第二百九十七話 自称幼馴染出現

「なんだこりゃ? 」

「流石エルベルさんですね。殺さず生け捕りにするとは」

「それほどでも」

「いやしかし、これはある意味残酷な状況だぞ? 」

「大丈夫! 出血多量で死なないに配慮はいりょした! 」

わらわの入れ知恵いれぢえじゃ」


 エルベルとエリシャは決めポーズを取りながら成果を報告する。

 俺は目の前に広がる状況に遠い目をしながらそれを見た。

 そしてさっした。

 

 恐らくエルベルは森の精霊魔法を使ったのだろう。

 ある者は木にからまれ動けないようにされ、ある者は手足を切断・焼却しょうきゃくされ、ある者は体中に穴が開いていた。

 そんな賊が六名ほど。

 いや、奥で必死にからまっている木々を振りほどこうとしている者を数えると七名か。

 彼らがその痛さにうなりながら俺達をにらんでいた。

 にらみたい気持ちはわからんでもないがそれはお門違かどちがいというものだ。


「さて普通なら山賊だと思うのですが……。少々違うようですね」


 すずし顔をしながら俺の隣でそう言うセレス。


「どう違うんだ? 」

「貴族の馬車、それも蛟龍こうりゅうと薬草の紋様がきざまれている馬車を狙ったのです。どこかの差し金でしょう」


 それを聞き顔を賊に向け直す。


「賊にしては良い武器を持ってるな」

「多分商人から奪ったんじゃない? 」

「外道だな」

「賊だからね」

「お、お、お前はケイロン! ケイロン・ドラグ! 」


 賊の中からケイロンの名前を呼ぶものがいた。

 声の主に顔を向けるとそこにはやせ細った男が。

 小麦こむぎ色の肌に黒い髪の毛と瞳。


「やはり確信犯でしたか」

「お前! セレスティナか?! 」

「貴方のような外道に名を呼ばれるだけで不愉快ふゆかいです!!! 」

「がぁ! 」


 言葉を放つと同時に持っていた魔導書を開け氷槍アイシクル・ランスを肩に放ち、貫通かんつう


「こいつケイロンやセレスの知り合いみたいだけど? 」

「知らないな」

「ワタクシもですわ」

「いやいや、どう見ても「恨んでますよ」って顔してるだろ?! 」

「身におぼえが……ないね」

「ええ。全く」

「どの、口がっ! 貴様らのせいで俺はっ! 俺はっ! 」


 氷槍が抜けていないのにそのまま前に進もうとしている賊の男。

 そのまま進むので少し肉がちぎれるような音がする。

 しかしそれ以上の恨みがあるのか訴えるような、けもののような表情で、必死に近づき恨みをらさんとしていた。


「やっぱりどこかでしでかしたんじゃないか? ほら前に氷の女王とか呼ばれてたし」

「……学園の事を持ちだされると」

「逆に身におぼえがあり過ぎてしぼれませんわ」

「多すぎだろ! 」


 俺達のやり取りが逆に彼を冷静にさせたのか先ほどまでの怒りに満ちた顔から一転し少し戸惑とまどう賊の男。


「お、お前達本当に俺のことがわからないのか?! 」

「「全く」」


 辛辣しんらつ!

 相手を賊にまで落としておいて顔すらおぼえていないなんて残酷ざんこくすぎ。


「お、俺だ。ヌ、ヌビルだ」

「何を言っているのですか? ヌビルはそのような体型ではありません」

ひかえめに言ってもデブだったかね。家を追い出されたとはいえ元貴族子息しそくの名前をかたるのは良くないな」

「本当だ! お前達の幼馴染のヌビル・ドロクだ」

「流石のヌビルでも賊にまで落ちるような生きはじさらしませんわ」

「そうだね。彼なら今頃酒にでもおぼれているんじゃないかな? 」

学園アカデミーの結婚騒動そうどうで家を追い出されて、酒におぼれて、奴隷になって、賊になったんだよ!!! 」

「「疑わしい」」


 必死に自分がヌビルとやら本人であることを説明するも信じない二人。

 ふ、不憫ふびんすぎる。

 相当悪いやつとは思うが、完全に本人のせいだが、それとは別に自分をそこまで落とした一因いちいんになっている者達に存在すら否定されていた。


「おい。あいつはどうする? 」


 ケイロンとセレスが自称じしょうヌビルを冷たい目線で見ていた時エルベルが今もなおからまる木々から抜け出そうと必死になっている賊の一人を指して聞いて来た。


「一先ず行動不能にしてドラグで引き渡しだな」

「ならばここはわらわの出番じゃの」


 黒いドレスに身をまとったエリシャが前に出て片手をかざす。

 やり過ぎるなよ?

 頼むからやり過ぎるなよ?

 あの抵抗している奴は多分前にいる奴よりも多く情報をにぎっていると思うからな。

 やり過ぎるなよ?


「どれ。睡眠スリーブ


 闇属性魔法睡眠スリーブとなえると動き回っていた、茶色い外套がいとうまとった賊はガクリと倒れてしまった。


「永遠に眠ったってオチじゃないよな? 」

「流石のわらわでも人相手にそこまでせんわ。ま、使っても自白じはくうながすような魔法くらいじゃな」


 十分に怖いわ!


 一先ず全員せるわけにはいかないのでズタボロな賊を近くの町の憲兵に渡し、自称じしょうヌビルと奥で眠っている主犯のような人物、そして部下とおぼしき者をせて俺達は領都りょうとドラグへと向かった。


 ★


 領都りょうとドラグ。


 馬車のまどからながめるとそこは王都のものと似たような城壁で囲まれていた。


「デカい城壁だ」

「まぁね」

「真っ白、ですね」

「リンさんは初めてでしたか? 」

「はい、なのです。噂には聞いてましたが行く機会もなく」


 確かに獣王国から領都りょうとドラグへ行く機会などないだろう、と勝手に納得。

 早速俺達は馬車を走らせ貴族用の入口へ向かった。


「お待ちしておりました。セグ子爵閣下」

「ご、ご丁寧ていねいにありがとうございます」

「やぁ」

「ケイロンお嬢様もご壮健そうけんそうで何よりです」

「まぁまぁそうかた|くるしいのは良いからさ。ここに来る途中に賊に襲われたんだけど」


 それを聞き門番が驚く、がしかしすぐに表情を戻す。


「ケイロンお嬢様、そしてセグ子爵閣下方なら心配する方がおろか、でしたな」

「その言い方はちょっと気になるけど……。まぁいいや。で捕らえた中にヌビル元伯爵家次男を名乗るものがいるんだけど」

「そ、それはまことですか?! しばしお待ちを」


 そう言うと門番は事務所のようなところへ行ってしまった。


「ケイロン……。もしかして門でも何かしでかしたことがあるんじゃ? 」

「い、いやぁ。そんなことは……ないかも? 」

「何で疑問形なんだよ」

「まぁ実際こちらの門ではありませんが、違う門から家出をしてこうして無事に帰ってきてますしね」

「いやな評価のされ方だけど……。おおむねそんな感じ、ということで」

「なに話を流そうとしてるんだ? やっただろ? 絶対こっちの門でも何かやっただろ?! 」


 そんなことはないよ、とケイロンが言っていると門から先ほどの門番に加えてもう一人、軽装で槍を持ったエルフらしき門番がやってきた。


「お久しぶりです。ケイロンお嬢様」

「げぇ! パム」

「げぇ、とは何ですか」


 あきれ少し肩を落とした後に軽く顔を引きめて再度ケイロンの方を向いた。


「それでその不届ふとどき者を見せていただいても? 」

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