第百九十九話 種族の輪 《サークル》 二 vs 滅国竜『エカテー』 一

「なるほど。やはり肉をぎ落すと能力が低下するようじゃの」


 蝙蝠こうもりのような翼を広げ飛行フライで移動しながら一撃いちげき離脱りだつしつつ魔人の攻撃を避けながら装甲そうこうのような肉をぎ落としていた。

 俺は風の精霊をまといながら外から冷静に分析しつつその様子を見ている。


 今の所エリシャが優勢ゆうせいだ。

 思った以上に肉となったモンスターが凝縮されているのか何回ぎ落しても肉の下から肉が出てきて体を再構成していくが、エリシャもダメージを負いつつではあるが確実に相手を追い詰めていた。

 

 このまますめばいいんだが、と思っていると魔人に変化が現れた。


「ん? 何じゃ?! 」

「Gaaa!!! 」


 叫び声と共に巨大な禍々まがまがしい黒色の魔法陣が町のばしょる場所に浮かび上がる。

 そしてそこから俺達の前で見せたモンスターを引きせる黒いもやが現れた。


「エリシャ! 」


 変化が、進行していく。

 その中でエリシャ自身も危険を察知さっちしたのか魔人から離脱りだつした。

 魔人を核にして様々なモンスターがくっついていく中、エリシャは俺の隣まで移動し声をかけてくる。


「あれは、何じゃ? 」

「わからない。魔人の変異? 」

「どんどん大きくなっとるが」

「今までだと圧縮という感じだったのにな」


 もはや人型ですらなくなった巨大な黒い肉塊にくかいから足のようなものが四本生えてきた。

 大きなひづめがついている。

 次にとげがついた尻尾しっぽと巨大なボロボロな蝙蝠こうもりのような翼が生えていく。


「おいおい、これはまさか」


 そしてひつじのような二本の禍々まがまがしい角と巨大な牙を持った一体のモンスターが出来上がった。


「……ドラゴン」

「あれこそが邪に通ずる災厄カオスかの? 」

「しかしあの腹は何だ?! 」

「趣味が悪いの。見た感じ吸収したモンスターの顔の様じゃが……」


 顔を引きらせながら分析しどうやって相手を倒すか考えていると、ドスン、ドスン! という音を立ててこちらを向き口を開いた。


「まさか、ブレス?! 」

「まずい。退散たいさんじゃ! 」


 俺達がその場を離れた瞬間、口から紫色のきりのような物がドラゴンらしきものの口から放出された。

 避けたが……。


「コホコホ! なんだこれ、コホッ! 」

「ゲホ、ゲホッ! まさか毒霧どくきりか! 」


 次いで体中にあるモンスターの眼光がんこうが怪しく光る。

 その瞬間俺は眩暈めまいに襲われ、周りに誰かの気配が?!


「光の精霊よ! 」


 瞬間眩暈めまいと咳が止まった。

 不思議と体に光がめぐる。

 温かい光だ。

 時の小精霊でもない、風の小精霊でもない感じたことのない小精霊の温かみだ。


「デリク! 」


 声の方向を見るとケイロンが小精霊の光をまとって俺の方に向かってきてた。

 この小精霊はどうやらケイロンが呼びせたらしい。

 だけどいつの間に?!


「ケイロンも神の御使みつかいの力を使えるとは」


 横を見るとエリシャが興味深く彼女を見ていた。

 天駆でってきたケイロンは俺の隣に立ち、更に発光し始めた。

 剣を天にかざしてとなえる。


「光の精霊よ! 」


 周囲一帯に光の小精霊がちた。

 それにより周りで異常状態を起こしていたメンバー達が解放されたようだ。

 少し苦しそうな表情がやわらぐ。

 どこか倒れる前よりも顔の血色がいいようにも感じられた。


「ケイロン、いつの間に?! 」

「それは『それはさっきね。君を想うちか……』あわわわわ!!! 」

「……今さっき精霊が出てこなかったか? 」

「出てきたの」

「Guuuu」


 ケイロンの力により異常状態を解除されたのが不服ふふくだったのかこちらを更に強く怪しい目で見る。

 しかし何も起こらない。

 それに驚いたのか少し意外そうに目を見開いている。


『言わない。言わないから! 全く、せっかく出てきたのにひどいな』

「「精霊?! 」」

『うん。僕は光の精霊。名前はまだない。だって生後数分だもの! 』


 ケイロンのお腹辺りから出てきた小さな女の子はそう言った。

 う、生まれたての精霊だと?!

 俺とエリシャは一瞬固まった。

 しかしここは戦場せんじょう。すぐにモンスターに目を移し一挙一動いっきょいちどうを逃さないよう見ながらたずねる。


「さっきのは君が? 」

『正確にはケイロンが、だけど、大体そうだよ』

「じゃぁ、何ができるか確認しても? 」

『もちろん! まず異常状態の解除だ。僕達の光にらされた者は大抵治る! 』

「神官もおやく御免ごめんじゃの……」

『そんなことは無いよ。傷の回復は出来ないからね。後は強化精霊魔法と『じゃ』にぞくする物の弱体化』


 なるほど。ならばかけて欲しい。

 あれは相当ヤバいことは瞬時に分かるからな。

 例えあれの毒や幻影を防げたとしても恐らく身体的な能力が異常だ。

 きばつらぬかれたら一発で終わる。


「なら俺達にかけてくれ! 」

『了解。ほらそこの『闇』も一緒に! 』

『ぼ、僕もですか』


 光の精霊にエリシャの影から引き出されておどおどした感じでミルも出てくる。

 ドラゴンの方を見るとヒッ! と軽く悲鳴を上げていた。

 何だろ、俺達が悪者のような感じを受けるのは気のせいだろうか。


『まずは、ケイロン。彼とそっちの女の子に精霊魔法を』

「うん。光の精霊よ! 」


 ケイロンが光の精霊の補助ほじょもと、剣を縦に構えてそうとなえた。

 まだ力の使い方が不十分なのだろう。

 が、その影響は偉大いだいだった。

 俺とエリシャの体に光の小精霊がめぐる。


「ほほう、これは」

「凄いな。あふれるような力を感じる」

『サービスだよ』

「え? 」


 光の精霊がそう言うと俺の精霊剣が光の小精霊につつまれた。


『もし効果が切れた時にここから引き出せば大丈夫でしょ! 』


 金色に光る精霊剣をみながら「先に補充ほじゅうしておく感じか」と感心かんしんしそれを構え直した。

 体中にあふれる光の温かみを感じながら隣を見るとエリシャがこちらを向く。


「ならば次はわらわの番じゃな」

『ど、どうするの? 』

「ふむ。初めてじゃが、あの剣に相手を弱体化させる魔法をかけてみようか」

「そんなことできるのか? 」

『で、できます。ぼ、僕の補助ほじょが必要になりますが』

「闇の精霊魔法は弱体化と異常状態付与、そして行動阻害がおもとなる。それを魔法で言う付与エンチャントを行えば少しはしになるだろう」

『せ、正確に言うと光の精霊が行った通りに闇の小精霊を剣に流して切りつける時に、ア、アンデリックさんに発動してもらう形になるのですが』


 何にしてもありがたい。

 どんどんと相手の様子が不穏ふおんになってきている。

 早めにやってもらおう。


「じゃぁ、エリシャにミル。頼むよ」

「うむ」

『は、はい。えい! 』


 エリシャが「闇の精霊よ」ととなえると同時にミルが「えい」と言うと黒いもやの中に黒い金色が混じった小精霊群が俺の剣に吸い込まれていった。


「よし、行くぞ! 」

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