放課後部活の年上ミステリアスガール(P)


 突然だが、俺は部活動をやっている。と言っても部活の先輩に数合わせの幽霊部員を頼まれただけ選ばれてしまったなのだが、一応は部の所属である。本日も幽霊部員の特権を行使して、帰宅をしようかと思ったら突然スマホがバイブレーション。何かなと確認しましたら。


 ――今日はもちろん部活に来てくれるんでしょっ待ってるからねっ(ハート、スマイル、キラキラデコレーション。絵とセットら〜)――


 な、やたらとやかましい痛タなオプションをてんこ盛りにした目に厳しいメッセージがやってまいりましたので、本日は緊急部活日となりました。無視を決め込むと俺のスマホ通知がやかまし痛メッセに分単位で汚染されちゃうからね、行くしかないのよ。


 俺は、吹部が既に練習を始めている音楽室を横切ってそのお隣のお隣にある今は授業でも使われていない空き教室の前へと立ち尽くした。

 何やら窓にダンボールが貼られちょりますが、特に気にせずガラッと扉を開ける。


「……うぅん?」


 中も真新しい黒いカーテンが締め切られて、電気も消されています。まだ日はあるのにこの部屋から溢れる光は俺が開けた扉とカーテンの隙間からほんのりな日差しだけである。俺は辺りを一瞥してから、どこかにいるはずのこの部屋の主へと声を掛けた。


大街おおまちせんぱぁい、いますかぁ。いないなら帰っちゃいますよう、返事ください」


 ん、返事はない。どうやらいないようだ、ほんじゃあ仕方なし、か〜えろ──


「――そこは「意流風イルカ」先輩いますかぁでしょう」

「ィヒャア ッ!?」


 背後からヒュッと息を吹きかけるようなダウナーな声音に襲われ身体がゾワッときて変な悲鳴が口から漏れてしまった。


「随分と可愛い声を出すじゃないか」


 ゾワゾワな首を押さえながら振り向くと容姿ハーフアメリカンなパイセンが碧眼ブルーアイズを微妙に笑わせてダウナーに呟きながら肩を微妙に揺らしていた。どうやら可笑しくて笑いを堪えているようだ。口端もプクプクと動いています。


「というか、あなたはどっから湧いて出たんですかっ?」

「ンフフ、ずっと外で待ち伏せていたに決まってるじゃないか。部屋の中が怪しくなってるからといって、不用意に開けるもんじゃあないよワトソンくん。このように背後からフゥ〜、とぅ……撃たれてしまうぞ。気をつけなさぁい」


 先輩は楽しげに一房編み込まれた癖のあるくすんだ金髪アッシュゴールドの三つ編みを摘んでフリフリしながら注意喚起をしてくれました。心なしか胸の上で存在を主張する現三年生の証である葡萄酒色ワインレッドのタイも得意げにふんぞり返ってみえた。


「ようし本日のメインイベントはこれにてお終いだよ後安ゴアくん。さっさと窓張りダンボール剥がしを手伝いたまえ」

「……あれれぇもしかしてこのイタズラのためだけに今日ボクちんを呼んだなんて事は」

「正しくそれが真実だと言ったらどうするんだいワトソンくん?」


 うわぁ〜い、それは僕怒っちゃおっかなぁ〜。と、思います。


「あれ、あれれ? テープがうまく剥がれないんだが。ぇ、なんでぇ、貼るのはちゃんとできたのにぃ」

「いやいや落ち着いて落ち着いて、ガムテープの先に爪を掛けてゆっくりやればキレイに剥がれますから。ちょっ、スカートでそんなところ登らないでッ、鮮やかな青が見えてしまいますッッ!」

「ッッッッ!……あのう、ダンボール剥がさすのは後安くんメインで、お願いしちゃってもいいかい?」


 う〜ん、色々と頬染まりに縮こまっている先輩の事を怒れなくなってしまいました。ええ、俺は二つ返事でダンボールをテキパキと撤去いたしましたとも。いや、見えたのは一瞬だから、一瞬。はい、すみません後でもう一回あやまりますッ!


