神々の戦い

 俺は不老不死を与えられた。この世に信者が存在する限り、俺は生き永らえることが出来るのだろう。途方もない時間を生きてきたが、生を受けてこの方一度も喜びを感じたことはない。


 そこらの岩に憑依して踊り、賛美歌を歌い俺に媚びへつらう神事は滑稽でしかない。むしろ目障り耳障りだ。


 四六時中、見えない奴らに一方的に監視されるのは不愉快極まりない。俺の一挙手一投足の意味を神官と呼ばれている奴らが勝手に解釈し、世界中のスピザイアが一喜一憂する。迷惑な話だ。


 少数派ではあるが、スピザイアの中には俺をあがめない奴らもいる。そいつらがまともかと言われるとそんなことはない。そいつらは別の神を信仰する厄介な奴らだ。


 俺の信者が異教徒と定めた連中が具現化した神。異教徒は大多数のスピザイアから迫害されているので、宗教が心の拠り所となっている。そして、自分たちの信じる神こそが真の神だと妄信しているため、奴らが具現化した神は俺に対してやたらと好戦的なのだ。


 信者の質は目クソ鼻クソだが、頭数はこちらが桁違いに多い。信者の数の暴力で圧倒的な力を得た。スピザイアの想像の及ぶ範囲での全知全能を与えられた俺は、敵を迎撃し続けた。昔は対話を試みていたような気がするが、もう忘れた。


 信仰を失い、自我が崩壊したスピザイアはやがて無に帰す。神々の戦いはいわばスピザイア達の代理戦争だ。


 負けこそしないが、敵から攻撃を食らうことは多々ある。攻撃を受ければ、体には痛みが走り、血が流れる。俺や倒した敵の血が染み込んだ地面からは名も無き花が咲いた。


 肉体を持たないスピザイアは痛みを知らない。知らないくせに「神は我々のために痛みに耐えて悪魔と戦ってくださるのだ」とほざく。聖戦と銘打たれた戦いで俺が敵を蹴散らすたびにクズどもは熱狂する。世界中で歌われる凱歌は、俺に感謝し褒めたたえる内容だが心には微塵も響かない。


 どんなに美辞麗句を並べたところで、このクソったれな世界において神はスピザイア同士の戦いの駒にすぎないのだ。愚かな信者がはびこる限り、このクソみたいな生に自ら終止符を打つことすら許されない。

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