ランチタイムガールズコミュニケーションPart2


「ほほう、そんな理由わけで女子三人も侍らして私の前に現れたというのかい?」

「いやいや、別に侍らしているわけではないんですけど、まぁいま話した通りです。あの、お昼ご一緒してもいいでしょうか?」


 蒼い眼を胡乱げに細めてくすんだ金髪の編み込み結び目を小指で掻く大街意流風おおまちいるか先輩。

 先輩は顧問の先生から信頼されているのか知らんがお昼にも部室の鍵を借りられるようで、ちょくちょくお昼ごはんは部室で食べているとよく言っていた。ならばもしかしたらと来てみたらいらっしゃったので、一緒に使わせてもらえないかと頼み込んでいる最中というわけだ。


「はぁ、お昼休みも過ぎてサヨナラしちゃうだろうし、困っているみたいだからいいよ。ただし、今日だけの特別だからね」

「ありがとうございます。さすがは尊敬する先輩だ懐が海の底よりも深いっ」

「ふふふ、褒めても何も出はしないぞ」


 先輩は初対面の後輩達の前かミステリアス仮面を深々と装着して、いつものなんだかんだの隠しきれない優しさで了承してくれた。


「よし、それじゃみんな了解もらえたから……て、どうした?」


 振り向くと女子三人が三者三様の表情で揃って固まっている。


「ちょっと、なんか同好会の幽霊やってるとは聞いていたけど、噂の部長さんが、こんな綺麗な人だなんてわたし聞いてない」

「いやぁ、激マブじゃん。本当に同じ世界の住人? こりゃ異世界ファンタジーじゃねえの」

「ミステリアスでカッコ可愛い系ですねぇ。スズネは舞台女優さんかと思いましたよぅ」


 あぁ、先輩の外見とミステリアス仮面越しに見たらそういう感想も出るのね、俺も初対面では心の中では一瞬そんな感じでしたわ。すぐにポンコツ晒していただいたので口にしたことはないけどね。


「おいおい、ちょっ待てよ後安くん、この子達ちょっといい子過ぎやしないか。くはあっ、超気持ち良すぎるっっ」


 おーい、ポンコツの本性チラ見えしてますよ意流風先輩。ちょっとだらんとしてきてる顔を引き締めて、イヤ、でももう遅いかも知らんけど。






 *





「よーし、これでいいかな」


 意流風先輩は部室隅に置かれた長テーブルをえっちらおっちら運んできてくれて、普段使ってる長テーブルとガッチンと合体させて食事スペースを広くしてくれた。まぁ、色々危なかっしくなるのを予想した俺と一緒にみんなも手伝いました。


「さ、好きなところに座ってくれて構わないよ」


 意流風先輩はちょっとかっこよさげな大人の余裕感を見せつけながらお昼ごはんの置かれた自分の席へと着席した。


「わぁっ、美味しそうですねぇイルカちゃん先輩のお昼ごはぁん」


 長テーブルを設置しながら自己紹介も済ませてやはり瞬時に仲良くなったスズネちゃんが意流風先輩のお昼ごはんに飴玉お目々をクリクリと輝かせている。


「え、そうかい? 学食のごはん運んできただけなんだけどね。私はお魚がよく使われてるA定食が大好きでね。つい学食を買いに行ったらこればっかり頼んできちゃうんだあ」


 意流風先輩はお気に入りの学食メニューを美味しそうだと言ってもらえて嬉しかったのか頬が緩んだ笑顔になっている。ミステリアスクールな仮面も自然と外れているが、こっちの笑顔の方が意流風先輩らしくはあるのでこのまま指摘しないでおこう。スズネちゃんも恐らく可愛いセンサーとやらが反応してるようで蕩ける笑顔で見つめている。

 ふんふん、今日のA定食は焼き鮭とイカじゃが煮とほうれん草コーンサラダに油揚げの味噌汁か。これは確かに美味そうだ。意流風先輩が大好きだって言うのもよくわかる。だが。


「そんな大好きなら、なんで食堂で食べないんすか? 部室まで持ってくるのも大変でしょう」

「だって、食堂て人がいっぱいで落ち着いて食べられないじゃないか。多少遠くてもゆっくり食べられる部室が私には一番というわけだよ」


 なるほど、最もな意見だ。確かに食堂は人でごった返してるから誰もいない部室のほうが落ち着いて食べられるという事もあるだろう。恐らく、教室も先輩にとっては食事をするには窮屈なのかもしれない。


