起き上がる。するとちょうど起き上がった視線の先に真っ黒になり。無残にも半分ほどが崩れ落ちた俺達の家があった。形はほぼないが。周りの景色から俺達の家があったところで間違いない。今もまだ煙が上がっている場所もある。その近くでは大人たちが行き来している姿が見える。
「……」
その後すぐに俺は気がついた。自分が寝ていた所から少し離れた場所。確か孤児院からヨイキテンツチッカの町に行くところ道路脇に数本並んでいる大きな木があったのだが。その木の根元には、いくつもの布などがかけられている何かがあることに。その周りでは何人もの大人が泣いていた。泣き崩れている人もいる。さらに町の子供。確かたまに遊びに孤児院に来ていた子供?と思われる子も数人一緒に立っていた。俺はもともとあまり活発に遊ぶ事をしていなかったので、町の子供との接点は少なく。ちょっと見たことある――というレベルで名前などは全くわからなかった。
ちなみに立っている大人たちの中には、真っ暗な顔をしている人もいた。あと、ほかにも焦げた服を着た人が何人も呆然としつつ建物があった場所の前で立っている。悔しがっている人も居た。こちらでも泣き崩れている男性に寄り添う女性の姿もあった。中には瓦礫。崩れ落ちた建物の中で「誰か居るか!」「返事してくれ!」と声を出している男性の姿も数人あった。
なんだこれ?
何が起こった?
みんなは?
大人たちは?
誰もいない。
――みんなを探さなくっちゃ。
俺は痛む身体を無視して、立ち上がる。ちょっとふらつく身体だったが。幸い大きなケガなどは無いらしい。よく見ると足や手には包帯がまかれている。そして服がところどころ焦げていた。本当は寝ていないといけないのかもしれない。でも今の俺は身体は動く。足が動く。だから俺は寝ていた場所から歩き出した。
近くに誰か居れば聞けばいいと考えていたが。俺の周りにはこの時誰もいなかった。だから俺はあたりを歩き回った。
本当は布がかけられてる何かがある木の根元の方へと行くと何があったのかわかるかもしれない。
または真っ黒に焼け落ちている建物があったはずの場所に行けば、何があったのかわかるかもしれない。と頭の中で俺は思っていた。
でも、そのどちらにも俺の足は向いていなかった。直感というのだろうか。見たらわかる。聞いたらわかる。わかってしまう。だから……向かわなかった。
俺は1人歩き出した。ヨイキテンツチッカの町の方へと。そして歩きながら考えていた。
『——そうだよ。みんな何処かに隠れているのだろう。何かのドッキリだろう。大掛かりな――ドッキリ。またお兄さんお姉さんが何か――』
俺は先ほどの光景からある程度何が起こったのか。わかっていた。でも考えないようにしていた。別の事を考えていた。違うと頭の中で先ほど見た光景を隅に押しやり。1人つぶやきながらそのまま歩き続けた。
認めていない。
あれは関係ない。
違う。
俺は何度もそう思いながらヨイキテンツチッカの町中を彷徨った。でも知っている大人。仲間は1人も町中では見つからなかった。
ちなみにこの時のヨイキテンツチッカの町の方でも、かなりバタバタしていた。荷物を持って走っている人などがたくさんいた。また、まだ時間が明け方ということもあってか「何かあったのか?」と、寝起きの人が窓から慌ただしく走っている人に声をかけて――返事を聞いた後。驚いた表情をし。そのままの姿でドアから飛び出し。走っていた人とともに孤児院の方へと向かって行ったりしていた。
だからか。俺が町中で歩いていても誰も気にする人。声をかけてくる人はいなかった。多分だが町中でも、俺と同じようにちょっと焦げている服を着ている人や包帯を巻いている人。顔などが汚れている人が多数居たので気が付かなかったらしい。まあもしかしたら俺の存在が薄かったのかもしれない。まあでも俺はこの時誰にも声をかけられることなく。ヨイキテンツチッカの町の外れまで来ていたのだった。