「ありがとう、手間をかけさせてしまったね」


 落ち着いた声の響きでカーテンを開け光差し込む先輩の整った顔が不敵に薄く笑う。どこかカッコよさげでミステリアスな雰囲気を醸し出しているが、ついさっきまでダンボールが剥がれなくて涙目なPポンコツを晒しているのを見ているので、特にカッコよいとは思わない。いつだってダウナークール系を装って雰囲気だけはミステリアスに中身ポンコツなのがこの「大街おおまち意流風いるか」という先輩であるのだ。


「ダンボール片付けたから帰ってもいいっすか?」

「まぁまぁ待ちたまえせっかく来たんだからもうちょいゆっくりしていきなさいよお茶くらいは用意するから、ね。急ぎの用事とか無いんでしょう? ね、無いよね?」


 そして、わかりやすく寂しんぼでもある。




 *



「さて、コーヒーが入ったよ。味をみてくれ」

「ん〜、すっごくBOSSボスですねぇ。期待通りの味だ」

「フフ、君のために自販機ドリンクコーナーまで走ったかいがあるというものだ」


 意流風先輩は満足げに紙コップに注ぎ入れたペットボトルクラフトBOSSプレミアムを揺らした。

 こういう部活での一時は給湯室から淹れたてのコーヒーが出てくるのがラノベの定番どころであるが、そんな立派なものは無い。ここはただの空き教室。もちろん小型冷蔵庫なんかが完備されてるわけもなく。飲み物は俺か意流風先輩が体育館に続く渡り廊下の途中にある自販機コーナーにスクランブルダッシュしてグレートにゲットする必要がある。


「しかし、君がボランティア同好会に入ってからもう一年も経つんだねぇ」


 意流風先輩はしみじみとコーヒーを飲みながら語る。俺もチビリとコーヒーを飲みながらあの日を思い出すとする。


 ――ちょっとそこの君、一年生ですよね。部活はまだ入ってない系な感じかい?

 ――はい? まだ入ってない系な感じではありますけど。

 ――そうかぁ。ところで、刃牙とか好きかい? キン肉マンとかはじめの一歩とかでもいいけど?

 ――刃牙? いやまぁ嫌いではないですけど? キン肉マンもはじめの一歩も好きっすね。あとはジョジョとかも。

 ――あぁ〜どれも面白いよねぇ、少年漫画の名作達は。じゃぁ、ボランティア同好会に興味はあるかい、あるよね?

 ――えと、突然なんですか。つうか、漫画の話はどこいった?

 ――きみッ、名前だけでもいいからボランティア同好会に在席してくれないっ。ほら、入部届けに名前書いて提出するだけだから簡単だよ、いやほんとにお願いします助けると思ってボランティア同好会に清き在籍をッ、幽霊部員でもいいんだからぁ〜ッ。



 ……ん〜、思い出してみても酷い初対面ファーストコンタクトだ。もうこのときからポンコツの片鱗が出まくってるじゃないか。


「……ところでだね」


 紙コップを手の中で揉み回しながら上目遣いに意流風先輩がこちらを見つめてくる。うーん、この仕草は何か言いたげな先輩のポンコツモーションだろう。ふむ、どうやら俺を呼んだのは本当にイタズラだけというわけではなさそうだな。真のメインイベントはここかららしい。


「なんでしょうか? まさか、ボランティア同好会とか言いながら特になにもしていなかったから廃部になりそうとか?」

「後安くん、君は時々エスパーだね」

「適当に言ったらビンゴっすか、幽霊部員な自分が言うのも何すけどちゃんとマトモな活動しないとダメですよ」

「違うもんやってなかったわけじゃないもんちゃんと地域のゴミ拾い活動とか――ん、んうっ、まぁその、この意流風センパイひとりの力ではどうしようも無かったというか……うん」

「ん? 先輩ひとりって、そういや今まで他の部員を見たことないような」

「いないよ、君を含めて全員数合わせだもの。幽霊部員ギリギリで無理やり承認して貰ったのがこのボランティア同好会なんだ。むしろ後安くんが一番来てくれているくらいだね」


 ぇ、先輩以外幽霊部員だったんですかっ。ぇ〜、知らなかった。うわぁ、幽霊とはいえ意流風先輩には結構負担かけてたのか。これはちょい反省だな。


「あの、先輩。そういう事情があったんなら言ってくださいよ。俺は他に部活やってるわけじゃないんで、これからは言ってくれればちゃんと同好会に参加しますよ?」

「ぇ、急にイケメンなこと言われるとギャップ萌えしちゃう」

「おっとよせよせ、褒めてもなにも出やしませんよってね」


 まぁ、意流風先輩のお褒めは今は袖に置くとして、ちょっとだけでもボランティア同好会らしい活動をしようかなと僕は思いましたまる

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