親愛なる野郎共と昼食を(二)
「なんだ、コンビニには柳楽さんもいたのかあ。ははっ、そうかそうか」
なにが、ハハッ! そうかそうかだ、キミは夢の国のMキー君かってのっ。
と言ったツッコミでもしたろうかと宇市朗を睨むが、彼はだいたいわかった聞きたいことは充分だと涼しいイケメンな横顔で食券のボタンを押していた。おっと、
「俺は納得してねえぞぅ。結局おまえは両手に花で女子と夜のコンビニデートしてたっていうことじゃんかよぅっ」
隣から春行がウラヤマシイウラメシイとひがみの極を発動しながら、ピッと迷いなくBランチ焼肉定食と大盛り食券を購入した。いや、見ないでよく食券買えるな。相変わらず妙に器用だわね春行ちゃんてば。それはそれとして俺も反論させて貰うぞ。
「おいだから言ってんでしょ、ただ友だちとお喋りしながら夜のキャラメルコーンをキメただけって話だぜ。 あーた、この程度でおデートなんて言ったら世の中はライブ感覚でデート・ア・ライブでラブライブアライブじゃございませんの。宇市朗なんかもう昼休み毎におデートになるぞ」
「俺の中では女の子とキャッキャッとお喋りしてたら全てデート判定だべがっ。そしてこの理屈でいけば
「おいおいちょっ、待てよ、人を捕まえてなんだおデートマシンて、それは春行の好きなアニメかなにかか?」
「サラッとスカしたとぼけ顔をしやがってぇ、宇市朗だってさっきまで愉悦な尋問官モードになってたじゃ――」
「――おい、そんなところで立ち話は後ろに迷惑じゃねえか? 食券買ったんならとっとと行こうぜ」
「あ、ゴメンね。ほらほら、
「ご、ごめんなさい」
いち早く食券を買って俺達を待っている
「あ、騒がしくしちゃってごめんね」
宇市朗も後ろで女子二人組に謝っていた。なんか、眼をしっかりと見てから頭を下げてナチュラル爽やかに微笑んでるのが見える。女子二人はズキューンと胸を撃ち抜かれた熱っぽい目と両手でも抑えきれない程の黄色い声を漏らしていた。彼女達の声を背に俺達の方へと歩いてくる宇市朗はまるでファンサを終えたアイドルのように見えるぜ。いや、宇市ちゃんガールズにとっては彼は永遠のアイドルかしら。きっと後ろの彼女達も宇市ちゃんガールズに入る事だろう。
「相変わらずすごいよな宇市朗は」
「ん、お前らと同じように謝っただけなんだが? 俺は、郎英の方が凄いと思うけどね」
うーん、いやいや俺らとまったく違うよ反応見るに。この子自分のイケメンポテンシャルをまだまだわかってないんじゃないかしら。俺達がわかったのは宇市ちゃんガールズ新規ニ名様ご案内になったということだろう。
「ぢぐじょう〜、なぁんでいつも宇市朗と朗英にばかり女子が~っ」
な〜んか隣でまた春行くんがやっかみ言っちょりますが、きみ、宇市ちゃんガールズ達に嫌われるムーブばっかりしてんじゃないのよ。あと、俺をそこに入れるんじゃない。オイラと学校で接点のある女子て「三人」だけなんだからね? 色気のある話はなんも無いぞ。
*
我らが星陰高校の学食は食券システムである。カウンターに食券を置くと流れるように厨房のおばちゃん達がそれを回収し、食券をちぎり番号が書いてある半券を返す。数分後には魔法のように素早くカウンターに注文した料理が現れ、トレイに書かれた番号と自分の手にした半券番号を確認して学生達が次々と受け取っていく。生徒達は食事を終えると回収カウンターへと食器を戻すというのが一連の流れである。
俺達は食券をカウンターへと置きながら空いてる席を確認、今日はそれほど多くはなさそうだが。四人分となるとなかなか難しそうだ。
「お、あそこが空いてんじゃ〜ん」
目敏く四人分座れそうなスペースを確認した春行がセルフのお水を両手に持って席確保へと向かう。予めお冷を自分と対面席の両方に置いて確保しておけば他の生徒が座りには来ないのが星高学食の暗黙ルールなのだ。ちなみに、混んでいる時はこのルールは適用されないぞ。混み合う食堂は戦い。一種の戦場である。敗者は諦めて教室か中庭にでも持っていて食べるのだ。まぁ、中庭の方がよいという生徒も多いようですが(特に女子人気高し)。その場合は弁当組との新たなバトルになるが、それは今の我々には関係ない話なので割愛しましょう。
さて、ちょっとして注文が出来上がった食事を確認すると春行へと手を上げて合図を出し、俺と宇市朗とが春行と入れ替わるように席へと着き、春行は自分の食事を取りに行って戻ってくる。一丸は注文した料理が多いのでもう少し掛かりそうだ。
「どうする、一丸を待ってから食うか?」
「いや、さっきに食っててくれってさ。郎英はラーメンだし伸びちまうのは飯に失礼だってよ」
「そうか、ほんなら悪いけど遠慮なく」
「「「いただきますっ」」」
俺達はお行儀よく同時にいただきますをすると、各々食事を始めた。
