親子水入らず?
美化清掃活動を終えた次の日の日曜日。
俺は健全な男子高校生らしく、ベッドにゴロゴロゴロリくんと寝転んで下城が薦めてくれた漫画を読みながらスマホでお気に入りのゲーム音楽を聴くという最高にワクワクさんな休日を過ごしていた。
ペアリングしたワイヤレスイヤホンはこの前電車で落としてしまったため片方のみの装着であるが聴く分には問題は無い。が、やはりお気に入りな音楽は両耳から搾取したいものである。どうにか、新しいワイヤレスイヤホンを購入したいところだが高校生の懐事情はなかなかに厳しい。すぐさま購入できるブルジョワジーでは無いのだ。冷凍餃子も三十個入り約八百円の浜松餃子もたまには食べたいがリーズナブルな味の素さんの餃子が我が家のマストである。いや、味の素さんの餃子も美味しいよ。批判なんてしてないからね。
「おう郎英、ちょっとお楽しみ中のとこ悪ぃけどよ、手伝ってくんねえか?」
などと冷凍餃子の事をフワフワと考えていると、突然ノックもしないで部屋の扉を開け放つ中年がひとり。塗料だらけの作業用エプロンを着けた
「手伝ってくれたらこづかい一回分アップ、来月分の上乗せして三千円プラス、昼飯も
「よっし、
こづかいにラーメン奢りとくれば話は別ですね、はい。こづかいプラス三千円で休日を売るのかと笑わば笑え。三千円は田舎の高校生にとっては結構な大金なんだ。三千円あったら「からあげ専門店かなで」のからあげが塩手羽、ほねなし、かわ、ポテトと選び放題なブルジョワもできちまうんだ。バカにはできませんって。それに、新たなワイヤレスイヤホンを購入する軍資金にも充てられちまうんだ。やらないという選択肢はないわね。
「んで、手伝いてなん
「そんなん素人に任せられるわきゃなかろうよムラになる
太郎の後に着いて階段降りて、裏口から車庫の奥にある鉄板敷きな作業場へと向かう。我が家自慢のファミリー
「ま、塗りは当たらずも遠くもねえんだけどよ、おめぇが手伝うのは道具の油刺しだよ、ペンキ塗って乾いたやつにプシューとやって道具の動き確かめ
「え、そんなんでいいの。手伝いにしてはチョロすぎじゃない?」
「バッカおめぇ、買ったばかりのピカピカ新しいのばかりじゃねぇんだぞぅ、
確かに意地悪く笑う太郎と俺の前には仕事道具が新旧そろい踏みだ。てか、
「つうか、革手と軍手どっちも汚ぇんだけど、倉庫からストック出しても
「どうせ汚れんだから別にそれでいいだろ。革手も軍手もタダじゃねえんだぞ」
「あ、そんなみみっちい事いうならボートで勝ったの黙ってんの言っちゃおっかなぁん」
「よっしゃ、好きなだけ使いなさい。軍手なんてわくわくワークスでいっぱい投げ売りされてっから気にすんなよおめぇ。つうか郎英くん、いつからボートのこと
「おうおう、カマかけたら当たっただけなんですけどビンゴ確定しましたぜ。よっしゃラッキーッ。いやぁ気前よくこづかいとか奢りとかさあ、お互いの嫁に隠れて大作おじちゃんとやってるボートかおウマさんで大勝利しかないでしょうよ。近場のパチンコは二人とも
「くそおま汚ぇなぁ。誰に似たんだよ」
いや、間違いなく
*
「そういや郎英、最近は学校どうよ?」
「はぁ、なんだよ突然」
作業を開始して体感二十分といったところだろうか、予めペンキを塗って日差しで乾かしきっている
「ほら、昨日ミィちゃんと出掛けたんだろおまえ。なんか、そのなぁ、進展あったのかと思ってよ?」
「昨日のは部活で美化清掃活動に行っただけだし、美咲花は手伝いに来てくれただけ、てか、美咲花とはなんもねえって言ってんでしょうが」
