第7話 あの日俺の眼に映った色は……

 俺は両親を知らない。俺が覚えていることと言えば、物心つく頃には、孤児院のみんなと一緒に大きな家で生活していたことだ。それが当たり前の事だと思っていた。幼少期の俺の家は、ヨイキテンツチッカ近くの丘の上にあった孤児院だった。もちろんそこでの暮らしは裕福な暮らしというものではなかったが、とっても雰囲気の良い暖かな場所だった。

 

 どのような経緯で孤児院が町に出来たのかは、俺ははっきりとは知らない。なんとなく知っていることと言えば、とある時からヨイキテンツチッカの町中で孤児が増え。はじめのころは町にあった教会が孤児の世話をする場所となっていたが。孤児の数が増える一方だったため。町の人の一部が声をかけあい空き家となっていた丘の上の建物で孤児院を開いたのが始まりではないかという話をチラッと聞いたことがある程度だった。

 

 孤児院の大人達はみんな優しく。俺たち孤児にいろいろなことを毎日教えてくれた。生きていくために必要な事。文字の読み書きなどいろいろ教えてもらった。そして俺たち孤児同士もみんな家族のように仲が良かった。新しく入ってくる子がいれば周りのみんなは大騒ぎ。歓迎会だの。ドッキリをやろうとか。そしてあまり派手にやろうとして大人たちに怒られたこともあったが――結局大人を巻き込み盛大な歓迎会をしたこともあった。

 また大きくなると孤児院を出る決まりがあったため、出会いがあれば別れもあった。別れの時はみんな笑顔を作り泣いていた。旅立つ子も泣きながら。でも最後は笑顔で新しい一歩を踏み出していた。

 俺も何人か大人になって、出ていく兄さん姉さんを見てきた。良く話すお兄さんお姉さんが出ていくときはやはり悲しかった。でもいろいろな経験が出来る場所だった。あの場所はホント良い場所だった。ずっと居たくなる家だった。それに多くはなくても、町の人も日常的に関わって来てくれていたので、食べ物や衣服など必要な物はあり。裕福でないにしろ俺達は普通に町で暮らすことが出来ていたのだった。 

 常にみんなの笑顔が溢れるとても居心地のよい場所。仲間たち。家族の居る場所だった。


 あの日までは……。

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