第二百話 種族の輪 《サークル》 二 vs 滅国竜『エカテー』 二

 突進するかのように不快なドラゴンが口を開けて迫ってくる。

 巨体に似合わず足が速い。


「風の精霊よ、闇の精霊よ」


 精霊剣に精霊をまとわせ走ってくる巨体を回避し体に傷をつけた。


「Gururururu! 」


 切られたことに対する怒りなのかうなり、体を反転させながら遠心力で尻尾しっぽを使い攻撃してくる。


 キィン! という音を出しながらとげのついた尻尾しっぽを受け止め、風をクッションにして持ちこたえた。

 それと同時に火花ひばなが目の前でる。


「火の精霊よ、闇の精霊よ」


 った火花ひばなを膨張させ弱体化の火を起こしてドラゴンの目を狙う。

 思いもよらぬ攻撃だったのか片目に当たり「Gaaaaa! 」と叫び後退した。

 そのままれ動く尻尾しっぽにしがみつき、巨大な尻尾しっぽつたってドラゴンの背に向かって走る。


「流石に自分の背中は攻撃できないだろうよ! 」


 そして片目を閉じこちらをにくしみの瞳で見つめる邪竜じゃりゅう尻尾しっぽを駆けあがり、その体を切り刻んでいった。


 ★


みんな大丈夫?! 」

「ええ、何とか」

「オレも大丈夫だ」

「不思議な光をびたら元気が出たぜ」

「リンも大丈夫ですよ」


 ケイロンとエリシャは集まっているメンバーの所へ行き安否あんぴを確認する。

 最初はエリシャもドラゴンと戦う予定であったがねんのために全員の護衛だ。

 リンは一人無事だったが怪我をしている仲間に不思議なポーチから出した傷薬で怪我を直していた。

 そこにケイロンの広範囲強化魔法と異常状態解除である。


『少し活性化されてるとは思うけど、傷は治ってないからね』

「精霊様!? 」

『え、なに? 何か怖い人がいるんだけど? 』


 エルベルの爛々らんらんとした瞳を見て「うぇぇ」と後退る名も無き光の精霊。

 すかさずそこにスミナがかつを入れた。


「駄乳エルフ。ここではしゃいだら、本気で怒るぞ? 」

「そ、そこまで無節操むせっそうでは、な、ない! 」

「……まだ我慢するのじゃ。同胞よ」

「むぅ……」

『ひぃ』


 エリシャがどのような条件でエルベルを抑え込んでいるのかわからないが、ミルが本気でおびえている顔をしている。


「に、しても、使いこなしているね。精霊魔法」

「え、遠距離なら負けない!!! 」

「確かに近距離のみですが、あの身のこなしよう……。いつ練習を? 」

「試練の魔導書の時じゃないかな? お爺さんと戦ったっていうし」

「超短期間であの状態まで仕上げたのなら、かなりの猛者もさということになりますね。お爺さんは」


 尻尾しっぽけのぼりその体に傷をつけていくアンデリックを見て全員でうなずいた。


「「危ない (のじゃ)!!! 」」


 リンとエリシャが突然叫びメンバーから離れた。

 何が起こったのか分からずその方向を見るとドラゴンの尻尾しっぽが向かってきているのが見えた。


 ズズズズ……。


 二人がそれを受け止めドラゴンの脅威から種族の輪サークルを護る。

 ドラゴンも背中の方が気になるのか不規則ふきそくらす尻尾しっぽをすぐにそこから離す。


「ここは戦場いくさばなのじゃ」

「気を抜いたらダメですよ」


 そう言い二人が周囲を警戒しながら戻ってきた。


「考えることはいっぱいあるけど」

「後にしましょう」


 そう決意けついを新たにして全員がドラゴンに武器を向けた。

 

 ★


 ドラゴンは体を振り俺を背中から振りほどこうとするがそれも叶わない。


「水よ、風よ、闇よ。水刃すいじん乱舞らんぶ


 突き刺した剣を中心に、水と風そして闇の小精霊をまとった水のやいばがドラゴンの内側から乱舞らんぶする。

 腐食ふしょくともなった上下左右に乱れる水刃すいじんは加速度的に大きくなっていきドラゴンの肉体をどんどんとけずり取っていき、大きな穴をあけた。


 巨大な穴が開いても痛みを感じないのかうねりを上げずに首だけをこちらに向ける。

 口を開きブレスを吐こうとする。

 大きく開けた所で――


「土よ、風よ」


 ゴン!!!


 ドラゴンのあごの下の方から巨大な岩を作り出しそのままぶつけた。

 よし、いける!

