襲来? 真正お嬢様部部長!! (三)


「どうも遅れてしまってすみませ〜ん」


 圧くなった戦場の空気をホンワカパンチでぽかぽかとなぐりとばしながら、スズネちゃんはニッコニコやかとした蕩ける蜂蜜笑顔ハニースマイルでテトテトとこちらにやってくる。


「スズネちゃん、今はそのね」

「はい? あぁ~、もしかしてなにか大事なお話中だったんですかぁ。ごめんなさ〜い」


 特になにも知らないスズネちゃんはペコペコと俺たちに頭を下げながら、大和屋部長にもペコペコしようと顔を真正面に向ける。


「ち、チネネ――なずぇ」


 と、急にどこからか裏返った声が聞こえてきて、俺たちは「ん?」と首を傾げる。

 なんだろう、今の声。その、気のせいか大和屋部長さんから聞こえたような気が。


「はい、スズネは知念ですけどぉ……ん〜?」


 スズネちゃんは自分の名前が呼ばれたと感じたか、飴玉みたいなコロコロまん丸な瞳で、じ~っと大和屋部長を観察するように見つめる。大和屋部長は無意識なのか、煌く星の瞳を逸らす。スズネちゃんが回り込む。逸らす、回り込む。を何度も繰り返すと、胸の前でパチンと両手のひらをごちそうさまなポーズで叩いて、納得顔をした。


「あー、ほらやっぱりヤマヤちゃんだったんですねぇ。イルカちゃん先輩から見せてもらった画像を見てピピーンにデデーンときちゃったんですけど、会ってみればヤマヤちゃん以外には考えられませぇん」

「人ち――……見せてもらった? ちょっと知念さん、あなた大街先輩とお知り合いでしたの?」

「ほらぁ〜、やっぱりヤ・マ・ヤ・ちゃんっ。でしたねぇ」

「ぁ……わたくしはなんておバカ」


 得意げなスズネちゃんにクルクル人差し指を回し刺され、部長さんは額に指を当てて、首を横に振ってため息を吐いている。めちゃくちゃ楽しそうな様子で笑うスズネちゃんを、俺は手招きで呼ぶ。スズネちゃんは嬉しそうにこちらにタタッと駆け寄ってきた。


「はいは~い、なんですかぁ?」

「あの、やっぱり大和屋部長さんはスズネちゃんの知り合いで間違いなかったのかな?」

「ですです、お友達のヤマヤちゃんですぅ」

「それと、さっきから大和屋部長さんのことヤマヤちゃんて呼んでるけど、ニックネームかなにか?」

「ヤマトヤ〜? あ〜、うーん、そこはスズネにはわからない名前なんですけどぉ、ヤマヤちゃんはぁ……ねぇヤマヤちゃん、言っても大丈夫かなぁ?」

「沈黙は美徳、隠したベールは剥がさない。ということですので絶対に、NOですわね。と、その前に、いつお友達になりましたのかしら? あなたとわたくし?」

「えー、スズネとヤマヤちゃんはずっとお友達じゃないですかあ?」

「ふ、言うだけ無料タダということですわね。よろしい、幾らでも吹聴なさいな。わたくしは永遠トワに認めませんけども」

「うむむ、なにかのモードに入っているという事ですねぇ。わかりましたぁ」


 うーん、この二人ぜったい仲良しじゃね? というか、大和屋部長さんのイメージが少し変わったと言いますか、お隣でクール気取ってる我らが意流風パイセンと似た者を感じるような気がします。


「おやおや、大和屋撫子くんは偽名だったのかい?」

「ウふふっ、嫌ですわ偽名だなんて、大和屋撫子もわたくしの一部。部活時のお嬢様の真名トゥルーネームなのですから」


 何やら今だミステリアスガールな仮面を被った意流風先輩の挑発的な発言に釣られてなかなかに面白い事を言い始める大和屋撫子(仮称)部長。だが、本人はとても大真面目な雰囲気なので茶化すのはよすとしよう。いや、その煌めく眼力に向かって茶化す勇気はまるで無いんですけどもね。


「ふふ、そうかい。ならばその生真面目な君の瞳の輝きに免じて、本名を聞き出すのはやめるとしようか、君は大和屋撫子くん。それ以上でも以下でも無い。サボテンの花が咲いているようにね」

「さすがは尊敬する大街意流風先輩ですわ。感謝致します」


 大和屋部長さんがフッと笑って会釈をすると、意流風先輩は不敵な笑みを浮かべて頷きつつ、顔を傾けてなんだか本人はカッコイイと思ってそうなポーズを取り、話を続けた。


「で、君が私の元にわざわざ訪れた理由はなにかあるんだろう? 部活連絡用アプリを使用してまでの用事がね」

「ふフ、まぁ大したご用事ではありませんけど、大街意流風ボランティア同好会長。私たち真正お嬢様部は、ボランティア同好会に」


 大和屋撫子部長は更に強くカッと目を見開き、意流風先輩を強く見据えてとある事を宣言するのだった。






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