三章──俺のことが好きなの?──

ドキドキ 真正お嬢様部VSボランティア同好会


 なんだかんだと言われても日は流れてゆき、あっという間に快晴ホワイトホールな第四土曜日。時刻はちょいとお眠な午前の八時半。俺たちボランティア同好会は真正お嬢様部と共に地域美化清掃ボランティアの皆さんと共に国岩駅近くに整列していた。うん、まさか清掃地域が乗り換えでおなじみな国岩駅近くだとは思わなかった。てっきり星陰高校付近だと思っていたので、お嬢様部の活動の広さには驚きである。


「はい、今日はね星陰高校しょういんこうこうの生徒さん達もねっ、部活動の一環……ん~、で、いいの? うん、一環としましてねご参加いただきましたのでっ、いつもより大きな大きな大所帯になっちょりますが皆さんっ。生徒さん達の溢れる若さに負けないでフレッシュに清掃活動をよろしくお願いしますねっ。フレッシュだけに北海道フレッシュクリームなんつってね、ガハハハハ!」


 地域の町内会長さんらしい頭は完全に真っ白だが、雰囲気はすっごく元気ハツラツ若々しいジャージ姿のおじさんが前に出てガハハ笑いで面白いのか若者にはよくわからないジョークを混じえて挨拶をしている。しかし、ジョークは他の清掃ボランティアの皆さんもしこたま濃いブラックコーヒーを飲んだみたいな苦い笑いをしているので、これは町内会長さんだけが笑える面白ギャグだったに違いない。


「はいっ、それでは星陰高校さま側を代表して顧問の先生にも挨拶してもらいましょうか。そうしましょうッ」

「ふぁふ──ぅん……え?」

「さぁさぁさあ、先生どうぞどうぞ二宮金次郎つってな、あ、そりゃ銅像だ。ガハハハハッ、はい、冗談はさておいてどうどうぞ」


 挨拶する予定は無かったのか、不意を疲れて口許を押さえ欠伸を噛み殺すのを隠し切れていなかったMIZUNOミズノブランドのジャージ一式コーデな顧問の先生がバツが悪そうに頬を掻きながら前に出てきて挨拶をする。


「えーと、ご紹介いただきました星陰高校しんせい? お嬢様部顧問の保坂ほさかです。今日はうちの生徒達がお世話になりますご迷惑をおかけするかも知れませんがよろしくお願いいたします」


 なんだか「真正しんせい」の意味がよくわかっていないような顧問の先生の少し照れが入った様子なご挨拶は町内会長さんの時よりも暖かい拍手が巻き起こっていて盛り上がっている。みんな町内会長さんの激寒ギャグよりも初々しさのある先生の挨拶の方が微笑ましくて嬉しいようだ。しかし、お嬢様部の顧問と聞いていたので、うちの英子マミーが大好きなガラスの仮面の月影先生のような人かと思ったが、実際はちょっと背が低めで太めな眉毛と清潔感のあるぴっちり整ったショートカットヘアが若々しい童顔な女の先生だった。確か、俺達が一年の時に赴任してきた先生達の中にいたのをなんとなく思い出す。あんまり接点の無い先生の顔と名前を覚えるのはどうも苦手なのでほぼさっき初めて会ったようなものだが。


「モモちゃん先生は一年B組の担任さんですからねぇ、ろうえい先輩達二年生はあまりお見かけしないかも知れませんよ」


 隣のスズネちゃんが耳打ちでコショコショとそっと教えてくれる。なるほど、お嬢様部の顧問は「保坂ほさかモモ」ちゃん先生というのか、もしかしたら今後は顔を合わすことも多くなるかもしれないから名前と顔をちゃんと覚えておくことにしよう。


「そういや、うちにも一応顧問はいると聞いた記憶はあるんですけど、今日はいないんすか意流風先輩?」

「ハハ、うちは顧問も完全に幽霊なんだよね。とりあえずは顧問になってくれてはいるけど、運動部との掛け持ちだからねえ、今回はお嬢様部がメインの合同部活動という事になったので保坂モモ先生に引率は丸投げてくれちゃって。その場で見ていたけど丸投げの瞬間「はあ、そっすか」の一言と共に真顔で感情を瞬時に処理する人間の姿を見たのは始めてでちょっとガクブルだったよぅ。私もすぐ謝ったんだけどね「いや、メインはうちの部ですから君は気にせんでください。向こうの部活も大事だというなら仕方がない事でしょう。君たちの引率も先生が責任を持ちますから安心してください」なんて言ってくれてねぇ、仏はいるんだなあて感動しちゃったよう。でもあの一瞬ギラリとした眼力は怖かったよおぉ~ぅ」


 おー、よしよし。ポンコツ晒さずによく頑張りました先輩。保坂先生には後でみんなでお礼を言いに行きましょう。しかし、うちの同好会は運動部は掛け持ち顧問だったのか。どの部活の先生だ?


