第二百八十九話 邂逅 八 繋がれた心

 体がけていったのでそのまま外に出るのかと思ったが、違ったらしい。

 今は下山中である。

 周りは何故かオレンジ色の木々に囲まれ道もオレンジ色。

 訳が分からない。

 

 そして一番わからないのが今の状況。

 何故か頭にレイが乗り、両腕にケイロンとセレスがくっつけている


「何でこんなことしてるの?! 」

「もう、デリクはさみしがり屋なんだから」

「そうです。ワタクシ達はさみしがり屋のアンデリックをこうして温めているのです」

「温めー! 」


 彼女達が何を言っているのかわからない。

 そしてレイよ。

 温めてくるのは嬉しいんだが君は剣だ。鉄だ。

 両腕に温かみを感じている中頭の上は冷たいんだ。


「俺は寂しがり屋ではない! 」

「そんなこと言って。あんなにも『寂しい』って言ったくせに」

「そうです。『離れないで』とも言いました。なのでこうして腕を人肌ひとはだで温めるのはワタクシ達の義務ぎむなのです」

「温めー-!! 」


 ガバっとレイが更に前のめりになった。

 ちょ、重……。

 頭がぐらぐらする。

 

 左右に温かみを感じながらも進むと突然それが消えた。

 あれ? と思っていると俺の正面に二人が移動し後ろで手を組んでいる。

 どうしたんだ?


「デリク。一回しか言わないから覚悟かくごするんだよ」

「これから言うことは冗談じょうだんでもなく、まごうことなきワタクシ達の想いです」


 そう言うと二人は顔を合わせて再度俺を見る。


「デリク。僕は君のことが好きだよ」

「ワタクシもお慕い申し上げます」

「「なので」」


 一呼吸置き。


「「僕 (ワタクシ)達と結婚しませんか? 」」


 彼女達は笑顔でそう言い片手ずつ俺の方へ向けた。


 偽りのない二人の素直な気持ち。

 俺に向けられたのはそんなこそばゆい気持ち。


 また一歩。前に進む勇気をもって俺はその手をとり――目の前に広がる光の扉へと向かっていった。


 ★


「お、目覚めざめた」

「起きたのじゃ」


 スミナとエリシャの声がする。

 目を開けるとまぶしい光が入ってくる。


「起きたのですか?! 」

「異常はなかったぞ! 」


 光に慣れてくると木でできた天井てんじょうが見える。

 それと同時に硬い感触をに感じた。更に感覚をませるとどうやら両手に手のような物を感じる。

 隣を見ると手はケイロンとセレスのようだ。

 更に横を見ると人型で転がるように寝ているレイがいた。


「あー俺はどのくらい寝ていた? 」


 だるい体を起こしながら皆に聞く。


「三日だ! 」

「うむ。三日くらいじゃの。大体」

「ついにボケたか。五日だ」

「「むっ?! 」」


 エルベルとエリシャが三日というと訂正ていせいと言わんばかりにスミナがツッコんだ。

 二人は「あれ? 」という顔をして他の面々があきれ顔で溜息ためいきをつく。


 そうしていると俺の手をにぎっている二人がわずかに動いた気がした。 

 そっちを向くと体が動き始め目を開けた。


「デリクの方が早かったようだね」

「少し負けた気がしますわ」

「お帰りなさい。お二人共」

「ただいまリン」

「ただいま、ですわ。リンさん」


「ありがとう。セレスティナ、ケイロン。そして皆」


 こうして俺達はれて現実世界に戻ってきた。


 ★


 数日経って体調も回復した頃、俺はアクアディア子爵家の屋敷に来ていた。

 ここは屋敷の応接室。

 目の前には当主『コウ・ドラゴニル・アクアディア』がきびしい目線を俺に向けている。


「俺とセレスティナのけ、結婚をみとめてもらいたい!!! 」


 そう言うとピクリとまゆを上げて更にきびしい目線を送ってくる。

 何という威圧感。

 これが当主というものか!


「……ならん」

「な?! 」

「お父様からの申し出でしたのに?! 」

「まずは婚約からだ」


 ですよね……。


 閑話休題かんわきゅうだい


「で、少年は何で気絶していたんだ? 」


 緑茶りょくちゃとはまた違うお茶を飲みながらコウ様はそう言った。

 別に隠すことでもないので夢世界——精神世界であったことを話す。


「……初代アクアディア子爵が蛟龍こうりゅうに成った?! 」

「ええ」

「しかも戦っただと?! 」

「初代を名乗る蛟龍はこの目で確かめましたので、少なくとも神獣があの場にいたのは確かだと」


 それを聞くと驚いた顔から一転、難しい顔をする。

 腕を組み何か考えているようだ。


「……龍人族の上位種が発見されないのはそう言う理由か」


 どういうことですか?


「つまり上位存在になったがゆえに人間には視れなくなった、ということだ。エルフ族の上位種、真風妖精ハイ・エルフ族はまれに確認されているが彼らは肉眼にくがん視認しにんできる」

「なるほど。蛟龍のような、通常肉眼で視認できない存在となるとそもそもの発見が出来ない、ということですね」


 セレスの言葉に軽くうなずき同意を示した。


「水龍人に蛟龍伝説が残っているのは恐らく視えない所で派閥はばつ争いなどが起こり負けた者が一時的に見えるまで弱体化した可能性もありますね」

「まぁ確かめようはないがな」


 頭の後ろをポリポリときながら言うコウ様。


 のどかわくのかティーカップを持ち上げお茶を飲もうとする。しかし空になったことを知りメイドを呼びそそいでもらっている。

 これで何杯目だ?


「で、少年。いやセグ卿はここにどのくらい滞在たいざいするのかな? 」

「そう言えば詳細は決めていませんでしたね」


 紅茶を軽く飲み答えた。

 あれから数日。本来ならもう出ている予定なのだが体調が不安という声もありまだ滞在たいざいしていた。


 俺は宿でお休み中なのだが、スミナやエルベル、リンやエリシャ達なんかひまだと言って冒険者ギルドに依頼を受けに行ってたりもする。その中に索敵さくてきのエキスパートであるハルプさんも加わり無双むそう感が出ているが仕方ない。

 屋敷ではセレスの罠にまりにまったハルプさんだが開けた場所での索敵さくてきは得意なようで。

 索敵さくてきに引っかかった相手——人、モンスターわず――には申し訳ないが気付いたころには命はないだろう。


「今ケイロンがドラグに向け伝令でんれいを出している所です」

「セグ卿が向かう、と? 」

「ええ。彼女の婚約も、決まりましたからね」

「ドラグの坊主もさぞ泣いてるだろうよ」


 少し笑いながらどっさりとソファーに背をあずけるコウ様。

 少しきしみを上げるソファーに同情のねんを送りながらもセレスの言葉を待つ。


「なのでドラグ側の返信が来るまでここに泊まらせていただければ、と」

「俺は良いぜ」

「その間に調べたいこともありますし……いいですよね? アンデリック」

「ああ。ギルドで仕事をしているメンバーもいるし、構わない。返事が来たらドラグへ向かおう」


 そう言い俺達のアクアディア滞在たいざいが決まったのであった。

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