「ふうぅ、ひっさびさぁッ」
普段は英子の愛母弁当のお世話になっているため、久しぶりに食べる食堂の熱々な大盛りラーメンはとても魅力的に映る。具材はハムのように薄いチャーシューとこれでもかと入れられたキャベツともやしの野菜炒めにコーン&ワカメ。割り箸を突き刺すと縮れた麺がとんこつスープによく絡んで美味そうだ。ズズッと勢いよく啜ると濃すぎるほどに濃すぎなスープがドロンドロンにしつこくて美味。
「はぁ〜、学食の飯って感じだなぁ」
俺は満足に頷いて少しのパンチを欲し、テーブル胡椒をババッと掛けて野菜炒めと麺をワシワシズルズルと本格的に食い始める。隣でBランチ定食のワカメしか入ってない味噌汁を啜って春行もほうと息をついて不揃いな牛バラ焼肉を野菜を絡めずソロでガッツいている。こら、ちゃんと野菜も食べなさいよねっ。
「相変わらず微妙に美味ぇんだよなぁ、うちの学食は。飯の盛りもデカいし、安く量食えて箸が進むわなぁ」
「あぁ、俺も結構好きだ」
「うん、なんか癖になっちゃうお味」
「もう俺、おばちゃんにこれしか食えない身体にされちゃい――」
「――待たせたな」
ワイワイと食事をしていると、一丸が食事を持ってご登場だ。トレイはなんと二つッ。メニューは俺と同じとんこつラーメンに、カツ丼とカレーライスがドカンと全て大盛りだ。
「いやぁ、しかし相変わらずよく食うねぇ鶏村選手は」
「あぁ、ハードに部活に攻め立てられちまうと腹はいつでも減るもんでね」
渋みの効いた笑いを少し見せながら豪快にズゾゾッと麺を啜り、もう片方の手でカレーを食べるという器用さで食事を開始していく一丸。食事をするときは凄く表情豊かに美味そうに食べるので、こちらもなんだかニ割増しくらい美味しく食べれそうな気分になってくる。俺達は暫く黙って食事に集中した。
「おっと、飯に流されて忘れるところだったっ。おい、郎英ッ」
「ん、なんだよ?」
楽しい食事も終わろうかという頃に、春行がお冷でお口を湿らせながらジトリとこちらを睨んでくる。
「なんだよじゃねえよとぼけやがって、おまえはどんだけ恵まれてんのかわかってねえなって話だよっ」
「おいおい、俺だって大地のお恵みには感謝してご飯を毎日いただいてますよ。お米の神さま恵みを今日もありがとう感謝感謝ですよ」
「そうゆう恵みじゃねえよッ。女子だよ女子っ、おまえの周りの女子に恵まれてんだって話」
キレのよいツッコミをキメた春行は「女子」を強く連呼する。まぁた始まったよこの子ったらぁ。
「ヘイ、ミスターハルユキ。何度も言いますよっ、別におまえが羨ましがるような事はなにもないぜ? 羨ましがるなら宇市朗の方にしなさいって、ガールズいっぱい夢いっぱいよ」
「
宇市ちゃんガールズに関しては君が僻み根性で煽りまくったという自業自得があると思いますが……その感情の処理をこちらに向けるのはやめていただきたいものですね。
「てか、俺のなぁにが羨ましいてのよ、言ってごらんなさいな。ほらほら」
「普段は目立たないけど健気で可愛い幼馴染み、
いやいや、美咲花はツンツン幼馴染み、下城とは普通にお友達、
「はあ〜ぁ、恵まれてる事に気づかない野郎には何を言っても無駄なんだよなぁ」
おのれ、まだ言うか。しつこいわよ春行ちゃんッ。
「まあけど、確かに郎英は恵まれてるとは俺も思うな。少しは自覚した方がいいんじゃないか?」
「いや、それは
「そうだっ、お前にはガールズがいるんだからなっ。だが、自覚しろと言うのは非常に正し――」
「――おめぇら、そろそろ食い終わらねぇか?」
「「「ん?」」」
落ち着いた重低な声に三人同時に顔を向けると。そこにはカツ丼のどんぶりに箸を置いて、渋くお冷を飲んでる一丸の姿があった。
「ぇ、鶏村選手もうカツ丼までペロリと食っちゃったの」
「ふ、俺は飯と真剣に向き合うからな」
おぉ、一丸が言うと謎にカッコいい名言に聞こえるぜ。まぁ、要約するとご飯は黙って食べましょうよて事ですね。
「しっかし、一丸は全然、女の子の気配は無いよなぁ。そこはめちゃくちゃ安心できるぜ」
食器をカウンターへと片付けに行く間に春行は仲間意識に一丸へと笑いかける。こら、それはちょっと一丸に失礼よ。確かに女っ気はなさそうではあるけども。
「春行……おめぇと一緒にすんな」
「えっ」
「おっとまさか」
「お前も裏切りなのかあぁッ」
突然のスクープと俺達が三者三様に驚いていると、一丸はトレイを二つ返却カウンターにシュカッとカッコよく滑らせると、落ち着いた声で俺達に言った。
「俺のカノジョは野球――だ」
野球一筋な実に一丸らしい答えが返ってくるのであった。
食堂編、終わりッ。
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