「はいっ、それでは皆さん清掃活動よろしくお願いしますねっ」


 などと顧問が誰かを絞り出そうとしていると町内会長さんの合図で清掃準備が始まった。しゃあない、いない顧問よりも目の前の清掃を頑張るとしよう。



 *



「現れましたわね後安郎英先輩。今日はよろしくお願いいたしますわ」


 美咲花とスズネちゃんと一緒に清掃ボランティアの皆さんが用意してくれた清掃道具を受け取っていると大和屋部長さんが俺たちの前に現れた。お嬢様部の部員らしき女子を左右に引き連れてのご登場だ。この子達が意流風先輩の言っていた従者だろうか。なんだかこっちを見る目が険しい。俺、なんか知らんまに失礼なことやっちゃったかな。あ、いやもしかしたらハーレムの噂を信じきっちゃって厳しめな目で見られちゃってんのかも。


「ああ、うん、まぁ今日はよろしくね」

「ふふっ、貴方の企むハーレムの野望も今日で潰える事になる事をお忘れなく。勝利は我らが手にっ、ですわ」


 まだまだ誤解は解けそうにも無い大和屋部長さんの自信に満ちた煌めく瞳と主張の激しい縦ロールドリルヘアは今日も力強く目立っている。目立っているのだが、それよりも今日は際立って主張している部分があるのだが、指摘してもいいのだろうか。


「なんですの? 人をジロジロと見て。言いたいことがあるなら仰ってくださいな」

「あ、うん、じゃあお言葉に甘えまして。その、君たちもなんだなって」


 目の前の大和屋部長さん達は学校指定のジャージ姿だ。うちの学校は学年毎にタイの色とジャージの色を合わせているので、大きな白のラインが入った一年生の証たる濃緑色のジャージを着ている。


「何をあたりきしゃりきな、清掃活動時は動きやすいジャージと決まっていますわ」

「いや、お嬢様部だからもっとヒラヒラしたドレスみたいなユニフォームがあるのかと」

「美化清掃は自らを着飾り綺麗に魅せるものではございません。周りを綺麗な環境に整える事が主目的。美化清掃時の真正お嬢様部の活動においてはこのジャージこそが正装ユニフォーム。清掃心を着飾るドレスということですわ。あぁ、でもこの髪型は部長としてのトレードマークなのでそこはご容赦をしてくださいまし」


 胸を張ってビシリと発言する姿には堂々とした凛々しさがある。後ろのお二人も「その通りですわ」と続いて頷く。うーん、その主張、なんだか凄くカッコよさげだ。


「スズネ達も同じジャージですからねぇ。お揃っちてやつですよ~ぅ」

「ま、同じ清掃活動をするんだもの。ジャージに疑問を持つのも無粋じゃない?」


 同じ一年生の濃緑色ジャージのほんわかニコニコなスズネちゃんと二年生の証たる俺と同じ濃青色コバルトブルージャージの美咲花が横に立つ。後はこれで別の場所で清掃道具を取りに行ってる下城と意流風先輩が合流すれば役者は出揃ったという感じになりそうだが。


「そういえば、対決ってさ、何を持って対決とするの?」


 俺が一番疑問に思ってた事を聞くと、大和屋部長さんは腰に両手を当てて、対決内容を発表。


「あー、君たち清掃作業をお手伝いする時間は限られてるんだからいつまでも立ち話はダメっすよ」


 しようとしたら、横からひょっこりはんとお嬢様部顧問の保坂モモ先生が現れた。


「うん、君たちちょうど六人いるからそのまま班になってもらってあっち側、アーケード付近の清掃を任せてもいいっすかね?」


 そんでもって俺たちをササッとひとつの班にまとめ上げようとする。


「え、班て、同じチームということですの。ちょっとお待ちになってマム、それではボランティア同好会の皆さまとの対決が」

「いや、本ご──あ、部活中は大和屋さんなんでしたね。これややこっしいっすねもう。んっ、とにかく大和屋部長。先生は君たちのお母さんおかあじゃないですからそのマムはやめなさい。それと、対決とはなんですかね? 先生は一言もそんなものは聞いてないですよ。清掃活動は地域の皆さんと協力してやらせていただくんですから、お遊び気分はダメです」

「そんな、マムじゃな──モモちゃ──先生ティーチャー? わたくし達はお遊び気分でお嬢様部の活動はいたしませんっ。決してっ」

「うん、だったらみんなで一緒に仲良く美化清掃活動を真面目に頑張りましょう。わかりましたね?」

「ゥ……はい、ですわ」


 ガックシと肩を落とす大和屋部長さんとお嬢様部の面々を見て、顧問の保坂モモ先生にめちゃくちゃ頭があがらないのがよくわかった。


「ボランティア同好会の皆さんも頑張ってください。今日は改めてよろしくお願いします」

「は、はいっ」


 なんだか俺たちの方も保坂先生に緊張しつつ、同じ班となってしまった大和屋部長さんと共に美化清掃活動を始める事となった。

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