襲来? 真正お嬢様部部長!!(四)
「――わたくしたち真正お嬢様部はボランティア同好会に」
カッと力強く意流風先輩を見据えながら、大和屋部長は制服ポケットから、丁寧に小さく折りたたまれたプリント用紙を取り出し手早く広げて、意流風先輩に手渡した。先輩はクールを装った顔でプリント内容に目を通すと
「――へえぁ?」
一瞬、ポンコツな声を漏らして、大和屋部長の顔を見つめた。
「これは、地域美化一斉清掃共同作業案内と書かれているが……なんだいこれ?」
「そのまま書いてあるとおりですわ。ご町内で定期的に執り行われている地域美化一斉清掃に部活動の一環として、わたくし達お嬢様部も今度の第四土曜日のお休みに参加することになっていますの。ついてはボランティア同好会の皆さんにもご参加いただきますよう。部長であるわたくしが代表して馳せ参じましたの」
「ぇ、君たちの部活動になぜ私達が、敵に塩を送るようなものじゃないのかい?」
「シオ?……ふ、まさかわたくしの意図を分からないとでも?」
「ふ、わかるさ……そう、つまりは私達と競いたいというわけだね。どちらが上手く清掃できるのかを、いいともこの勝負を受けてたとうじゃないか」
「ぇ、ちがぁ……そう、ご理解していただけましたのね。当日の第四土曜日が楽しみですわね」
「まったく――ッえぇ、土曜日の朝はウルトラマンのリアタ――いぃッ、いやはぁ、まったくだねぇ、楽しみだなあぁ、あ、あは──あっはっはっはっはっ」
二人はどこか微妙に納得したようなしてないような微妙な空気をゴチャゴチャと掻き混ぜて最終的に納得したような感じだ。なんか、若干瞳を潤ませてヤケクソ笑いな意流風先輩が気になるところだが。とにかく、大和屋部長は地域美化一斉清掃の参加合意に達したようだ。
しかし、なんというか、この二人は。
「――似た者同士て感じだよなぁ、おマッチ先輩とヤマちゃん部長」
「うん、なんか糸がほつれ合いすぎて思いが伝わってない感じもするけど……て、しろぼうもうあだ名つけちゃったの?」
美咲花と下城も似たような感想を持ったか。
「なんかさ、時間が経てばこの二人は仲良くなれる気がするぞ、いや、もう仲良いんじゃねえかなコレは」
「うん」
「確かにぃ」
俺たちは妙に納得した感じで頷き、この二人のやり取りを眺めるのだった。
「わぁ、よかったですねぇヤマヤちゃ~ぁん。ボランティア同好会とお嬢様部? で、一緒に活動するんですねぇ」
スズネちゃんがタタッと大和屋部長さんに近づいてホンワカ笑いで話しかけている。大和屋部長さんは、ふ、と笑って応える。
「ふ、しかし、チネネ──知念さん。貴女がボランティア同好会のメンバーだったとは思いもしませんでした」
「えー、スズネは別にボランティア同好会ではありませんよぅ。あぁ、いま知念さんて言いましたねぇ、他人ぎょうぎぃ~っ」
「ふむ、そうなんですの? いや、呼び方はどうでもよろしくて。それより、縁もゆかりも無いのならなぜここに?」
「むぅ、スズネにはどうでもよい事ではないんですけどぉ。ボランティア同好会に縁ならありますよ、イルカちゃん先輩とはお友だちになれましたし、それにぃ、大好きなろうえい先輩が所属してますからねぇ」
「はっ、ちょっと待ちたまへよスズネくん?」
和やかな二人の会話に挙手をして待ったを掛けたのは意流風先輩だ。
「何ですかぁ?」
「君キミ、後安くんの事が好きなのかい?……ら、
「いえいえ、愛する人は
スズネちゃんが可愛くハートを両手で作ってにっこりニンマリほんわか笑うのに対して先輩は目を一眼レフカメラが連続でシャッターを切るように瞬かせて「後安くんの事を愛するぅラブラブゥ? 好き好き大好き魔女裁判?」などとよく分からない事を言ってピッシリと固まってしまった。いや、大丈夫かおいっ。
「えーッ、ゴアちゃんマジでッ! スズちゃんおめぇさんのこと好きなんかッ!」
なんだか隣でもめちゃくちゃ驚いている下城ぼうしさんが目の前にシュバッと周りこんできた。
「うーん、なんか好きなんだって俺のこと、正直、俺自身も実感はまだなんともわかんないんだけど。えーと、言ってなかったけ?」
「聞いてねえよッ、教えとけってッ。えぇ、でも、ミサちゃんは知ってたんか?」
「まぁ、一応ね今日の朝からだけど」
「え、平気なん? 好きな人だべ?」
「平気もなにも、好きに一生懸命なんだもんあの子。認めないなんて、無理じゃない。それより、なんでしろぼうがそんなに必死なわけよ?」
「ええっ、だってそりゃ友達だからさぁ、だからよぅ──いや、なんなんアタシ?」
「いや、なんなん? て俺に聞かれてもなぁ?」
頭が「?」マークにでもなってそうな顔でこっち向かれても、こっちも「?」で返すしかないのだが。
「ん~……うはははっ、なんかよくわかんねえから気にすんのやめよっかなッ」
「おう、細かい事を気にしないのは下城らしいな。だったら俺も気にしねえわ」
「んだよそれ、褒めてんのかぁけなしてんのかあっ、ああんッ!」
「褒めてますよッ、褒めてますって」
「……ふぅ」
いつもの感じで下城と漫才風にふざけたが、隣の美咲花はなんだかため息をついている。ん、いったいどうしたんだ?
「美さ──」
「──ちょっちょっちょっと、あなた本当にあの
「──いいっっ!?」
美咲花に声を掛けようとした瞬間、真正面からビリビリとガラスが揺れてるんじゃないかという高い声が俺に向かって飛んできた。俺がビクッとそちらを向くとほぼノータイムでこちらまで音も無く距離を詰めてくる人物がひとり。それが縦ロールドリルで煌めく瞳が眩しいお嬢様なもんだから、マジもんにビックリした。だって、さっきまでお嬢様然としてた今でも見た目はハッキリとお嬢様な大和屋部長さんの雰囲気がまるで違って見えるんだもの。驚かない方がおかしいだろう。
「どうなんでしょうか先輩!」
「せ、先輩て、あ、俺かしら?」
「私があなたに向かって言ってるんだからそうでしょうとも!」
いや、確かに一年生のみだというお嬢様部の部長さんから見れば間違いなく二年の俺は先輩になるわけだが、あまりにも年下に見えないんだから頭が混乱するんだよ。ていうか、君、キャラ違くないかい?
「どうなのでしょうか!」
「うん、まあ産まれた時から
「……なんということでしょう」
いや、そんな劇的にビフォーでアフターな事言いながらよろけられても、一体全体どうしたんよ。
「そんな、
「ん、宇市郎さま?」
「ハーレム・キング、ロード・オブ・ザ・タラシ。後安郎英先輩が……」
いや、おいおいちょっと待て待てッ! なんだいそのイヤすぎる二つ名共はっ。初めて聞いたってばよっ!?
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