神の心に芽生えた恋心

 俺は時折アリアを呼んだ。アリアが何を考えて生きているのか聞きたくなった。アリアと話がしたかった。


 アリアの声だけでなく、気配を識別できるようになった。そして、あまりにも頻繁に呼び寄せたせいかアリアは常に俺の傍にいるようになった。その距離感を心地よいと感じるスピザイアは後にも先にもきっとアリアだけだろう。


 そんなある日、また新たな神とやらが俺の前に現れた。クソみたいな世界に現れた束の間の平穏を邪魔されたくはなかった。アリアの前で殺戮を行いたくなかった。


「俺の前から消えろよ、殺さないでやるから」


 俺の警告を奴は無視して先制攻撃をする。かまいたちが腕を掠めて、血が流れた。


「素直に言うこと聞いておけよ、クソが」


 俺の両手の爪が伸び、鋼の刃へと姿を変える。光速で敵に接近し、全身の気を爪に集めて上半身を切り裂いた。敵は喉ごと臓物が潰れたような声を出したが、まだしぶとく生きている。


 最後っ屁とばかりに、敵は俺に向けて攻撃をする。俺は至近距離でかまいたちを全身に正面からくらった。痛みが走る。


 歯を食いしばって、先ほどよりも深く両手の爪を奴の胸に突き刺した。そして、魂ごと抉り取るように怒りに任せて両腕を斜めに振り下ろした。肉体の力と精神の力、その両方の全ての力をこめた攻撃。


 名も無き神は爆散した。生きとし生けるものを愛するアリアは俺を殺そうとした奴のために泣くのだろうか。


「神様……」


 アリアの声が震えている。怯えているのか、屍を悼んでいるのかは分からない。


「痛いですよね。私に何かできることはありませんか……?」


 アリアの気配が近くなる。さっきまで遥か遠くで、憑依することで徳を積むための銀の花に憑依する順番決めをする声が聞こえていたが、俺の耳からはアリア以外の全ての声が消えた。


「もしかして心配してくれてる?」


「だって、神様だって痛いし、苦しいでしょう?」


 この子はその体でもって痛みを知っている。優しいこの子が俺のために泣いてくれた。


「本当は戦いなんてやめたいんじゃないですか?」


「言っても無駄なんだ」


 戦に辟易したことを信者に伝えた遠い昔。神様が聖戦をしなければならないのは異教徒のせいだと異教徒に憎しみを向け、異教徒を迫害した。異教徒の憎しみは募り、心の拠り所としての信仰はより強力で極悪な化身を生み出した。


 全てが逆効果になるので、俺はスピザイアに何かを求めることをやめた。


「神様が痛いと、私も悲しいです」


 アリアの涙声に心臓が鳴った。全てを諦めて凍り付いていた心が雪解けのように動き出す。初めての感情が胸の奥で渦巻いた。


 アリアを愛しいと思った。

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