神々の最終決戦

 アリアの命が風前の灯火になった時、俺の前に山よりも巨大な怪物が現れた。


「余こそが神だ」


 狂ったように目の前の化物はそう繰り返した。しかし、今は闘う余力なんてなかった。


「神の座なんてくれてやるよ!今だけ待ってくれよ!俺を倒してお前が神になったら、お前が異教の神と戦うことになるんだよ。体力は温存しておきたいだろ?アリアが元気になるまで待ってくれたら、大人しく殺されてやるからさあ、ほんの少しだけ時間をくれよ!」


 必死に懇願した。世界がどうなってもいい。アリアには肉体を与えたから、信者のスピザイアが消滅してもアリアだけは無事でいられる。


「断る。余は愚教信者以外の全てのスピザイアが信じる教義が融合して生まれた信仰の権化。貴様を倒し、愚教信者を抹殺すれば二度と余に歯向かう神は生まれない。次の戦いなどない。貴様が最後の敵だ」


 だが、奴は高らかに笑った。いわゆる新興宗教団体が出来上がりつつある不穏な空気は薄々感じていたが、これほどの規模のものとは思わなかった。


「これが正真正銘の最終決戦だ」


 奴はそう言って火球を放つ。火球は俺ではなくアリアを狙った。俺は間に立ちふさがってアリアを庇う。俺の体ほどの大きさの火球が俺を焼いた。熱い。力のほとんどをアリアに授けた今、受けるダメージも今までとは比べ物にならないほど大きい。


「やめろ!アリアは関係ないだろ!」


 戦わなくてはアリアを守れない。裏を返せば、こいつさえ倒せばもう二度と戦わなくていい。元気なアリアを取り戻すことに残りの寿命を捧げられる。

 


 ならば戦うのみ。ノーガードの接近戦で身を削る。アリアを失う恐怖に比べたら、痛みなど気にしていられない。しかし、致死量級の血が流れ、俺の体はアラートを鳴らしていた。


 俺は覚悟を決めた。良くて同士討ち、悪くて無駄死に。それでも、アリアがこの怪物に惨殺されるくらいならせめて安らかな眠りを。


 敵の渾身の一撃をあえて喰らった。その隙に鋼鉄の装甲を貫いて、敵の心臓へと爪を刺す。


 そして俺の生命の全てを攻撃エネルギーへと変換する。どちらの命が尽きるのが早いかの根競べ。けれどその前に、最期に伝えさせてくれ。


「アリア、俺はもう痛くも悲しくもないから安心して」


 俺のありったけの力をこの一撃に注ぎ込む。敵も同じことをしている。体の温度も感覚も何もかもが消えていく。アリアを守りたいという気持ちだけが俺を支えていた。


 走馬灯が流れる。アリアと出会ったあの日から始まった。そして、アリアがあの銀の花に命名した瞬間、閃光が弾けて大爆発が起こった。

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