第2話 冷たい雨の日

 マナと初めて会ったのは少し前。あれは……俺がレオと会った後の帰り道。レオというのは、まあ、なんだ。ちょっとした知り合い……今では多分友人だが。あの頃は――友人というか。あっ、お得意様と言う方がいいかもしれない。まあ今でもお得意様という言い方でもいい気がするが。いつもレオが定期的にそこそこの量を注文してくるから俺の生活が成り立っているのでね。

 ちなみにお得意様。レオは、どん底に居た俺に対して、何故か無駄に明るく。定期的に接してきていた人物だ。って、今から話すのはマナだ。レオの事はちょっと置いておいて……レオのところに仕事関係の荷物を運んだ帰り道。冷たい雨が降っていた日だった。俺はマナと出会ったのだった。


 ★


 俺が1人で生活している山小屋から麓の方へと行くと、ヨイキテンツチッカという綺麗な石畳の町がある。さらにその先にあるテミスという大都市ほどの規模はないが。それでもそこそこの人が生活している大きな町だ。

 ちなみに山小屋からと言っているが歩くと数時間である。でもまあ何十回何百回と行き来をしていたら、俺は特に何も思わなくなった。今ではいつもの道のりである。


 その日の俺は先ほども触れたが。レオとヨイキテンツチッカで会っていた。何をしていたかというと商品の受け渡しだ。レオが急ぎで必要とかで、シッカジモア。ここからだと馬車と汽車で2日ほどかかる自分の住んでいる港町からわざわざ荷物を取りに来ていたため。俺は商品を持って、ヨイキテンツチッカまで下りてきていた。

 まあレオの方が来る途中に汽車が遅れたとかで、無事にレオに荷物を渡したころには、すっかり辺りは暗くなっており。おまけに雨まで降ってくるという最悪な状況の中山小屋へと俺は帰ることになっていたのだがね。


 ヨイキテンツチッカの町中を歩いている時は、雨でも問題はなかったが。俺の住んでいる山小屋は町から離れた山の中腹。その道中は町中のように石畳などになっているわけもなく。雨なんて降ったらドロドロぐちゃぐちゃになるような道なき道を歩いていた。ちょっと油断すればぬかるみにはまるわ。滑るわ。たまに水が流れていてその中を歩くはめになるわ。なかなかに悪路だった。それに俺は遅くなるとも思っていなかったので明かり。ランタンを持っていなかったため。雨に濡れつつ暗い夜の山道を歩き山小屋へと向かっていたのだった。

 俺の住んでいる山小屋へと帰る途中には、ちょっとした森。木が生い茂っている場所がいくつかあり。その中を通り山小屋へと向かうのだが。そのうちの1カ所。森の中に大きな岩がある場所で俺はマナと出会った。


 普段の俺なら、晴れていれば多少段差がある道を選び一直線に山小屋へと向かうので、この時雨が降っていなかったら俺はマナとは出会わなかっただろう。

 この時は先ほどから言っているが雨。それも暗くなり。さらにさらに明かりも持っていなかった俺は、段差など山小屋への最短距離の道は歩けず。歩きやすい――といっていいのかはわからないが。でも比較的まだ歩きやすい岩がある方の道をたまたま歩いていたら――である。


 はじめは暗かったこともあり。何か飛んできた布?が岩のところに引っかかっている。落ちているのかとか俺は思いつつ通過しようとしたが布?の近くに来ると、まず小さな足が少しだけ見えた。暗かったのと泥まみれになっていたので、布?までホントあと数歩。というところまで近づかないと足には気が付かなかった……いや、通過しようとした際に、たまたま俺はぬかるんでいる足元を気にしつつ歩いていたため。少しだけ見ていた小さな足に気が付いたのだった。前を見て歩いていたら気が付かなかったかもしれない。でも、足に気が付けば、さすがに俺もすぐに岩陰に居るのは、布だけではなく。人が居ると判断し足を止めたのだった。


 俺は足から視線を上にあげていくと。岩陰に居たのは、ボロ布1枚を身にまとった――子供だった。小柄な子供だった。ちなみに森の中の岩陰だからと言って雨が当たらないということはもちろんない。普通に雨は地面まで届いており。俺が見つけた小柄な子供もずぶ濡れ。そもそも岩陰に座り込んでいたのだが。そこも雨でぬかるんでいるような場所だ。普通ならこんなところに座り込むことはないだろうが―—小柄な子供は座り込んでいた。

 小柄な子供は俺が目の前にいることにも全く気が付いていないような状態だった。今もまだ身体を丸めて――という状況だ。この姿を見た際に一瞬俺は最悪の状況も考えていたが――よく見ると小柄な子供は小さく震えていた。震えているということはまだ息はある。でもこれはどう見ても危ない状況だった。ここ数年。必要最低限の人との接触しかせず。周りの事などほとんど考えずに、約束だけを守るために生きていた俺でも、この小柄な子供は、俺が何とかしないとホント数十分。下手すれば数分後には息絶えてもおかしくない状況であることは瞬時に理解はしていた。


 すぐに声をかけ、自分の来ている上着を小柄に子供にかける――この場所で俺が出来ることは少ないだろうが。俺の頭にもそのような出来るだろう行動が頭の中には浮かんではいたが。まだ俺の手は動いていなかった。


 何故なら頭の隅にあるとある過去の記憶が邪魔をしたからだ。

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