うちの両親と美咲花の両親は俺たちが将来結婚して家族二代で仲良くという夢を密かに持っているのは美咲花と俺は気づいている。だがしかし、それは当人同士の問題であるのでほっといて欲しいというのが俺と美咲花の総意である。両親共に仲が良い友達である事は良い事だし、俺達もお互いの親の事は大好きであるが、それはそれこれはこれである。正直、美咲花が俺と距離を取り始めたつもりになっていた原因はハーレムの噂ではなくこっちではと疑っていた。しかし、無理やりくっつけようとする親ではなかったのであるが、昨日美咲花と一緒に地域美化清掃に出掛けた事で、太郎なりにちょっと人生設計の淡い期待を持ったのかもしれない。たぶん彼の脳内では孫を抱いていそうだ。
「そっかぁ、でもミィちゃんはいい子だし、年々綺麗になってからなぁ。郎英を好きになってくれるのは難しいかぁ、おまえは俺に似て朴念仁だもんなぁ。ミィちゃんはよぅ、いつかは玖球を出てって広島辺りで幸せになりそうだべ。いや、それはそれで隣のおじちゃんとしてはミィちゃんが幸せなら全然いいけどよう。はぁ、しかし俺はどんだけ英子ちゃんにアプローチしたかなぁて思い出すわなぁ、捨てられずに選んでもらえただけでも幸せもんだなぁホント。英子ちゃんは高校ん時の俺のアイドルでよう、一個上な俺はもう一目見たときからゾッコンで」
「いや、知らねえよ。ナチュラルに俺が美咲花にフラれたていにして自分の恋愛話し始めんのやめてくんない。てか、誰が朴念仁だよ誰が」
両親の恋愛話とか子供が聞きたくない話でもトップクラスだからご勘弁くだせえよ。母親の若い頃がどんなにいい女か語られても子供には響かねぇっつうの。てか、それで焚き付けてるつもりだろうけど、無駄だから諦めなって。
「おう、悪ぃ悪ぃついな。でもよぅ、おまえ俺の息子だから絶対モテねえだろう。我が子ながら心配にもなるってもんだぞ?」
「おい、モテないとか失礼なことを言うなよ。俺だって女子から告白、された事あるんだぜ」
「あ~ぁっ、よせよせ、見栄張る君は虚しくなるだけだべ。告白てのはなぁ女の子にとって特別な出来杉くんみてぇな野郎がされるもんなんだよ。ベルタースなんとかオリジナルてやつだ。俺たちゃモテモテ帝国には住めねえんだよ」
このやろ、まったく信じてねえな。俺だって未だに信じられないけどね。あんな、スズネちゃんみたいな可愛い子に告白されたなんてさ、一生もんの自慢だっての。実はハーレムの噂もあったりするんだぞ。これも信じられないというか、尾ひれの着いた勘違いなんだろうけどさ。ま、何を言っても太郎は信じないだろうから別にいいけどね。てかなんだモテモテ帝国て、太郎の時代の漫画タイトルか? ほらぁ無駄話しないで、とっとと終わらせてラーメン食わせてくれ。俺はもう作業に集中するからな。
「ごめんくださぁ~い。誰かいませんかぁ」
だがその時、何やら聞き覚えのあるホンワカとした甘ったるい蜂蜜のような声が聞こえてきた。
「はーい、あれ、英子ちゃんいなかったか。ひとり自転車で買い物にでも出かけちゃってんのかなぁ」
「おい待て待て、ここは俺が出るから太郎は作業してなさい。まだまだ塗れてない道具がいっぱいだよ」
「あ、なんだおめぇその慌てようはッ、これはなんかあるなコラ」
俺が早足に玄関へと向かうと、太郎も早足で着いてきた。おい、着いてくんな、ペンキ塗り塗りスプラってろッ。
「ぁ、ろうえいせんぱぁ~い。こ~んに~ちは~でぇす」
唯一無二な
「やっぱり、スズネちゃんか」
「ですです、スズネですよぅ」
昨日の学校ジャージとは違うオシャレな私服姿のスズネちゃんが、両手をフワフワ揺らしながら我が家の玄関前に立っていたのである。
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