第二百八十七話 邂逅 六 心を繋ぐ道 四 vs 寂しがり屋のアンデリック 二

 俺は地面をける。

 いきなり始まった試練とやらを終わらせるために。


 強い。しかしゼン様の目的はなんだ? 神獣が出てきてまで試練だけをこなすなんてないだろう。

 幾ら子孫が気になるからと言っても。


「どうした! それで終わりか! 」


 声が聞こえるたびに雷が落ちる音がする。

 当たらないよう先読みを発動させながら必死にめぐりその巨体に近付こうとする。


 先読み。危険感知。


 感知という感知を全力で発動させてやっと回避できた。

 さっきいた所に轟音ごうおんと共に落雷らくらい


 転げるように移動して更に先に進む。

 恐らく一番安全なのはあの巨体の真下。

 少なくとも雷は落とせないだろう。


 先読み。


「土の精霊よ」


 回避不可能とわかるやいなや精霊魔法で土壁アース・ウォールを作り雷を防ぐ。

 瞬間、雷鳴と共に土壁と雷が衝突しょうとつし崩れ去る。

 すぐさまそこから離れて少しでも近づく。


 あと少しという所まで来たが――体が硬直した。


 神通力か!!!

 ちょ、俺の精神世界だろう!

 幾ら何でも好き勝手し過ぎ!


万力千雷バンリキセンライ! 」


 先読み。


 何千なんぜんもの雷が俺に向かって落ちてくる未来が視えた。

 体は動かない。


 避けれない!


