ランチタイムガールズコミュニケーションPart3
「いや、わたしのは普通くらいでしょ」
美咲花の落とす視線の先にあるお弁当にみんなも注目。ポップでキュートな小さな二つ重ねのお弁当箱の中には黄色い厚焼き玉子にタコさんウインナー、とろけるチーズの掛かったブロッコリーソテーにヘタの取れたプチトマトがコロコロしてるおかず組と気持ち控えめに詰められたご飯に山口県民定番ふりかけ「しそ入りわかめ」がパラパラふりかけられて真ん中に小さめの梅干しがチョコンとご飯に沈んでいる。
「うわはあぁッ、文句なしの可愛いカワイイkawaiiお弁当ですうぅ〜っ」
「ウオッ、女子力全開じゃアッ。こ、この子、かなりの強者なのでは?」
「いやぁ、相変わらず期待を裏切らねえなミサちゃんのお弁当わよぅ」
女子三人から、三者三様キャイキャイ高評価なご感想をいただいた美咲花は頬にパッと季節外れな紅葉を散らせて恥ずかしがっている。
「べ、別に、これはママの作ったおかずを詰めただけだから」
「ええッ、自分でお弁当詰めてるんですかぁ、スズネのミサカちゃん先輩への可愛いポイントが更に加算されちゃいますぅ」
「自分で詰めたって、え、盛り付けが完璧すぎるんだが」
「ミサちゃん朝早く起きてお弁当詰めるだけでも立派なもんなんだぜ、胸張って誇りな。ドンドンっと桃太郎みたいにセンス扇いでよ」
「なんでお弁当詰めただけでこんな高評価されてんのよ。当たり前なことやってるだけじゃないッ」
いやぁ美咲花さんや、それが出来ない子も結構大勢いらっしゃるんだぜ? 特にこの私めは起きたらもう包んであるお弁当をテーブルから持っていくだけですから、大したもんなんですわ。あ〜、しかし、
「ミサカちゃんせんぱ〜い。スズネにもその卵焼き一切れくれませんかぁ。このバクダンを半分あげますからぁ」
おっと、スズネちゃんが美味しい卵焼きに誘われて、下城バクダンで等価交換だ。
「そんな大きいの半分も食べらんないわよッ。別に一切れくらいあげるから」
「わあぁいッ」
呆れた美咲花が交換条件無しで卵焼きを一切れ、下城のおかず蓋の上に乗っけた。スズネちゃんもホワワァンとした笑顔で嬉しそうだ。うーん、正直この女子の楽しいおかず交換の図は心がホッコリとしていいなぁと思います。
「……なによ、気持ち悪い顔でこっちみて」
「いや、ひどくね。俺はただ――」
「――あんたも欲しいていうなら、もう一切れぐらいならあげてもいいけど」
「え、マジでっ。やったあっ」
思いがけず福代おばちゃん特製卵焼きがゴチになれるとは、それでは気が変わらないうちにいただこうかしらと箸を伸ばしたらスイッとお弁当箱が移動しました。あらちょっとどういうことだってばよ美咲花ちゃん?
「タダって言ってない、あんたのも出しなさい」
「え、そんな、お金の持ち合わせは……」
「おかずに決まってんでしょ? わかりきったボケはやめなさいよね」
あらら、さすがに大勢の前だと歯切れが悪いわね。やはりスズネちゃんや初対面の意流風先輩の前ではいつものキレの良さは出せないようだ。
「ん〜、おかずといってもそれほど珍しいもんは入ってないと思うが?」
「中身は、英子ちゃ――おばさんの作ったおかずでしょ、わたしに取っては交換する価値があるわね」
おっと、ついついうちの
しかし、そちらみたいに華やかなおかずじゃないと思うぜ。
パカッと開けた俺の黒のプラスチック製弁当箱の中身は、スーパーで買ってきたお惣菜コロッケ、大根メインの野菜と鶏肉の煮しめ、きんぴらこんにゃくとご飯の端にこれでもかとめり込ませた英子自家製きゅうりのキューちゃんというザ・晩のおかず茶色セットだ。
「わあっ、ろうえい先輩のお弁当も美味しそうですねぇ」
「え、そう? 昨日の晩のおかず詰め合わせだけど」
「いやぁわかってないよ後安くん、この茶色いおかずは美味いが染み込んでるやつじゃないか」
「おう、わかってますねぇ大街センパイ。このご飯とおかずの間を行き来する煮物の汁がご飯に染みて美味いんだよなぁ」
ほう、そういうものなのか、いつも食べてるもんだからありがたみが薄かったかなぁ。ごめん
「わたし、交換するならこれがいいっ」
美咲花が身を乗り出して指差したのはラップに包まれたきんぴらこんにゃくだ。
「いいけど、卵焼きと交換するには割に合わなく無いか? これっぽっちのこんにゃくだぜ?」
