襲来? 真正お嬢様部部長!! (一)


「ん~、お嬢様部ですかぁ?」

「ぇ……なに?」

「そんな部活存在すんのかよ?」



 意流風先輩の悲鳴に紙コップのお茶をクピクピと飲みながら空中を見上げるスズネちゃんと、顔を見合わせて遅れて目をパチクリとさせる美咲花と下城の姿はちょっと前の俺を見てるようでデジャヴてやつを感じる。


「お、お嬢様部というのはね、えーと頭に真正が付くのが正式名で――」


 意流風先輩は俺にしたようにみんなにも説明し始めた。なんか、あたふたテンパリングしてますけど、大丈夫かな?




 *


「―――と、言うわけでこの真正お嬢様部の活動が被っちゃってるからボランティア同好会がいらない子になっちゃうんだようぅ〜ッ、ふえぇ〜ッ」

「あぁ、ホラホラこんな大勢の前で泣かないで、先輩の威厳はどうしたんすか威厳は」


 案の定、説明が終わるとポンコツの素顔を晒して突っ伏してしまった我らが意流風先輩。美咲花も下城もなんだか遠い目をして俺を見ているのだが。


「あんた、思ってたより大変なとこに所属しちゃってたのね」

「うん、さすがはゴアちゃんのボスて感じだわなぁ。感情ジェットコースターじゃん、おマッチせんぱい」

「いや、君たち落ち着いてるけどね。この方はポンコツを曝け出したらこの場にいる全員を道連れにするから他人事じゃないぞ」

「そうだよっ、君たちも一緒に対策考えてもらうんだからねッ」


 ほうら、早速と特殊スキル「道連れ」を発動してきたぞ。二人とも「うわ」と仰け反って椅子を下げて逃げようとしたみたいだが、先輩の足がカッ、と椅子に巻き付いて逃さないように引き寄せた。うわ、脚長ッ。てか相変わらず器用だねこの人は。


「た、対策て、なにするんですか? 言っときますけどわたしとしろぼうは部外者だから、協力なんて――」

「――そんな難しいことじゃないんだよッ、放課後の部活中に乗り込んでくる真正お嬢様部とのお話合いの席に座ってくれるだけでいいのさっ」

「いやいや、それだったらゴアちゃんひとり生贄にあげますからそれで我慢してくれませんかね? 弾除けにはなってくれますってきっと」

「いやだよう、後安くんこういう時は後ろでイエスマンな風見鶏だもん」


 おいこら、本人眼の前にして酷い言いようじゃねえかこのやろう。傷ついたろうかコラッ。


「てか、お嬢様部とやらは全員一年生なんだから最上級生の意流風先輩が怖がる必要はないでしょうに」

「怖がるよっ! 特に部長の大和屋やまとや 撫子なでしこくんはっ、ぶっち怖いもんッ! 見なよこの写真をっ」


 最上級生の威厳なんてクソ喰らえだねっとでも言うようなヘタレ姿勢でタブレットを操作して俺たちにお嬢様部部長の画像を見せてくる。

 はて、それだけ怖がるならどんなお顔してるんだと三人で見てみると。


「縦ロールドリルッ」

「少女漫画みたいっ」

「これヅカ系の娘役じゃねぇの?」


 そこに映っていたのは昔の少女漫画に出てきそうな、どうやってセットすんのという両サイドクルクル巻かれた縦ロールドリルに、長いまつ毛に奥に星でも輝いているかのように見える潤みの強い瞳の女子生徒が優雅な立ちポーズをしている画像だった。


「でしょ、ビックリするぐらい絵に描いたお嬢様スタイルなんだよ、大和屋撫子くんっ」


 意流風先輩が何か満足げに頷いている。が、ちょっと待て、すんごい見た目が昔の少女漫画なお嬢様なのはわかったが、怖がる要素はどこにある?


「だって、圧が凄いんだもん。あって見ればわかるよ? ほら、この写真みたらすっごくっ本人に会ってみたいでしょ?」

「うーん、確かに会ってはみたいかもだけど……圧が凄いて聞くと」

「アタシもさすがに興味津々になっちまうけどもさぁ」

「というか、なんでこんな目立つ容姿の子を今まで認知してなかったんだ俺たち? 絶対に噂になるよなこんな目立つ子」

「「うん、それは確かに」」


 何やら、謎めいた真正お嬢様部の一年生部長、大和屋撫子さんに興味ありありになってしまった俺たちの後ろから覗き込んでくる視線がひとつ。


「ん〜、これはだよねぇ?」


 先程から黙ってお茶をクピクピ飲んでいた知念鈴音ちゃんその人だった。


「知ってるのかスズネちゃん?」

「はいはい、この子は隣のクラスのヤマヤちゃんですよぅ。あのぅ、よかったらスズネも放課後ご一緒してもよろしいでしょうかぁ?」


 スズネちゃんは人差し指で顎を触りながら、画像の中の大和屋撫子さんをしばらく眺めていた。







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