 咄嗟とっさに剣で頭上を切った。

 なぜそうしたかわからない。

 ただ反射的に振りかざした。


 剣と幾千いくせんもの雷が交差こうさする。

 全てがゆっくりと動く。


 当たる。


 白き雷と剣が交差する。

 その瞬間――今まで心のどこかにあったもやが消え去った。

 そして思い出や感情が雷から流れ込む。


「ははは、少しは男前になったじゃねぇか」

「冗談にはなりませんよ。しかし……。まぁ整理は出来ました」

「ほほう。ならばそれを証明してみせるがいい!!! 」


 声と共に轟音ごうおんひびく。


「これ、全部撃ち落とせばいいんですよね? ならばやってやろうじゃないですか」


 上限解放オーバー・リミット状態の俺はそう言った。


 前々から不思議に思っていたんだ。

 この虹色に輝く体の状態は何なんだろうかと。

 普通の状態ではない事は分かっていた。しかしこれが何なのかよくわからなかったし表す言葉がなかった。


 前に指摘してきされたことがある。

 レイと似たような状態ではないかと。

 しかし俺は人族でレイは剣だ。

 その違いからレイの状態とは違う何かだと思った。


 いつもの状態とは違い異常なまでに思考が加速されている今ようやくわかった。

 これが、今の状態が上限解放オーバー・リミットなのだと。

 そして精霊の力を十全じゅうぜんに使うための力なのだと。


「だから振るおう! 戻るために! 」

「こい! 少年!!! 」


 俺は七色の閃光せんこうともないながら精霊剣で落ちる雷を打ち落としていった。


 ★


 一方そのころセレスティナとケイロンはというと。


「龍王旋風きゃく! 」

「刺突撃! 」


 セレスティナとケイロンが偽アンデリックにそれぞれ攻撃を仕掛けていた。

 セレスティナの大技とケイロンの小回りの利く小技でなく反撃を抑える。

 しかし相手に攻撃が当たるたびにアンデリックの感情が流れ出す。


「厄介ですね」

「本当にね」


 一旦距離を取り前衛と後衛に分かれ愚痴ぐちをこぼす。


行動遅延スロウ


 セレスティナは偽アンデリックが少し動きを止めた時、すかさず行動力を減退げんたいさせる魔法を使った。

 無論速度を落とすものだ。罠系統を使わなかったのはケイロンに配慮はいりょした為で可能な限り弱体化魔法で偽アンデリックの動きを阻害している。

 が……。


「何ですの? あれ」

「体から何かき出している? 」


 青い空間の中、偽アンデリックから様々な色の煙のような物が噴出ふんしゅつし始めた。


「がぁあ」


 うなりながらも体をよじらせ苦しそうにする。


「アンデリック! 」

「ティナ! 近付いちゃダメ! 」

「でも! 」

「分かっているでしょう! あれは偽物なんだ! 」


 がぁ、と苦しそうにする中アンデリックの悲痛ともとれる声が空間に反響はんきょうした。


 寂しい。

 苦しい。

 離れないで。

 一緒にいて。

 寒い。

 冷たい。


「アンデリック! 」

「ティナ! 」

「これはアンデリックの心の声です。何とかしないと! 」


 そう言われるとケイロンにも心覚こころおぼえがあった。

 大人ぶっているが確かに彼は今十二歳。

 彼女達がまだ学園アカデミーにいた頃の歳だ。

 そんな彼が今や貴族家当主。しかも実績つき。


 他家の悪意あくいは彼女達が何とかしていたがそれでもさみしいのだろう。

 聞けば彼は大人数の家で育ち、独り立ちしている。

 一人になってさみしく思うのも無理はない。


 そしてこの前のセレスティナのことだ。

 今までいたメンバーが急にいなくなる、そう言った不安や悲しみが今の彼を形成しているのかもしれない。

 ケイロンはそう考えるとに落ちた。


「だから大きな姿をとってるんだね」

「大人の姿、では? 」

 

 セレスティナのその言葉に首を横に振る。


「大人の姿というのは大人ぶっているからじゃない? 」

「確かにおぼえはありますわ」


 くすり、と笑いアンデリックの方を向く。


「アンデリック。ワタクシ達はどこにもいきませんよ」

「アンデリックも言ったじゃないか。相棒って。なら一緒にいることは道理だよね」

「だらかそんなに苦しまないでください」

「甘えてもいいんだよ。赤ちゃんのように」

「いえ、流石にそれは」

「い、言ってみただけ! 」

「が、がぁ……」


 放出されるもやが青色の身になり、それと同時に徐々に彼の体も小さくなる。

 そしてついに出なくなり等身大のアンデリックに変貌へんぼうした。

 その姿は幼く、十二をはるかに下回っている。


「お姉ちゃん達あそぼ! 」

「え? 」

「何して遊ぶ? 山とかいいと思うよ! オーガ狩りとか! 」


 その少年は「ニカッ!」と笑った。

 瞬間、この空間は青色からオレンジ色へと変わる。

 変わった景色とアンデリックの小さな姿に二人は驚き顔を見合わせた。


「ア、アンデリックにしては小さすぎませんか? 」

「今まで気を張っていた分これが本当の姿じゃない? 遊びは子供らしくないけど」

「オーガ狩りって……。小さな頃のアンデリックは一体どんな遊びを」

「いや、それは僕達は言えないんじゃないかな? 」


 確かに、と思いながらも二人は変貌へんぼうしていく空間をながめていた。

 そこには木々が生えオレンジ色の山道さんどうを作っている。

 少年アンデリックにいつの間にか手を取られていた小さな手で引っ張られている。

 それに従い二人は山の頂上ちょうじょうへ連れていかれた。


 ★


「これでっ! 最後かぁぁ! 昇龍しょうりゅう演舞えんぶ! 」


 先読みで雷が出てくる場所をあらかじめ予測し雷と顕現けんげんさせた火炎をぶつける。

 落ちてくる感情を迎撃し、またそこから離れる。


 先読み。


「これで本当に最後、ですね」

「よくやった! 少年! 」


 はぁはぁと息を上げながらそこへへばり倒れる。

 レイも人型に戻って俺の横に座っていた。

 蛟龍は体を小さくして俺の前まで降りてくる。


「結局これは何の試練だったんですか? 」

「それはだな……」

「あ、デリク見っけ! 」

「あれ? さっきまでの幼いアンデリックも消えていますよ? 」

「あ、本当だ」


 声がする方を見るとそこにはケイロンとセレスがいた。


「何でここに二人が?! 」

「目をまさないデリクを起こしに来たんだよ」

「目を覚まさない? 」

「うん」

「そうです……って龍?! まさか蛟龍こうりゅう様?! 」

「おう、俺のことを知ってるのか! 」

「知っているも何も水龍人にとって神様のような存在ですわ! 」

「「アンデリック (デリク)、これは一体?! 」」


 誰か収拾しゅうしゅうを付けてくれ。

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