第二百八十八話 邂逅 七 心を繋ぐ道 五 説明と言う名の言い訳

「あ~まずな。この少年を眠らせたのは俺だ。わりぃ、わりぃ」


 龍がびれる様子もない言葉でそう謝った。

 それと同時に女性陣二人が怒りをあらわにする。


「なんでこんな事をしたんですか! 」

「そうだよ。もう目をまさないかもって」


 ケイロンが涙を浮かべながらそう言うと蛟龍こうりゅうは少しあわてた様子で弁明べんめいする。


「いや。聞くことを聞いたらすぐに覚まさせるはずだったんだ」

「はずだった? 」

「あ、いやぁ……その……」


 ゼン様は気まずそうに顔を背けた。


「俺は試練と聞いたのですが? 」

「試練? ならばワタクシ達があちらで絶滅種と戦っていたのも試練でしょうか? 」

「絶滅種? あぁ……あっちは別口べつくちだろう」

「「「別口べつくち??? 」」」


 口がすべった、という顔をしてけていない口笛くちぶえき顔を更にらした。

 めっちゃ口が軽いな、この龍。

 もう少し突いたら何か出てくるんじゃないか?


「そこまでにしてやってください。全て必要なことでしたので」


 龍の隣から違う声がした。

 いつの間に?!


「新種のモンスターかっ! 全員構えを! 」

「ア、アンデリックもそうなのですか」


 そう言いながら肩を落とすモンスター。


「私はモンスターではありません。そう視えるかもしれませんが、これでもれっきとした精霊です。と、言うよりもアンデリック。私、貴方に時の加護を与えた者ですよ」

「「「……。ええー――!!! 」」」


 なら、こいつが時の大精霊?!

 唖然あぜんとしながらもその全体ぞうを見た。

 俺よりも高い背丈せたけに執事服、そして丸い馬車の車輪しゃりんのような顔だ。車輪しゃりんの部分はギザギザで顔の中には三本の棒のようなものがついている。

 モ、モンスターにしか視えない。


「ま、マジか……」

「そんなに残念がられると心が痛むのですが。どうせ私はモンスター顔ですよ。どうせ私は……」


 下を向き少しこぼす精霊。


 それを見てふと気が付く。

 え? なら時々声がしたのってこいつ?!

 この変な頭の、こいつから加護をもらったのか!

 ふ、複雑だ。

 もらうのは嬉しいが、複雑だ。


「道具や武器が基盤きばんとなった精霊なのか? 」

「レイ、のようなですか? 」

「もしくはタウだな」

「非常に申し上げにくいのですが、全て間違っていますよ。まぁ私のことなんていいじゃないですか」

「「「よくねぇよ!!! 」」」


 まぁまぁとなだめるような仕草しぐさをしながら話を進めようとする自称精霊。


「コホン。まぁいいじゃないですか。それよりも説明させていただいても? 」

「絶対に後で何者か聞き出してやる! 」

「面白精霊、ふふ……。いい研究材料になりそうですね」

「いっぺん殴らせて」

「何で皆さんそんなに物騒ぶっそうなのですか?! 」


 仕方がないので話を進ませようとしたらいきなり切れられた。

 これが最近流行の『キレる精霊』というやつか。恐ろしい。


「……。事の始まりはこちらの蛟龍殿『ゼン・ドラゴニル・アクアディア』が子孫である『セレスティナ・ドラゴニル・アクアディア』のことを気にかけたことが発端ほったんです」

「ちょっ! 俺のせいにすんのかよ! 」

「私は止めたのですが、彼がどうしてもアンデリックのことが気になるからと、渋々アンデリックの試練を手伝ったのです。ハイ」


 涙をハンカチでぬぐうかのような仕草しぐさをして自分は悪くないと言い張る精霊。

 こいつもげいが細かいな。

 てか、こいつ俺の中にいたのかよ。

 それはそれでなんか気持ち悪いない。うげぇ。


紆余曲折うよきょくせつあり私は二人の足止めを、そしてゼン殿はアンデリックの見極みきわめに入ったわけです」


 その紆余曲折うよきょくせつが気になるんだって!!!

 端折はしょるなよ!

 ほらケイロンを見ると怒ってるぞ!

 セレスは……。あれ?


「……今さっきゼン・ドラゴニル・アクアディアと言いましたか? 」

「ええ」

「おう。俺はゼン・ドラゴニル・アクアディアだ!!! 」

「で、では初代様?! 」

「その通りだ!!! 」

「しかし……。アクアディア子爵家は水龍人の一族。龍の末裔まつえいとは違うはず」

「何か……成長限界を突破とっぱして蛟龍に成った! 」


 いやぁ驚いたものだ、と言いながらもどこか自慢じまんげなゼン様。

 驚くセレスを置いてゼン様は全体を見渡し少し真面目な顔をして口を開く。


「本来なら、試練突破とっぱいわいってことで何か加護でも与えるのが通例なのかもしれんが俺には『格』がたりねぇ」

「まぁなりたてですしね」

「だからよ。我が子孫セレスティナ。お前にとっておきの情報をくれてやる」


 顔を固まらせていたセレスは「情報? 」と首を傾げて龍の方を向いた。

 そしてゼン様はそれに大きくうなずいた。


「この前確認したがやはり誰も手にしていなかったものだ。俺が独自どくじに研究した研究ノートと成果、それがアクアディア子爵家の屋敷の別邸べっそうの地下にある。場所は――」


 場所を教えたタイミングでレイの体がけていることに気が付いた。

 何が起こっているのかわからないまま自分達の体を見るとけている。


「最後に一つだけ。俺は蛟龍に成ったが、見守ってるぜ! 」


 蛟龍『ゼン・ドラゴニル・アクアディア』のその言葉を最後に俺達は気を失った。


 ★


「あれでよかったのか? 」

「ええ。上々上々じょうじょうじょうじょう。彼女達の力量もうつわも確かめることが出来ました」


 その場に残った二人は顔を合わせていた。

 精霊はいつの間にか再現さいげんした椅子に座って龍と話している。


「しかし本当に起こるのかよ。それは」

「恐らく、としか」

「そんな不確かな情報、よく信じるな」

「過去、はすでに決まっていますが未来はちょっとしたことで変わります。我々の力を持ってしても確実な未来を当てるなど不可能なのですよ」


 そんなもんですかい、と少し不貞腐ふてくされたかのような顔をするゼン。

 彼としては自分の子孫が利用されたのが不愉快ふゆかいなのだろう。


「しっかし、あの少年の中にあんたみたいな大物がいるとはな」

「……神獣が言いますか? 」

「俺とお前では『格』がちげぇだろ」


 その言葉に肩をすくませながら夜空を見る精霊。


 (成長のほどは上々。周りの方達も中々の粒ぞろい。たして災害が起こった時に対処できればいいのですが……。しかし不確定な未来。さて、どうしたものか)


 一人、精霊は考えながら周りに視線をやる。

 そこにはすでにてた森は無く綺麗きれいに元に戻っているようだ。 

 いや、元々よりも更に屈強くっきょうな木々が立っている。


 そして何か思い立ったかのように席を立ち別空間へと向かった。


「さて、俺も戻ろうとするか」

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