神の産声
精神を消耗している時に限って、強敵が現れた。いつもの敵と様相が違った。俺を倒すことに特化した神。
何者かと問えば奴は不敵に笑って答えた。奴は異教徒ではなく、異端者の信仰から生み出された神だった。俺の元信者が信仰を破棄し、新たに心の拠り所としたもの。それは、巫女に現を抜かした神への憎しみだった。ヒエラルキーの低いスピザイアはアリアを寵愛する俺に不信感を持ったらしい。
俺の自業自得で、かつてないほどの深手を負った。何とか葬ったものの、全身を串刺しにされた。
俺のやっていることがおかしいなんて俺が一番よく分かっている。文字通り全身を貫く痛みとともにそれを突きつけられた。
近くにアリアの気配を感じ、ポロリと本音を漏らす。
「俺、もう戦いたくない」
俺の頬を涙が伝った。好きな子の前で情けない姿なんて見せたくないのに。弱い自分が嫌で、必死で涙を拭った。
「私が神様と融合したら、神様は悲しくなくなりますか?」
「分かんない……融合したことないし」
「融合は幸せなことだから、きっと悲しくなくなります。私がまだアリアでなかった時に融合した感覚の記憶は私にもございます。神様とスピザイアは融合できないのですか?」
「俺はスピザイアじゃないから、アリアに触れられない」
「触れることは融合することと同じですか?」
「同じじゃないけど、アリアに触れたい」
俯いたまま幼稚な口調でワガママを羅列する。取り繕う余裕なんてどこにもなかった。
「では、私に肉体をください」
アリアの声に思わず顔をあげる。
「正気?後悔しない?」
「だって、神様が泣いてるから……」
目の前で誰かが泣いている。それだけの理由で自分の魂を明け渡せる優しい子。アリアはそういう子だ。
だから苦しいんだ。本来この子は俺が好き勝手に扱っちゃいけない。誰より幸せにならなきゃいけないんだ。
でも、俺の中の執着がそれを理解しない。俺はアリアの前では全知全能でいられない。
「神様が泣いてたら、私も悲しいです」
俺に寄り添ってくれるのはアリアだけなんだ。アリアと出会うまで、ずっと辛かったんだ。ずっと痛かったんだ。もう1人ぼっちは嫌なんだ。
「アリア……助けて……」
俺にはアリアしかいない。永遠に大切にするから、俺に魂を預けてください。啜り泣きながら呟いた。
「神様の仰せのままに」
アリアが俺のためにスピザイアでなく神として生きることを決めてくれた。愛しいアリアに手をかざす。
まばゆい光に包まれて、美しく長い髪の美少女が姿を現した。夢の中で描き続けたそのままのアリアが、澄んだ瞳で俺を見つめている。
アリアが俺を抱きしめた。柔らかで滑らかな肌が触れたが、それよりも先に感じたのは温もりだった。全身の痛みがすっと引いていく。
なのに、次から次へと感情がこみあげて、涙が止まらなくなった。制御できない感情のままに言葉を連ねた。
「アリアと会うまでずっと辛くて」
アリアが相槌を打ちながら背中をさすってくれる。
「1人ぼっちで戦って、痛くて、誰も分かってくれなくて」
「辛かったんですね」
「死にたいのに死ねなくて」
ここまで言ったところで、俺の涙腺が決壊した。
「う、うあ……あああああ!」
嗚咽が号泣に代わるのを自分では止められなくて、数億年分泣いた。俺の頭を撫でるアリアの手と体の温もりだけが世界の全てだった。過去の傷も痛みも全部洗い流すくらいに泣いた。
泣きつかれて眠って起きると、アリアの腕の中だった。心配そうに俺を見つめる瞳に吸い込まれそうになる。
「神様、もう痛くないですか?もう悲しくないですか?」
優しい声で問いかけられる。
「あったかい。春が来たみたいだ」
永遠に続くのだろうと絶望していた冬が終わり、花を慈しむ女神が俺の前に舞い降りた。
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