親愛なる野郎共と昼食を(一)
「おーい、お楽しみな昼飯の時間だぜっ。学食行くやつこの指と〜まれッ」
なぞと午前中授業の終わりと同時に人差し指を立てるハイテンション野郎はこの俺――ではなく、クラスメイトの「
めちゃくちゃ俺の方に歩いて来てるという事はこのツーブロックな刈り上げ君は俺の友だちという事がお解りいただけるだろう。しばらくちょっと無言で見つめてやると「行かないのう?」て眉毛八の字に下げるツーブロ刈り上げ野郎。その姿はそこそこガタイのいい野郎がやっても対して可愛くはならんのである。しかし、学食に行く約束はしてるからそんな顔はせんでも行くのは行くのだが。
「学食なら俺も行こう」
やたらと渋い声を発するやたらとガタイの良すぎるマッチョ
「あれ、でも「
「ふっ、そいつは朝練後とっくに食い終わっちまったさ」
「いや、おめぇ早弁しちゃったことを渋い雰囲気で誤魔化してんじゃねぇよ」
「やれやれ、俺は誤魔化したつもりはなかったんだがな」
「いや、だから雰囲気渋いんだってばよ」
やたらと渋いどう見ても
「なあなあ「
「ん、ああそうだな、
隣の席に座っていた無造作ヘアのイケメン風というか文字通りのイケメン男子も薄く微笑み了承した。
彼の名は「
ちなみに宇市朗に先約を取り付けられるのはそれはそれは珍しい事である。
「俺だって、毎日お弁当片手に昼飯てわけでもないさ。お前らとつるむのも楽しいからな」
と、言ってくれるのは嬉しいが、遠巻きに女子達の恨めしい視線がバシバシ痛いのだが、まあ、大半は飯に誘った春行に集まっているのだが。
「ハハハハ! やったぜ、今日の昼飯の宇市朗は俺たちのもんだなぁッ!」
おまえ、そんな煽りするから宇市ちゃんガールズから反感買うんだよ。見ろ「石谷きゅん、○しちゃうわよオーラ」が集まってきてんじゃねえの。
「石谷、そんなことを言うもんじゃない。ゴメンね、何度も言うけど悪いやつじゃないんだ。春行のこと嫌わないでくれると嬉しいな」
お、さすがは宇市朗ちゃん。ファンの扱いにも慣れてますわね。ドス黒い女子達のオーラが黄色やピンクに一瞬で早変わり――。
「うるせぇ! イケメンからの好感度アップなんざいるかよっ!
だから石谷くんさぁ、せっかく宇市朗が恨みを霧散とさせてくれたのに、強がりで一気に哀と怒りと憎しみを引き戻すんじゃありません。ほら、さすがに宇市朗も呆れてんじゃないの。
「ふ、とっとと、食堂に行っちまうに限るんじゃねえか」
「おう、そうだな行こう行こう」
一丸の渋みのある一言でなんとか教室から脱出できそうだ。だが、こいつはただ単に早く昼飯食いてえてだけなんだろうけど。
「……」
宇市ちゃんガールズの石谷きゅんコ□すからねオーラに混じって、自分の席に座ったまま横目で俺をつまらなげに眺める美咲花の視線を感じながら俺も教室を出た。
「いいのか?」
「ん〜、俺からは学校で声かけられんのよなぁ。知ってんでしょ?」
「よくわからんがそうみたいなんだよな、いざって時は俺達に遠慮することは無いからな。お前は柳楽さんを大事にするべきだ」
宇市朗は前々から俺と美咲花の仲をなにかと勘違いしてくれているようだが特になにもないただの幼馴染みだぞ、それに、学校では俺の出る幕はないんだよ。そうだな、学校では気難し屋な美咲花の相手をできるのは。
「おぉい、野郎共が連れ立ってどっこ、行くのんッ」
お、噂をすればなんとやら、廊下を出てすぐに下城 ぼうしさんがこちらに歩いてきてますわ。
下城は昨日の夜の灰色ダボつきパーカーとは違い、パリッとした真っ白な制服シャツに首から胸元に流れる二年生の証である
よく見知った学生服姿の下城は「おいっす」と昨日の俺がやった往年の大御所芸人のように片手を上げて近づいてくる。そのままその手にハイタッチを返すと、イエーイとサムズアップをして何やら満足そうに白い歯を見せてニシシと明るく笑う。うーん、中身が芸人女子と知らなかったらちょっとドキッとしちゃいそうだね。なんか、隣の春行くんは凄く羨ましそうな顔をしてますけど。
「もしかして、柳楽を飯にお誘いに?」
「うん、そうそう。お弁当さんの交換会でもしたろっかなって」
下城は男子顔負けのドカベンな包みを俺に見せる。
「そっか、じゃぁ柳楽のことよろしくな」
「おう、言われなくてもよろしくされちゃうし昼飯も楽しんじゃうぜ、んじゃ――と、そうだそうだ」
片手を上げて俺達の横を通り過ぎようとして、何かを思い出したようで、そのまま上げた片手で俺の肩を叩いて下城は口端をニッと上げた。
「昨日はあたしまで送ってもらっちってサンキューな」
「おう、そんなことか。さすがに女の子の夜のひとり歩きは危ないからな。気にしなくてもいいよ」
「だがしかしおめぇ、サラッとしたそうゆうムーブが女の子を勘違いさせたりやきもきさせたりすんだぞう。さり気によう」
「なんの話だ?」
「おっとう、ここからはお口チャック有料なんだぜお客さ〜ん。真相を知りたきゃボウシさんのメイン回に突入しねえとな。ま、お礼を言い忘れてたなってだけだからんじゃね、ボウシさんは本命のミサちゃんの所にランチデートすっから、バイバーイ」
「うっはははっ」と豪快笑いで手をヒラヒラと揺らしながら、下城は嵐のように去っていった。
「やれやれ今日も明日も明後日も元気モリモリて感じだなぁ」
我がB組に入ってゆく後ろ姿に頼もしいものを感じながらその背中を見送ってから「さぁ行こうぜ」と親愛なる野郎共へと向き直ると。
「行こうぜじゃねえよオメェ、昨日は送ってもらってサンキューな? あッ、明らかにウラヤマメシイ匂いがプンプンとするんだがぁっ」
なんだよ、ウラヤマメシイて。春行が変に勘ぐってエアハンカチをきぃーっと噛んでるポーズをするので誤解を解くために簡単に説明した。
「別に大したことはないって、昨日の夜にコンビニで一緒にお菓子食って――」
「よ、
――俺が言い終わる前に頭がどピンクモードに変化した春行が素っ頓狂な声を上げる。コラコラ、最後までちゃんと話を聞きな……。
――がしっ。
ん、あれぇなんで僕、両腕をホールドされちゃってんのかしら? ちょっと、宇市朗ちゃん? 一丸ちゃん?
「まぁまぁ、ちょっと飯食いながらお話ししようじゃないか、理由を詳しく教えて貰えると助かるな」
「俺もそろそろ限界に近いからな。悪く思うんじゃねえぞ」
「ようし、とっちめるぞ裏切りモンがあっ」
もしもしアタイ、囚われの宇宙人。いま、食堂に連行されるところなの?
いやいやお前らちゃんと俺の話をお聞きなさい。お聞きなさいって、オーイッ。
俺の声は虚しくも届かず、食堂編へと続く。
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