襲来? 真正お嬢様部部長!!(五)


「な、ななぁにかなぁ、そのユニークなお名前は」

「ユニークなお名前?」

「いや、キングカメハメ──ロード・オブ・ザ・リ──みたいな」

「何かしら、それは往年の競走馬やら名作ファンタジーかなにか?」

「そちらが先ほど口走っていたお名前です……」

「はあ「ハーレム・キング」と「ロード・オブ・ザ・タラシ」ですか、噂の後安郎英先輩を表すお名前ですね」


 い、いつからそんなチャラさMAXなお名前で呼ばれてるの俺。ていうか、ウワサてなんですかね? 割とマジでわからないのですが。


「星高女子の間では有名なお名前のはずなのですが?」

「ええっ、そうなのッ!?」


 いや、ショック! え、君たちもみんな知ってたの。と、下城や意流風先輩、美咲花とスズネちゃんの顔を見やる。意流風先輩はブンブンと高速で首を横に壊れた扇風機のように回しているし、スズネちゃんは顎に人差し指を当てて、首を可愛く傾けていて反応がよくわからん。下城は?


「いや、アタシも知らぁん。んな面白い名前知ってたら本人に突撃取材申し込んじょるわいッ」


 下城も知らない。て、こらこら突撃取材てなんやねんなおい。時と場合によっちゃ硝子の心を砕いちゃうからな。破片が胸へと突き刺さっちゃうからな。まあ、そこはいまは空き缶蹴飛ばす勢いで置いとくとしまして。当然この流れなら美咲花も──


「ん……知ってるけど」


 ──うん、知ってると……え、知ってる!?


「い、いつから俺、こんな噂の二つ名付けられてんのかしら?」

「……一年の終わり頃かな、わたしが知ってるのは。べつに興味なかったからあんたには言わなかったけどさ」


 えぇっ、そんな前からこんなチャラチャラ陽キャなお名前を……。


「ふぅ、しかし、こんな見ためは誠実そうな方だったとは思いもよらず、もっとチャラついたウェヘ~イ系かと思ってましたので、名字ひとつではイコールとはならないものだわ。ふぅ、やれやれね。端的な噂を信じちゃいけないわ。この眼でしかと確かめないと真実はいつもひとつと見抜けないと、想像力の翼で攻め×受けを描いていくわけにはいかない」

「いや、本人目の前に堂々と語るのはまぁ別にいいんだけど、それより大和屋部長さん?」

「はい、なんでありましょう?」

「あなたぁ、さっきからキャラが違くありませんかね?」

「……ハッ」


 急にしまったて感じに昭和/平成初期アニメみたいな手の当て方で口を隠すと、大和屋部長さんは瞳を閉じて、ファサリと縦ロールを両手で弾くと流星を散りばめたような瞳を薄らと開けて流し目で明後日の方向にオオバリッとした角度に顔を向けて上品に薄く笑みを作った。


「ふう、綺麗な月が世をザザーンと淡く照らしていますわね。海に沈む月は海底に呑み込まれ全てを海に受け入れてしまうのかしら」

「いやいや、ここは室内だから。それにお天道様の方がダイターンにまだまだ世界を照らしてますから。あなたァ、ちょっと誤魔化しがヘタ過ぎやしませんか? てかそのポエムなんなんすかね」


 なんでしょうねこのポンコツなデジャヴュてやつは。端っこでクールぶって立っているどこぞの同好会長とダブるんですが。


「ふ、まぁ、それはそれといたしまして」


 え、強引に話を進めるんですかッ。強いなこの子。


「なるほど、お澄まし眼鏡なツンデレ系カノジョ」

「……は?」

「明るくフレンドリーなモデル系カノジョ」

「なぁッ!?」

「そして、クールビューティな最上級生お姉さま系カノジョ」

「ン、ウンンゥッ!!?」

「なんてこと、よく見れば噂通りのハーレムカノジョ。まさか、大街先輩までウワサのハーレムカノジョのひとりでしたなんて。ハッ、もしやボランティア同好会のもうひとつの姿は後安先輩の放課後ハーレム部ということですの? あぁ、それは推しのカップリングパートナーとしては凄く許せない背徳」

「おいおいちょっと待て待てま──」

「「「──ちょっと待ていッ!!」」」


 さすがに酷すぎる誤解だと注意しようとすると、割り込んでくる影が三人。美咲花、下城、意流風先輩の三人だ。


「ウワサは知ってたけどなんなのよそれッ。言っとくけどわたしはツンデレでもなんでもないッ」

「おォッ、やめろやめろモデル系てなんだよせめてお笑い系にしてくれよッ。こっちの売りは芸人だつってんだッ」

「これは誤解が過ぎるな大和屋撫子くん。ボランティア同好会はそんな不純な集まりでは……ん~ところで~、この私がクールビューティなお姉さま系てウワサされてるのは本当なのかい?」


 三人とも噂とはいえ俺のカノジョにされているのはたまったもんじゃないのか必死に否定する。特に、ボランティア同好会は俺の放課後ハーレム部なんて言われた意流風先輩は面目丸つぶれで冗談ではないだろ──ておい、なんだその満更でも無いて薄い笑みは、口の端がヒクヒク上がってんぞ意流風先輩。そんなにクールビューティなお姉さま系て噂されてるのが嬉しいんか?


「ふぅ、そこまで必死に否定しますのに後安先輩のカノジョという点は否定しませんのね? どうやらわたくし、ボランティア同好会の正体見たりと胸の内に嘆きの十字架ロザリオが突き刺さり口惜しいです。嗚呼、なんて悲しい」


 だが、この必死さが逆に怪しいと勝手に踏まれたようで、大和屋部長さんはひとり招き蕩う黄金劇場アエストゥス・ドムス・アウレアを演じて納得するとサッと踵を返して、スズネちゃんの元へと向かう。


「チネネちゃん、あなた、後安先輩の噂はわたくしから聞いていましたわよね?」

「はい、でもそれは関係ありませんよぅ。たまたまですねぇ、偶然が重なって好きになった人がろうえい先輩だった。それだけなんですよねぇ」

「チネネちゃんあなた、もしやボランティア同好会に入るつもりで?」

「そうですねぇ、ろうえい先輩と一緒の部活動というのも素敵ですよねぇ。可愛い先輩達にも囲まれて、スズネも楽しく過ごせそうですよねぇ」

「ふぅ、やれやれね。わかりましたわチネネちゃん」


 スズネちゃんとの話は済んだのか、クルリと踵を返してこちらに戻ってくると、大和屋部長さんは最も強い目力で俺を見据えると人差し指を突きつけ


「後安郎英先輩。よろしいですわ、あなたのボランティア同好会と我が真正お嬢様部。次の第四土曜日に地域美化清掃で対決といきましょう」


 と、高らかに宣言された。いやいやちょっと待て、なぜ急にそんな対決方向に話を持っていく? それに、ボランティア同好会の代表は俺じゃなくて意流風先輩のはずだが。


「たとえのご学友であろうとも。というかわたくしは宇市ウイ×郎英ロエ──」

「──あのぅ、ちょっと気になった点が色々あった中で、一点だけ気になる所を指摘して、いいかい?」

「なんですの?」

「宇市郎さまて呼んでるけど君、もしかして宇市ういちゃんガールズだったりする?」

「ァッッ!──スゥーッ、フウウゥッッ。よし、それでは皆さん、第四土曜日の地域共同美化清掃よろしくお願いいたしますわッ」


 長いため息のあと、大和屋撫子部長は一息に語って、シュババッと部室を出てゆくのだった。



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