第23話 お別れのとき
今日は、満月だ。
そしてわたしが人間に戻る日がやってきた。
それと同時に、ローデン村は今日はお祭りだ。
朝から、外が賑やかだった。
それぞれの家の玄関にローソクの火がともされていた。
ビリーも朝早くにローソクに火をつけて、キャンドルホルダーにいれて玄関の外につるしていた。
「ビリー、ローソクがなくなったら終わりなの?」
「また、新しいローソクに変えるんだ」
「今日はずっと火をともしておくってこと?」
「そうだよ。ご先祖様や亡くなった人への弔いの意味もあるんだよ」
「そうか……弔いか……」
この日しか、人間に戻れないという意味がなんとなくわかった気がした。
とても神秘的だ。
わたしは人間に本当に戻れるのだろうか。
わたしはいつもと変わりない生活をしていた。
しかし、服だけは最初にきていた制服をきた。
それ以外はかわりない。
ビリーと一緒に朝食を食べた。
片づけをして歯磨きをした。
ポストに依頼がきていないかを確認した。
ビリーは地下室で作業をしている。
最後の確認をしているのだ。
わたしのドリンクは昨日完成している。
あとは、飲むだけだ。
本には、作り方の後に飲み方も書いてあった。
『満月の夜、人間からこびとになってしまった場所で、だれにも見られないようにひとりで飲むこと……そして全部飲みほすこと』
たぶんまずいのだろう。
なによりもひとりで飲まなくてはならない。
心細い。。
でも、みんなが頑張ってくれたからわたしも頑張るんだ。
「ビリー!」
「どうした、ルナ」
「……ビリー、今まで本当にありがとう」
「えっ? ルナやめておくれ」
「ビリーのおかげで……っわ、わたしっ……」
「ルナ、泣くな。ルナが人間に戻れる日なんだよ、うれしいことだよ」
「うっ……うん」
「ルナ、わたしもきみと一緒に暮らせて楽しかったよ」
「ビリー!」
わたしはビリーに抱きついて泣いた。
ビリーは優しく抱きしめてくれた。
「ルナ、人間に戻ってもそのままのルナでいてくれ……」
「うん。ビリーも元気で」
わたしは、ビリーと過ごした日々を絶対に忘れないだろう。
ありがとう、ビリー!
「そろそろルークたちが来るよ」
「うん」
「涙をふいて」
「うん」
「「「ルナ!」」」
「ほら、きたよ」
「は~い」
「ルナ、お祭りに行こう!」
「うん」
今日はお祭りだ。
たくさん食べてたくさん遊んで、楽しもう。
わたしはビリーからドリンクを受け取り、リュックに入れた。
「ビリー、いってきます!」
「いっておいで!」
ビリーはいつもとかわりなく送りだしてくれた。
この時のビリーのやさしい顔を、わたしはこの先一生忘れることはなかった。
――――
南通りはいつもより賑わっていた。
やっぱりお祭りは楽しいな。
「ルナ、これ食べよう」
「うん」
ベビーカステラのようなものの中にチーズが入っているチーズボールを食べた。
そして、フルーツジュースを飲んだ。
魚をすりつぶしたはんぺん焼きを食べたりとあっという間に時間が過ぎっていった。
わたしたちは、湖へいきフクロウのエルやつばめ、すずめにうぐいすにめじろたちを呼び出した。
そして空の飛行を楽しんだ。
わたしはこれが最後の飛行だ。
あたりが薄暗くなってきた。
「ルーク、レオン、ステラ!」
「……」
「わたしそろそろ行かないと……」
「そうだな」
「近くまで一緒に行くよ」
「うん、ありがとう」
草や木をくぐり、わたしは最初のころを思いだしていた。
みんなはピョンピョン走ってすごく体力があって、わたしはすぐ息切れしてたっけな~
だからつまづいてよく転んでたっけ。
ひとりで家族の様子をみに行こうとして、猫に襲われそうになった。
ルークに助けられたっけな~
ルークには助けられてばかりだったな。
そんなことを思いだしながら走っていた。
あっという間に、ルナが倒れていた場所まできてしまった。
みんなの足がとまった。
もう、ついちゃったのか……。
わたしは、胸がいっぱいになってしまい声が出せなかった。
「み、みんな……っいろいろ……っあ、ありがとう」
「ルナ!」
ステラが抱きついて泣いている。
「ステラ! 一緒にショッピングして楽しかったね」
「うん」
「ルナ、楽しかったな……またな」
レオンも涙ぐんでいた。
「ルナ、いろいろあったけど楽しかったな。人間界でもがんばれよ」
「うん……っ」
わたしはルークに抱きついて泣いた。
「ルーク、ありが……っとう」
わたしたちはみんなで抱き合って泣いた。
「ルナ! 離れていてもお前は探偵団の一員だ!」
ルークが言うと、レオンもステラもうなずいていた。
3人をみてわたしもうなずいた。
「うん」
しばらくすると、ルークがいった。
「そろそろ行くか!」
レオンとステラもうなずいた。
みんな、涙をふいて笑顔になった。
「「「じゃあ、ルナ! また!」」」
そういうと3人は後ろを向き、帰っていった。
3人のところから、キラキラっと光るものが流れていた。
そしてだれひとりとして、振り返らなかった。
ありがとう、みんな。
よし!
わたしは、決心してリュックからドリンクをだした。
辺りを見回し、人がいないことを確認した。
よし!
わたしは、ドリンクを飲んだ。
飲みほした。
まずい!
うっ!
ドックン!
なにか、心臓が大きく動いた。
ドックン!
うっ!
心臓が痛い。
体中が熱い。
なにこれ?
わたしはどうなってしまうの?
うっ!
わたしは、意識が遠くなっていくのを感じた。
バタッ!
倒れた。
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