町をぐるりと回った俺は――やっぱり、無駄。そろそろ孤児院の方に戻った方いかもしれない。そして――認める。ということを一瞬だけ頭の中で思ったのだが。とある光景を見た俺は、すぐにその考えを再度頭の隅に追いやっていた。
今俺の視線の先には孤児院の丘ではなく。孤児院があるところよりさらに大きな丘――いや、山が視線に入って来たからだ。そして1人でまたつぶやいていた。
「……そうか。みんな山の方かも。そうだよ。だから誰も町では見つからなかったんだ。みんな隠れるのが上手だな」
思い返せば俺はなんでこんなことをしていたのだろうか。ぼんやりと歩きづ付けていたことしか今となっては覚えていないが――。
町を探し終えてしまった俺は、そのまま山の方へと歩きだした。孤児院に居る時はあまり遠出というのはなく。出てもヨイキテンツチッカの町中までだった。でも一応山があることや、山とは逆の方へと進んで行くと。別の大きな町がることを俺達は孤児院の大人たちから聞いていたので知っていた。 だから今俺の頭の中では、まだ探すところはたくさんある。どこかにみんな居る。そんなことを思いながら山へと向かい俺は歩いたのだった。
山道は町中を歩くよりかなり大変だった。ヨイキテンツチッカの町中を歩いている時はほぼ平坦。あと石畳であったが。今はそこそこ急な上り坂。そして町中のように石畳などの舗装がされていない凸凹の多い山道だ。少し歩くだけで息が上がる。でも俺は1人で歩いた。みんなが隠れているのだろうと勝手に思い込んで――いや、思うようにして歩き続けた。歩いていたら誰かには会えるのではなないかと思っていた。
しばらく俺は1人で山道を歩いた。まっすぐ山を頂上の方へと向かって登り。急な段差も超えていった。でも――結局誰もいない。そもそも山の中に入ってから俺は人にすら会うことはなくなっていた。でも俺は――まだ先に進んでいた。
1人でもいいから仲間――家族が居ると信じて。
★
「おい、ちょっと。そこの教会の人。ここで寝ていた子供どこ行った?」
1人の子供が町中を歩いている頃。孤児院近くで1人の男の人が慌ただしく動いていた女性に声をかけた。
「えっ?あれ?さっきまで寝ていて――あれ?」
治療の道具を持ち小走りで移動していた女性が声に反応して足を止める。
「おいおいマジかよ。ちょっと探せ。はじめに見つけた――えっと、どんな子だった?」
「えっと――確か男の子で――黒髪。名前は――あっ、まだ聞いてなかった。大きな怪我はなかったから。大丈夫と思って寝かせていたんだけど――」
「もしかして、孤児院の方に行ってないだろうな?まだ火がくすぶってて危ないぞ?」
「そんなまさか」
一部人の中では、はじめに助けた子供がいなくなった。先ほどまで屋外に臨時で作った治療場で寝ていたが。担当の人が少しの間、包帯や薬などを取りに行っている間に居なくなった。と小さな騒ぎになったのだが。どのような子が居たか覚えている者がいなかったため子供の捜索は難航した。あと他の人はまだ取り残されている人が居ないか捜索を続けていたり。建物の消火作業が終わっていないということで、子供を探す声に手伝うことは出来なかった。
子供が居なくなったことに気が付いた大人が子供を探し出したころ。崩れ落ちた孤児院からは……また1人。また1人と。救出作業が進んでいた。
それから少しして、急に空が暗くなりザっと雨が降り出した。雨は通り雨で短いものだったが。そして雨の原因かはわからないが途中残っていた建物の壁が再度崩れたりして、町の人の怪我人も多数出た。その中には居なくなった子供を探していた人も含まれていた。
どんどんひどくなる状況。あまりの惨劇に町の人は言葉を失っていた。
ヨイキテンツチッカの人々に孤児院の火事は大きな衝撃を与えた出来事となったのだった。
そして気が付けば、誰1人として助からなかった大火事。孤児院関係者。救出作業にあたったヨイキテンツチッカの町の人複数人が亡くなった。大惨事となったのだった。
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