神の花に名前を

 実体化したアリアは今日も花を愛でている。その姿が、あまりにも美しい。


「黄色くて大きな花は満開になりました。黄色くて小さな花は七分咲きでしたわ。でも、一番好きなのは神様から生まれた銀の花ですわ」


 俺の目に姿が映る前からずっと愛しかったその声で、楽しげに花の様子を伝えるアリア。しかし、慣れない体でしゃべるものだから時々舌を噛んでしまって、その様がいじらしかった。花の特徴をいちいち説明することで長文を発声しなければならないからだろうか。


「花が好きなら、アリアが名前つけていいよ」


「ありがとうございます!」


 アリアの顔に笑顔が咲いた。アリアは花を指差して、次々と名付けていった。銀の花には何と名付けるのだろうとワクワクしていたが、アリアは考え込んだ。


「一番好きな花だから、じっくり考えてもいいですか?」


「ああ、何年でもゆっくり待つよ」


 上目遣いで恐る恐る尋ねるアリアを、俺は強く抱きしめた。戦いで傷つけばアリアは俺を抱きしめてくれるけど、普段は俺から抱きしめてばかりだ。


 何年でも待つと言ったけれど、数日後にアリアは銀の花の名前を俺に耳打ちした。


「私が考え付く中で、一番美しい名前を付けました」


 アリアはその花の名前の由来を歌うように語る。「一番素敵な」だとか「愛しい」だとかそういう意味があるらしい。その美しい響きのあまり、自分が生み出した花に悋気した。


「花は好きですけど、崇拝するのは神様だけですわ」


 むすっとした俺に対して、アリアが手を組んで跪く。崇拝よりも恋慕の情が欲しい。その手で抱きしめてほしい。対等な恋人になりたい。


 そう言えばアリアは応えてくれるだろうけれど、アリア自身の意志でそうして欲しい。心を殺して世界に何かを望むことを諦めていた頃に比べて随分と貪欲になったものだ。


「アリアだって今は神様みたいなものだろ」


「神様は神様だけです」


「でもアリアは俺の女神だ。好きだよ、アリア」


 ようやく俺たちは同じ世界に生きられるようになったばかりだ。ゆっくり心の距離も縮めていけたらいい。


 いつか恋人になれる日を夢見て、アリアの手を握って今夜も眠りに落ちた。

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