 持っている魔力と光の精霊の力を使って体を強化し精霊剣でドラゴンの背中をけずる。

 時には風刃ふうじんともなったやいばを飛ばしてこっちにブレスを吐かないように牽制けんせいし、時には水刃すいじんを伴った刃で肉をぎ落とす。

 エルベルのような威力は出せないが、風刃ふうじんはブレスを吐かせないようにするだけならば十分だ。


 肉をけずごとに相手の動きがにぶる。

 時折自身でモンスターを召喚しては回復役に使っているようだが、極限きょくげんまで体を強化した俺の攻撃の方が圧倒的に回復スピードを上まっていた。


 そしてその時がおとずれる。


「あった! 魔核コア! 」


 体と長い首の付けの所に深くまっていた魔核コアを見つけた。


「あと少しけず——」


 けずり切る前に体が急に重くなる。

 こ、ここで効果が切れた?!

 まずい!


 危機を察知したのかドラゴンは首を振りその付けから俺をどうにかして振りほどこうとする。


 負けてられるか! あともう少しなんだ!

 首を振り続けるスリムになったドラゴンに剣を刺して意地いじでもくっつく。

 振られている間に下が見えると同時に魔法陣が見えた。

 くそ! また回復か!

 こうなったら!


「光の――精霊よ!!! 」


 予備よびとして剣に入っている光の精霊を俺に手繰たぐせる。

 だが……。


「くそっ! 手強てごわい! 」


 小精霊を使う感覚が『闇』とは、いや今までの小精霊とは全く違う!

 持っていない属性はここまできついのか!

 『闇』は付与の側面が大きかったせいか、使いやすかった。

 だが『光』を自分の意志で、自分の中に入れるのは全然違う!

 放出と循環じゅんかん

 ここまで違うのか!


 俺が手間てま取っている間にもどんどんと魔核コアが隠れていく。

 このままでは――


「大跳躍。鉄爪斬アイアン・クロ―! 」

「風の精霊よ! 」

「——れ」

多重氷槍アイシクル・ランス


 と、奮闘ふんとうしていると下の方から攻撃が聞こえてきてきた。

 振りほどかれないように剣にだるい腕でしがみつきながら下の光景を見ると回復役のモンスターを回復したみんなが打ち落としている。


みんな……」

『そうよ。アンデリックは一人じゃない』


 不意ふいに俺の前に光の精霊がやってきた。

 

『全く、あの闇の精霊も不器用というかおくゆかしいというか』

「どういう……」

『隠れてアンデリックに加護を与えていたなんて。一体いつの間に……』

「本当にいつの間にっ! 」


 全然知らないぞ! そんなこと!

 おっと、驚いてあやうく手を離すところだ。

 でも納得だ。

 道理で剣に込められた闇の小精霊を使いやすいわけだ。


『これじゃ与えない僕が悪者みたいじゃない。ねぇ精霊が加護を与える条件って知ってる? 』

「今それどころじゃないんだけど! めっちゃ振り落とされそうなんだけど! 」

『いいから答えて! 』

「気に入るか気に入らないかだろ? 」

『そう。だから「ケイロン」が気に入った「君」に加護を与えよう』

「どういう……」

『別にアンデリックの為じゃないんだから! 勘違いしない事! 精々せいぜいケイロンを泣かさないでよね。じゃぁ、愛され者精霊キラーに加護よあれ! 』


 言葉ともに視界を光がおおう。

 その光が俺に降りそそぎ、すぐさま光が俺の体に収束しゅうそくし、治まった。


『じゃ、後頑張ってね』

「おう! 」


 光の精霊がケイロンの元へ戻っていく。

 それを見届みとどけると早速力を使う。


「光の精霊よ!!! 」


 瞬間、精霊剣の文字が光始めた。


「今度は何!!! 」


 光は徐々に先端せんたんへ伸び渦巻うずまき始める。

 七色に光渦巻うずまく精霊剣を見ながら俺は何が起こっているのか分からず、唖然あぜんとした。

 が、それもつかの間ドラゴンが首を振り俺を振りほどこうとしている事を思い出しすぐさま光の精霊の力を引き出す。


「今までと段違いだぞ?! 」


 引き出される力に驚きながらも軽くなった体で最後の一撃を。


「これでっ! 時空連結七霊極撃レインボー・ストライク! 」


 極限まで引き上げた力で精霊剣を奥へ奥へと突き刺していく。

 連結された飛び飛びなカオス・ドラゴンの肉体の、さらに奥へと突き刺していく。

 しかし届かない。

 精霊剣から全属性の力を一度に引き出し奥へと伸ばす。

 風が水が、闇が、光が魔核コアを打ち抜かんと連結された空間を突き進む。


 そして――


 ビシ! ビシビシッ! パリン!


 魔核コアまでたどり着き、そして破壊した。

 それと同時に俺の意識は途絶とだえる。

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