第4話 冷たい雨の日3

 山小屋へと到着した俺は、岩陰に居た小柄な子供を抱えたまま急いで暖炉の前に向かい。火を付けた。こちらも雨で身体が冷えたからか手がかじかんでいたが。今までにも寒い中で――ということは多々あったので、というか冬はいつもだ。なので、暖炉に火を付けるのに時間はかからなかった。ちょっと人を抱えながらは大変だったが。でも少しして火は安定し。やっと部屋の一部だけだが明るくなる。

 火が安定したのを確認した後は、小柄な子供を抱えたまま近くにあった作業用の小さな椅子を火の前に持ってきて置いた。そして抱えていた小柄な子供を椅子に座らせた。辛うじて子供は意識があるみたいで、座らせても左右前後に倒れることはなく座っており。ちゃんと自分で火の方に震える手をゆっくり伸ばしていた。全く返事が今のところないので心配していたが――自分からちゃんと温まろうとしていたのだった。

 小柄な子供のそんな様子を見た後の俺は、小柄な子供の方を気にしつつ。タオルと自分が普段着ている上着を置いてある棚へと取りに行き。またすぐに子供のところへと戻った。


「着替えれるか?」

「……」


 準備をした着替えを小柄な子供に差し出しながら、俺は再度声をかけたがやっぱり返事はなかった。だが――俺が声をかけると小柄な子供は俺の方をゆっくり見てきた。やっと初めて目が合っ……た。


「——えっ?」


 そしてその時俺は初めて気がついた。今までは薄暗い中だったので顔ははっきりと見ていなかったのだが。今は火の明かりがあることで顔がそこそこ見えているののだが……この小柄な子供。俺の記憶の中に居る彼女にどこか雰囲気が似ていた。俺は再度よく小柄な子供を確認する。もちろんだが。今目の前にいる小柄な子供は彼女ではないことはわかっている。でも何か似ていると思った俺は再度小柄な子供を見て――気が付いた。

 濡れているのと暗さで気が付かなかったが。小柄な子供の髪の色は多分明るめの茶色だ。それと今はトロンとした感じ。力なく開いている眼だったが。少し開いている眼の奥には、透き通った眼がちらりと見えており。それがとっても彼女に似ていたため、一瞬過去の人。俺の記憶の中に居る彼女と被ったのだった。

 少し驚いていた俺だったが。今はまだ過去の事をゆっくり思い出し考える余裕があるわけではない。目の前の小柄な子供ははずぶ濡れだ。火にあたっているとはいえ、まだ凍えている。そして急に俺が見つめたからだろう。小柄な子供の方もあまり表情は変わっていないが――何か困ったような雰囲気を少しだけだが俺は感じた。こんな状態で固まっていてはダメだ。俺は余計なことはすぐに頭の中から追いやり。もう一度小柄な子供の状況を確認する。

 

 小柄な子供は、俺が先ほど着せた上着を着たまま椅子に座っているが中はずぶ濡れのままだ。濡れたままではさらに体温を奪ってしまうので着替えさせないといけない。でも今の状況から、この小柄な子供が自分で着替えを出来るとは思わなかった。なのでこの後俺がすることと言えば……。


「——脱がすぞ」

「……」


 俺はボーっとしつつ。不思議そう?困ったように?にこちらを見つつ温まっている小柄な子供に声をかけてから、先ほど着せた俺の上着をまず脱がし。びちょびちょドロドロのボロ布姿にした。俺の上着は晴れたら洗う必要がありそうだ。まあそれは今はいい。ってか、改めて思うが――なんでこんな姿であの場所に居たのだろうか。ってか、火の明かりがあるので詳細がわかって来たが。このボロ布。本当に布を巻いているだけ?みたいな感じだった。身体に張り付いているというか。身体の細さがよくわかる。骨と皮ではないが――ちょっと細すぎる。やはり訳ありな感じがプンプンしていた。この雰囲気は――捨てられた?まあいろいろと考えるのはあとだ。


「ちょっと立て」


 上着を脱がした後俺は小柄な子供を一度立たせた。少し手伝えば立つことは出来た。ちなみに小柄な子供が座っていた椅子はしっかり濡れている。まあ予想はしていたので気にはしなかった。室内に椅子はまだあるので問題はない。ってか、小柄な子供を立たせた際に、ちょっとだけ子供がフラつき。顔が歪んだような気がし。俺は焦りかけたが――すぐにその表情はなくなったので大丈夫か。と思った俺はそのまま小柄な子供が着ていたボロ布を脱がした。どうやら元は――大きなシャツ?なのかはわからなかったが。大きいサイズの衣服を着ていたらしく。それが雨に濡れ身体に張り付き。身体に巻いたようになっていたらしい。なので脱がすのは簡単だった。ボロ布を掴んで上へと脱がせたら簡単に脱がすことが出来た。そしてやはりだが――ちょっと細すぎる身体だった。健康とは言えない見た目だ。


「……!?!?」


 すると、俺がボロ布を脱がし。ボロ布を濡れている椅子の上に置いた頃。ワンテンポ遅れて、小柄な子供はビクッと身体をさせて、眼が見開かれた。その際に見たがやっぱり薄い青色で透き通った綺麗な目をしていた。ってか、なぜ急に驚いた表情になったのだろうか?あれか、さすがに室内がまだ寒いから。それで驚いたのだろうか。俺がそんなことを思っていると、正解だったのかすぐに小柄な子供はギュッと自分を抱きしめるようなポーズになっていたので、やはり寒かったらしい。俺はそんな様子を見つつ。乾いた大きめのタオルを小柄な子供の頭からかぶせた。そしてそのままタオルでささっと全身を拭いてから、俺が普段使っている上着をさっと頭から子供に着せた。当たり前だが俺が普段着ているサイズなので、先ほどと同じく小柄な子供にはサイズが大きすぎるため。上着だけなのに膝下くらいまであった。ってか、重たいかもしれないが――今は我慢してもらおう。この場所に子供用の服などないので仕方ない。それに先ほどのボロ布よりかはかなりマシで、暖かいだろうと俺は思いつつ。先ほど小柄な子供が座っていた椅子は濡れていたので、別の椅子を暖炉の前に置いた。


「もう座っていいぞ」

「……」


 椅子を置いて俺が声をかけると、小柄な子供は無言のままそっと椅子に座り直し。再度火に当たっていた。

 ちょっと気になったのは、こちらを一切見る事なく。火だけをじーっと見つめているのは引っかかったが。まあ寒かっただろうからな。火を見ると落ち着くのだろう。などと俺は思いつつ。ってか、小柄な子供は着替えさせたが、俺はまだ冷たいままだ。俺も雨で濡れていたので、次は自分が着替えるために小柄な子供を気にしつつも――少し部屋の隅に移動したのだった


 ちなみにこの時、小柄な子供の顔が真っ赤になっていたことには、俺は全く気が付かなかった。

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