第百九十七話 種族の輪 《サークル》 二 vs 魔人『エカテー』 一 

 サブマスが異形のモンスターに頭を鷲掴わしづかみされてちゅうを浮いているその異様な光景に俺達一同は凍り付いた。


 モンスターはヤギのような二本の角に蝙蝠こうもりの羽根を大きくしたような羽根を持ち大きな牙を生やしている。

 肌は真っ黒で赤い目が三つ。

 恐らく女性らしい胸とお尻がなかったら女性型である事が判別できなかっただろう。


「どういう状況? 」

「分からない。だけど危機なのはわかる」

「助け出すぞ! そげ――」


 エルベルが攻撃しようとしているのが分かったのかミッシェルをエルベルの方へ向け盾にした。


「ぐ……」


 力を強く込めたのか気絶しているサブマスから苦しそうな声が漏れる。


「こいつ、知能が高いのか! 」

「さっきのSランク以上って考えた方が良さそうだね」

「——」


 目の前の異形のモンスターが何か言葉にならない言葉を発すると地面に幾つかの魔法陣が描かれそこからオークやオーガが現れる。


「! この騒動はこいつのせいか! 」

「みたいだね。見たことのない魔法だけど。召喚? 」

「恐らくは」

「くそっ! どうしたら! 」


 様子を少し見ている間にもモンスターはどんどんと召喚されていく。

 数体だったのが数十までにふくれ上がっていた。

 まだ更に増えるようだ。魔法陣が消えない。


「下はわらわに任せよ」

「私も下のモンスター狩りと行きましょう。先程は不完全燃焼だったので」


 リンがクローを持ち出し自分につけ、エリシャは爪を伸ばして戦闘隊形に入った。

 二人に任せる形になるが、仕方ない。


「恐らくあれは魔人。いえ、あえていうならば魔人型モンスター魔人でしょう。どのようにして発生したかは不明ですがその大まかな外見から予測がつきます」

「詳細は分からないのか? 」

「ええ、残念ながら。魔人は難易度不明に分類されるモンスターでありすべての魔人型モンスターの雛形ひながたでもあります。その能力は多様たようで外見から推察すいさつすることは難しいかと」

「だけどサブマスがやられている所を見るとサブマスよりも強いってことだよね」

「だけどやるしかない! 」

「「大跳躍。天駆てんく! 」」


 情報を整理し俺とケイロンは空をけた。


 ★


「フンッ! 」

「ヤァ! 」


 エリシャが長い硬質な爪と一体となった腕でリンが獅子王の爪クロー・オブ・ライオネルで相手を切り裂いて行く。

 可愛かわいらしい声が漏れているが目の前に広がるは大量のモンスターを細切こまぎれにしていく様子。

 とてもじゃないが可愛かわいらしくない状況である。


「にしても多いのじゃ」


 ドスッ!


「本当ですね。数だけですが」


 ザッ!


