神の衰弱

 相変わらず聖戦は突発的に発生し、俺の体からは血が流れた。でも、アリアが名付けてくれた花が咲くから、聖戦が終わればアリアが抱きしめてくれるから、俺は笑って生きていられる。


 明日に希望を持ちながら、日々を大切に生きる。アリアが隣にいる幸せを嚙みしめて。そんな日々がいつまでも続くと信じていた。


 気だるい雨が降り、乱暴な雷が鳴った日、アリアが急に倒れた。俺にはそれが何を意味するか分かってしまった。


 アリアは病に罹ったこと、命あるものはいずれ死ぬこと。そんなはずはないのに、俺は神の体をアリアにあげたはずなのに。それでも、俺の中の叡智が残酷な真実を告げていた。


 俺は全知全能のはずなのに、アリアの病気を治す術を知らない。スピザイア達が考えうる範囲での全知全能にすぎないから。


 俺は病気に罹らない。だから、病気を治す力なんて使う必要がない。神以外は肉体を持たない。だから、生物の救い方なんて標準搭載されていない。


 スピザイア達は想定していない。俺がスピザイアに神と同じ肉体や永遠の命を与えることなんて。全知全能を気取ったって、結局俺がバカにしていた群衆の妄想の檻の中で飼われていただけじゃないか。


 それでも、抗ってやる。全身の気を体外に排出することはできる。つまり、俺と同じ能力を持つ肉体を作り出すことはできなくても、俺の能力をアリアに分け与えることは可能なのだ。


 不死の力、生命力、自己再生力、防御力……無駄に生き永らえるだけの力の全てを、アリアの体へと移した。


 力を確かに分け与えてはいるのに、エネルギーの変換効率が悪すぎる。アリアが苦しくないように、必死に力を与えてもアリアは弱っていく。俺も日々消耗していくばかりだった俺が完璧に作ったと思っていたアリアの体は不完全で、俺の力は適合しなかったのだろう。



「もういいです。これ以上は神様が死んでしまいます」


「アリアのいない世界で永遠に生きろって言うのかよ!」


 俺の叫びに、アリアは無邪気に答えた。


「だって、神様が死んでしまったら世界は滅んでしまうでしょう?」


「俺にとっての世界はアリアなんだよおお!」


 俺の号哭が木霊した。残響が消えると同時に、アリアに夢中になっている時は意識の外に会った耳障りな声が聞こえてきた。


「アリアは終わりだな。次の巫女は誰だろう?」


「神様が泣いていらっしゃる。癒しの儀式の準備を」


 死ね。滅べ。俺とアリアの大切な2人きりの時間ですらも、きっとこいつらに覗き見をされていた。心無い連中にはきっと怒りすら響かない。それでも激情をぶつけずにはいられなかった。


「散れよ野次馬ども!助けてくれないなら失せろよ!アリアがいなくなるなら神なんてやめてやる!」


 俺が獣のように理性を失って大騒ぎすると、全ての気配が雲散霧消した。スピザイアは世界の反対側に集まって、神がお怒りだとパニックになっていた。

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