神社と石段
「うわぁ、石段てこんなに長いんですねぇ」
「神社に続く石段はどこもこんな感じかなと思ってたけど、こう見上げると確かに長いね。それより本当にそのローファーで登るの大丈夫?」
「はい、スズネが言い出した事ですから問題は無しよりのナッシングです。さぁさぁ張り切って登りましょうかぁ」
「おっと、急ぐと危ないよ、ちゃんと手すりもあるから使って上がろう」
さて。なぜ俺たちが神社へと続く石段に挑む事になったかというと。それは時を戻してレイモンでの食事を終えた直後である。
(ろうえい先輩、どこか静かで二人きりになれるところってありませんかねぇ?)
(ぇ、それはいったいどういうところでッッ)
(そうですねぇ、たとえばぁ~、お山の神社とかっ)
と、言うわけで神社に続く石段と
まぁ、俺の要らん前置きは捨ておきまして、お山の神社リクエストにそって
ここは戦国時代の古戦場跡だったらしく、途中看板に説明が書いてあったが興味が無いとよく分からん。スズネちゃんはフムフムと覗き込んで読んでいたけど、歴史に興味があるのかしら。ちなみにどこかにお城もあったらしいけど戦国時代に毛利元就軍が長門に行くための進軍で蹴散らされて城は跡形も無くなってると昔おばあちゃんから聞いたことがある。詳しい場所はよく分からんが、どっかに地元の文豪が書いた石碑もあるらしいので、見つけたらスズネちゃんを連れて行ってあげようかな。
まぁ、歴史には疎い俺はここはどちらかと言うと途中にある参道の桜並木の方が断然興味深い。春になると結構キレイな桜の花道が見られるからね、いつかみんなでお花見に来るのも悪くは無さそうだ。ここの神楽保存会もたまにイベント事で神楽舞ってるみたいだから、意外と楽しめるかも。
「あれぇ、ろうえい先輩は登らないんですかぁ?」
「あらちょっと待つとうやっ。登る登る登りますよッ」
あれこれと考えていたらスズネちゃんはスタタッとひと足お先に登り始めていた。うーん、ここまで歩いてくるのも結構あったのにさすがの元気、一年分の若さは伊達じゃない。俺も負けてられないな。
「あッ、二段飛ばしは危ないんですよぅっ」
「……ごめんなさい」
怒られちゃった。
*
「ふぅ、結構登りましたねぇ。半分くらいでしょうかぁ」
「そうだね、そのくらいは行ったんじゃない?」
俺たちが見上げる先には神社の本殿(と、言うのか?)がそろそろ見えてくるんじゃなかろうか。確か、ここの石段は二百二十一段あるそうだから百十段くらいは登って来たという事か。下を見ると出発地点がやけに小さく見える。
「ろうえい先輩、ここからはじゃんけんで登りましょうか。グリコのじゃんけんわかりますかぁ?」
だいぶ歩きどうしなはずなのにスズネちゃんは元気だなぁ。しかし、グリコのじゃんけんかぁ懐かしいな。小学校くらいまではよくやってたな。ちょうど俺ら以外は登ってくる参拝者はいないし、ちょっとくらい遊んじゃってもいいかな。
「ふっ、いいのかいスズネちゃん。俺はグリコじゃんけんは美咲花にも負けた事は無いんだぜ?」
「おぉ〜、強気ですねぇ。こちらも負けてはいられませんよぅ」
「よし、最初はぐー、じゃんけんほいっ」
こうして、俺とスズネちゃんの熱きグリコじゃんけん対決が幕を開けた。
「はい、チ・ヨ・コ・レ・イ・トッ、やったぁ到着勝ちましたー。WINNERスズネッ」
くっ、スズネちゃんに負けたっ。惨敗です。てか、アタイほぼほぼ動いてない。やだあの子強すぎ。
「ろうえいせんぱあいっ、登ってきてくださぁいッ」
「へいへいほー、いま行きまーす」
俺は勝者の声に導かれ神の待つ社へとかけ登りましたとさ。
「ろうえい先輩て、じゃんけん弱かったんですねぇ、スズネはびっくりです。ホントにミサカちゃん先輩に勝ったのかちょっと疑いの目を向けてしまいますねぇ」
「チッチッチ、見くびるなよ。美咲花のじゃんけんの弱さは君の想像を超える事だろう。幼なじみのこの俺が保証する」
「ちなみにろうえい先輩はミサカちゃん先輩以外にじゃんけんに勝ったことは?」
「ありませんね」
「あぁ、これはお二人を見る目が変わってしまいそうですねぇ」
じゃんけん程度で俺と美咲花の好感度はガタ落ちになってしまうのか。後輩の緩やかに細まる視線が痛いです。
「ま、それは冗談といたしましてぇせっかくなので神さまにお参りしましょうかぁ」
「それもそうね。しっかりお参りいたしましょう」
俺たちは冗談をそこまでに切り上げ、賽銭箱にお金を投げ入れ鈴をガラガラと鳴らし、両手を合わせてお参りをした。
「ろうえい先輩は何をお願いしましたかぁ?」
「そういうスズネちゃんは?」
「うーん、言うとお願いは叶わないと言いますしぃ」
「じゃあ俺も言わないかなぁ」
「ではではお互いに秘密という事で、神さまだけぇが、知~っているっですねぇ」
スズネちゃんが冗談めかして人差し指を立ててし~っのポーズをする。俺も真似してし~っをする。しかし、本当に普段は誰も来ないのかここは静かだなぁ。スズネちゃんの希望する静かな場所というのに合致しただろうか。
「そういえば、なんで静かな場所で俺と二人きりになりたかったの?」
「それはですねぇ。まずはこちらをご覧ください」
そう言ってスズネちゃんはポシェットからひとつのフィルムケースを取り出して俺へと渡した。
「これは?」
「開けてみるとすぐにわかりますよ」
「どれどれ……あれ、これは?」
言われた通りにフィルムケースを開けると中から出てきたのは片方だけの白いワイヤレスイヤホンだった。
「これ、もしかして俺が無くしたワイヤレスイヤホンの片方かしら?」
「はい、正解です。ビンゴというやつですねぇ」
言ってスズネちゃんはワイヤレスイヤホンを俺の手から摘んで柔らかに笑った。
「あの日、電車の中でろうえい先輩が落としてしまったワイヤレスイヤホンで間違いありません」
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