第二百九十八話 さぁ、自白させよう 一

「間違えありませんね。最後に奴隷商で確認された顔と一致いっちします」

「「ええー!!! 」」


 パム、と呼ばれた男エルフの言葉に驚愕きょうがくするケイロンとセレス。

 すかさず二人が一歩前に出て問いめる。


「奴隷商?! まず彼に何があったのさ」

「こんなにせてましたっけ? 」


 勢いよく聞く二人に少したじろぎながらもパムは少し咳払いをして問いに答える。


「まず……。彼はバーで魔法を放ったようで」

「「バーで魔法を?! 」」

さいわ先方せんぽうにけがはなく通報により彼を取り押さえたのですが、中位魔法火球ファイアー・ボールを放った、その悪質な犯行をかんがみて犯罪奴隷として奴隷商へ売られました」


 そこにいる者全員が絶句ぜっくである。

 バーで火球ファイアー・ボールを?!

 火事でも起こす気か?!


「そ、そこまでおろかだったとは」

「体型の事を気にしなければ普通に冒険者の魔法使いとして働けたと思うのですが」

「彼にはそのような気は一切なかったようで。ドロク伯が送った最後のなさけである手切てぎれ金も酒代さかだいにしてしまったようで」


 驚き、口をパクパクさせている俺達にパムが更に告げる。


「奴隷商で売られるところまでは監視していたのですが、売られた時どのような方法を使ったのか分かりませんが見失い、こうして賊として発見された次第しだいでございます」


 少しくらい表情をし、にぎっているやりぎに力がこもったようだった。

 が、話を聞くところによると彼は幼馴染との事。


「もしかして十二分家ってやつ? 」

「う、うん。でも、まさか分家から賊が出るとは」

「ドロク伯はもう関係ない、と言い張りそうですが流石に賊を出した家となると」

「これから少し立場が危ないかもね」


 神妙しんみょううなずく二人を見ながらヌビルとやらを見る。

 元貴族子息しそく、か。

 俺よりもはるかに持って生まれただろうにどうしてこうなった?

 いや、貴族子息しそくには貴族子息しそくの苦しみってやつがあるのかもしれないな。


「で、こやつをどうするのじゃ? 」

「どうする、とは? 」


 俺達が話しているとエリシャが聞いてパムが聞き返した。


「途中で消息しょうそくち、こうして賊に落ちたということはどこかの組織にぞくしている、とおもうのじゃが? 」

「確かにそうですがしゃべらせる方法が……」


 そう言うと少し顔をらすパム。

 表情を見るに、多分許可制の自白じはく剤のような物があるんだろう。

 が、それをおおやけで言いたくないのだろう。くちびるを少しめる。


わらわがそれを行おうかの? 」

拷問ごうもんでもするおつもりですか? 」


 エリシャの提案に少し語気ごきを強めて聞くパム。


「いや。魔法を使おう」

「魔法? そんな魔法……。いや確か闇属性魔法なら。しかしあれは適性てきせいある者が少ないはず」

「その闇属性魔法じゃよ。わらわは闇属性魔法を使う」

「なんと?! 」


 ニヤリと微笑むエリシャをみてパムが本気で驚いた。

 そんなに貴重きちょうなのか? 闇属性魔法の使い手って。


「で、ではすぐにかかりの者を呼んできます! 」

「あの……。ここでやっていいのか? 」

「あ」


 俺の一言で気が付いたのか事務所の外に出ようとしたパムは一旦止まって反転はんてんし、軽く咳払いをして顔を上げた。


「お手数ですが領軍りょうぐんめ所までよろしくお願いします」


 憲兵団じゃないのね。


 ★


「今更だが相手の体に穴を開けたり燃やしたりと、エルベルの攻撃は最早拷問ごうもんと同じだよな」

「あははは……。やっぱりそう思う? 」

拷問ごうもん忌諱きいすべきことではございますが、必要悪でもあります。なのであまりエルベルさんをめないであげてください」

「オ、オレの攻撃は拷問ごうもんじゃないぞ?! 」


 貴族用の門を通過し俺達は広い領都りょうとに馬車を走らせていた。

 もちろん賊の引き渡しと自白じはくの為である。

 ここに来るのに幾つか馬車を用意したが、それとは別にパムが眠っているヌビル達と一緒の馬車に乗っていた。

 パム自身が領軍りょうぐん事情じじょうを話すため、との事らしい。

 俺達の口から話すよりも大人なパムが話した方が説得力がある。

 頼もしい限りだ。


「閣下。到着しました」


 外からハルプさんの声がし、俺達は外へ出た。


 まぶしい太陽の光が俺達をらす中、領都りょうとドラグの訓練場前は何人もの騎士達がたむろっていた。

 が、俺達を見た瞬間すぐに立ち敬礼けいれいする。

 しかし彼らの顔に少し落胆らくたんの表情が見られて不愉快だ。

 まぁ子供だからね。仕方ないよね。

 でも一応貴族家当主だからね。


「ではこちらになります」


 パムにそう言われ詰め所へ向かう。

 彼女はなわを持ち、反対側にはなわに繋がれたヌビル達がいた。

 彼らを引きりながら移動するパムについて行き建物の中へ入っていった。


「おや、パムじゃないか」

「ゼノス殿はいらっしゃるか? 」

「珍しくこっちに来たかと思うとゼノスかい? 」


 パムが声をかけた眼鏡の人族の文官は座ったままパムを見ると首をひねった。

 しかし彼女の後ろに繋がれた者を見て納得したのか「それなら」といい場所を言う。


「彼らも連れて行くのかな? 」

「ああ」


 そういうと興味なさそうにまたもや机の上にある書類に目をやった。

 仮にも当主の娘がいるのに、いいのか? それで?


「申し訳ございません。彼はあまり人に興味を持たないタイプで」


 パムが歩きながら謝罪してくる。

 俺達は詰め所を裏口から通って違う場所へ。

 どんどんと暗くなっていき不気味だ。


「構いません。かしこまれるのも慣れていないので」

「そう言っていただけるとさいわいです」

「それでゼノス、という方は何をされている方で? 」

「魔族の方で、その……。領内における情報の統括とうかつを行っています」

「「「情報の統括とうかつ? 」」」


 歩きながら聞き返すとどこか言いにくそうに口籠くちごもるパム。


「情報には様々なものがありますが、その中でも犯罪者関係の情報の統括とうかつに当たっている者でございます」

「だからこいつらを連れて行くわけか」


 引きられている彼らを見てぽつりと呟いた。


「ええ。今回は万が一にそなえて情報統制とうせいする必要が出てくるかもしれません。ゼノス殿がいる場所ならば、まず情報が外に漏れることは無いでしょう」

「元とはいえ貴族が賊になったとなると一大事だからね」

「大体が賊になる前に命を落としますので」


 何気なにげにさらっと怖いことを言うセレス。

 そして俺達は地下へ続く階段を降りて一つの扉へ突き当たった。

 その扉をノックし返事が返ってきたのを確認しパムが中へ入る。

 俺達は一旦外で待機し中へ入っていいか確認をとるとの事。


 了解が出たようだ。


「じゃ、行こうか」

「おう」


 ケイロンの合図あいずの元俺達はその扉をくぐった。

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