「なに言ってんのよ、英子ちゃんのきんぴらこんにゃく、わたしには割にありありのアリなのよ、七味唐辛子がこれでもかって振りかけられてて、ピリピリっとすっごく美味しいんだから」
そういうならいいけど、俺もおばちゃんの卵焼き食いたいし、というか、まんま英子ちゃん呼びになってるんだけど……ま、本人気づいてないしここは秘するが花とも言うしな、黙っとこう。
「ほんじゃ、交換成立」
「ぇ、別に丸々くれなくても、いいの?」
「あぁ、俺いつでも食えるし、卵焼き一切れ分の価値はあるぜ」
「じゃあ、遠慮なくいただくわね」
という事で等価交換成立。きんぴらこんにゃくの空いた隙間に魅惑の黄色い卵焼きがインされました。うーん、弁当箱に黄色い花が咲きましたわん。
「あのぅ、スズネもろうえい先輩のお弁当食べてみたいんですけどぉ?」
「え、うん、いいよ好きなの取って。下城も意流風先輩も、よかったらどうぞ?」
「マジでっ、いやちょっとこの大根気になってたんだよね。んじゃ、ゴアちゃんも好きにこっちのおかず取りな」
「じゃあ、箸を口に付ける前に各々交換するかい? 私はお弁当じゃなくて少し心苦しいけど」
「いえ、わたし実は学食を食べた事が無いので、その、お魚を少しいただいても」
はい、そういうわけで、みんなワイワイおかずの交換会をして、楽しいお昼ごはんをいただきますっ。
「ではでは、最初はミサカちゃん先輩の卵焼きをいただきま〜すッ。んッ、本当に美味しいですねぇッ」
スズネちゃんが早速、美咲花から貰った卵焼きに舌鼓を打ってコロコロお目々を輝かせている。俺も大好きな卵焼きだからな、そんな美味しい顔になるのもわかるよ。んじゃ、俺も久しぶりに福代おばちゃんの卵焼きいただきまーす。
(ん?)
口に入れた卵焼きは確かに美味いんだが……ちょっと、マヨネーズっぽい味がする。福代おばちゃんの卵焼きは素朴な甘いやつだったはずだけど、隠し味にマヨネーズ入れるようになったのか?
俺は、モグモグと小さく口を動かしながら美味しそうにうちのきんぴらこんにゃくを食べてる美咲花の顔を眺めながら、これはこれで美味しいマヨネーズ風味な卵焼きを飲みこんだ。
(ふむ……実はこれ、美咲花の手作りだったとか? いや、まさかね)
*
「ぷふぅ、やっぱりあの爆弾おにぎり一個はスズネには多すぎましたぁ」
「んなこと言って、全部食べてんじゃん。アタシの出番は無かったかぁ」
「だってぇ、美味しかったんですよぉ。残すのはもったいないなぁって」
「あっはははっ、そう言ってもらえるとあげた方としては嬉しいもんだ。また一緒に食べる機会があったら、あげようか?」
「できれば、もう少しカワイイ大きさがいいですよぅ」
ちょっと苦しげにお腹をポンポンと擦るスズネちゃんに、下城は豪快笑いで昔なじみな水筒のお茶を紙コップに注ぎながら冗談を言い、スズネちゃんもそれに乗っかりながら紙コップを受け取っている。すっかりと打ち解けていてもう昔からの友だちみたいだ。しかし、下城はともかくとしてスズネちゃんもよく食べる子だったんだな、爆弾一個は確かに多そうだったけど下城のみっちりおかずも食べつつ、意流風先輩や俺のおかずも取り分けぶんペロリと平らげて、意流風先輩と美咲花も途中から驚きの表情だった。こりゃ、本当にパンにしなくて正解だったかも知れない。
「あの、大街先輩、今日は部室使わせていただけて助かりました。ありがとうございます」
「んふぇ、あぁ、いやいや、私も久しぶりに楽しい昼食になったから逆にこっちがありがとうだね」
こちらはこちらで、美咲花が丁寧に意流風先輩ヘお礼を言っている。不意打ちを取られてちょっとポンコツ気味な返答をしたが、すぐに持ち直して、頼れる先輩の風格を醸し出して談笑をしている。うん、なんだかんだ無理を言ってしまったが、結果的には部室を使わせてもらえてよかったかもな、みんな仲良くなれたし。おっと、俺も先輩にお礼を言わないとな。
「意流風せんぱ──」
「──おや、あぁごめん、私の連絡アプリ通知が鳴っているな。なんだろうか?」
お礼を言おうとした瞬間、意流風先輩が横に置いていたタブレットが振動して通知を知らせてきた。先輩は慣れた手付きで操作をして……顔を真っ青にさせていた。
「どうしたんすか先輩?」
「お、おおおおおお嬢様部からだああぁァッッッ!!?」
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