 二人はまるで散歩をするかのように召喚されたモンスターの魔核コア的確てきかく射貫いぬき、切り裂いていった。


「……オーガ、いやレッド・オーガか」

「こんなモンスターまで召喚するのですね」

「ま、関係ないがの」


 そう言うと一瞬赤いオーガの隣を黒い影が通りすがる。

 後ろに回ったエリシャがその華奢きゃしゃな体に似合わない剛腕で相手の首をゴキリとならして絶命させた。

 いくら凶暴で知られるレッド・オーガでも視認しにんできないスピードで後ろに回られ首を落とされたらその凶暴性を発揮はっきする所を見せることもできない。

 その非常識な戦い方に少々呆れながらもリンは戦斧せんぷを振り回してやってくるオーガに飛びかかりクロー魔核コアまで深く傷を与えて絶命させる。


「と、とんでもないですな」


 そこに残されたホルスは一人その非常識なまでの戦闘能力に驚きながらもひっそりと馬車の後ろに隠れるのであった。


 ★


「まずは動けなくしましょう。水の拘束ウォーター・バインド

「——」


 アンデリックとケイロンがミッシェルを取り戻すべく空をけ魔人にせまる中、地上では相手の動きを止めるべくセレスティナが動いていた。


 大気中の水をかき集めて水の拘束具を作り出すとそれをうねらせ器用きように魔人を捕縛ほばくさせるように動かす。

 魔人もそれに気付き逃れようとするがアンデリックとケイロンが逃れられないように挟み撃ちをして退路たいろつ。

 結果足一本であるが拘束具を付けることが出来た。


「おっと、お前らは通せんぼだぜ。挑発! 」

「狙撃」


 リンとエリシャが打ち漏らしたモンスター達が魔法を起動させているセレスティナを襲おうとするがスミナが引きせエルベルが撃ちぬく。

 エルベルの精霊魔法の練度れんども上がりオークくらいならば一撃で爆散ばくさんできるほどの威力を叩きだしていた。


「助かりますわ」

「構わねぇ」

「こっちは任せろ! 」


 二人の返事を聞いたセレスティナは再度上を向く。

 そして魔導書のページを開き、魔法を発動させる。


「一度拘束こうそくしたらこちらのものですわ。水球ウォーター・ボール


 すると何十もの非常識な量の水球が魔人の周りに現れアンデリックとケイロンはその場から離れる。

 それを攻撃ととらえたのか魔人は片手で魔弾のような物を出すが、水球は破裂はれつし再度結合しもとに戻る。

 その様子に驚き慌てるも男十発もの魔弾を当てる。

 しかし再結合していく水球は数を減らさない。


 怒りにちた赤い三つの目がギロリとセレスティナの方を向くが彼女は笑っていた。


「ふふ、遅いですわ。魔法保存解放リリース水龍餓狼リヴァイアサン


 セレスティナの独自魔法オリジナル・マジックである魔法保存解放リリースには、事前に魔法を仕込むことにより高位魔法を即時使用できるという特徴と共に別の利点も存在する。

 それは魔法の並列使用だ。

 低位魔法の並列使用ならば普通の魔法使いでも可能かもしれない。中位魔法ならばケイロンくらいの実力者ならば使用可能だ。しかし高位魔法となるとほぼ不可能に近い。それこそ魔法に特化とっかした訓練を何十年も受けなければならないくらいに。


 だが彼女の独自魔法オリジナル・マジックはそれを用意にする。

 独自魔法オリジナル・マジックを使用している時点で二重詠唱えいしょうになるのだが事前に仕込み解放するという性質上、魔法一つに分類されない。

 よって高位魔法を二つ、もしくは今回のように中位と高位の並列使用可能となるのであった。


 魔法を発動させると同時に無数にある水球から龍の頭のようなものが出てくる。

 それぞれの水球から龍鱗りゅうりんまで再現された龍が魔人を見る。

 それにひるみ回避行動を取ったりミッシェルを盾にしようとするも意味はなさない。


 数十の水球から、また足を拘束こうそくしている水からも水龍が現れ、ミッシェルを盾とした防御の隙間すきまうようによけ、えたオオカミのように魔人に食らいつく。


「Gaaaaaaa!!! 」


 不快な悲鳴を上げながら体をじりもだえ苦しむ。

 苦しみのあまりかミッシェルを手から離してそれをエルベルの風の精霊魔法で受け止めた。


「Gaaa……a」

「限界ですわ」


 とどめを刺す前にセレスティナの魔力がつきかけのようだ。

 ひざをつき顔を青くする。


「チャンス! 死突撃! 」

「Ga! 」

「ケイロン! 」


 魔人が血まみれになった腕で、とどめを刺そうとしたケイロンを苦しまぎれの裏拳うらけんで吹き飛ばし、なんのがれた。

 そして空中に魔法陣が現れたかと思うとそこから黒いもやが出てきて地上にいるモンスター達の死骸しがいを魔石ごとつつみ込む。


「くっついているだと?! 」

「回復してるぜぇ、ありゃ」

「何ですの。そんな回復の仕方聞いたことありません! 」


 息もえだが、どんどんと傷が回復していく。

 そして――出現前よりも更に大きくなった魔人がそこにいた。

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