「あれ、だったら俺たちがお仕掛けちゃったのはやっぱり迷惑だったんじゃ」

「え、やだ、迷惑なんてそんなこと思わないよ。たまには誰かと一緒に食べる食事もいいかなって思うし、むしろウェルカムカントリークラブ」

「最後何言ってんのかわかんないすけど、先輩がいいならホールインワンでオーケーかな?」

「きっちりゴルフネタわかってるじゃないか。そんなことより、スズネくんはお弁当を持ってないようだけどどうしたんだい? もしかしてお弁当忘れちゃったとか? よかったら手を付けてない側の鮭とイカじゃが半分こしようか?」


 ひとりだけ手ぶらで来ているスズネちゃんに意流風先輩はお皿をススッと薦める。


「いえいえ、本当は購買のパンを買おうと思ったんですけど」

「いやぁ、今から購買に行って買ってきても急いで食べちゃう事になりそうだかんね、このボウシさんのドデカベンをわけて一緒に食べようというわけですわ」


 言って下城が男子運動部員顔負けのどデカいお弁当をドンと置き、包みを広げた。中から豪快笑いな下城らしい大きな銀色のアルミ弁当箱ともう一段乗っけられた大きな丸いタッパーが現れる。


「うわぁ、大迫力なお弁当ですねぇ。確かにこんなに大きいとひとりでは食べ切れそうに無さそうですけど、本当にスズネが食べてもいいんですかぁ?」

「うっはははっ、いいのいいの。今日は爆弾バクダンにしてきたから、お裾分けも楽にできちゃうんだぜ」


 ちょっと心配そうなスズネちゃんに豪快笑いで応えながらアルミ弁当箱のフタをパッカンと開けた。中からは言ってた通りに爆弾が詰まっていた。海苔に包まれた大きなおむすび。いわゆる爆弾おむすびである。しかし、その大きさはなかなかのもので一個が大きなアルミ弁当箱の半分くらいの大きさだった。


「し、下城ちゃんさあ、これ「山賊むすび」くらいあるんじゃないの?」


 山賊むすびとは玖球町くたままちの山中にある和風ファミリーレストラン「いろり山賊」の看板メニューのひとつだ。大きなパリッとした海苔に包まれたおむすびの中に梅や昆布、塩鮭の入った一個でお腹も大満足なおむすびである。


「おぉい、山賊むすびならうどんと焼きもセットにしないとダメだろうよ。揃ってない以上、こいつは山賊むすびを名乗るわけにゃあいかねえなあ」


 この程度で山賊むすびを名乗るとはおこがましいと下城はチッチッチッと指を振った。

 ちなみに、下城の言っているうどんと焼きは「山賊うどん」という炭火でじっくり焼いた牛肉とわかめの入ったうどん。焼きはタレ漬けした鶏のもも肉を大きな竹串で刺し、これまた炭火でジックリと焼いた「山賊焼き」である。だいたい山賊に行ってメニューに迷った時はこれにすると良い鉄板メニュー。山賊三種の神器である。しかし、焼きとうどんがするりと出るとは下城、山賊ガチ勢だなチミは。


「ほいスズちゃん。約束どおりバクダン一個あげるね。山賊むすびと違って具はまったく入ってないけどな」

「スズネは山賊むすびを食べたことないからわかんないですけどぉ、このバクダンさんを一個も食べきれるのかなぁ」


 ポンと渡されてズシリと重そうなどデカ爆弾おむすびを両手で持ってスズネちゃんはジイッと物珍しげに眺める。


「ああ、食べきれなかったら無理しないで残していいよアタシが食べちゃうから、このくらいはペロリだよってさ。あっはははっ」


 下城は豪快に笑いながら丸いタッパーもパカンと開ける。中には唐揚げやらなにやらおかずぎっしりみっちりでこれだけでもお腹いっぱいになりそうだった。


「相変わらずすごい、なんでこんなに食べてそんなプロポーション維持できてんのよしろぼうは……」


 美咲花がどこか羨ましげな視線で下城の身体をジロジロと見る。


「えー、こんくらい食べないと力入んないじゃねえの。ボウシさんはミサちゃんがそれっぽっちのお弁当で足りんのかなていつも心配なんだけどな」

「いや、わたしのって言っても」


 下城の指摘に美咲花は包みをほどいたお弁当に視線を落としていた。



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