第百九十四話 種族の輪 《サークル》 一 vs レッサー・リッチ

「ふふふ、さっきのは効いたぞ」

「全く効いている様子なんてないんだけど? 」

「我はアンデット。痛みを遮断する方法などいくらでもある。しかし不意打ちとは卑怯ひきょうだな。いや、卑怯ひきょうだからこそ人間というわけか」

卑怯ひきょうとはずいぶんな言いぐさですね。戦術、と言って欲しいものです」


 ケイロンとセレスティナは敵を前にして相手の能力を分析していた。

 会話ができる上位個体、それだけでも脅威なのだが逆に言うと会話から相手の情報を読み取ることが出来る可能性があるということだ。

 外見はスケルトン・マジシャン、しかしフェルーナが満身創痍まんしんそういな所を見ると単なるスケルトン・マジシャンではない事は明白めいはくである。


 異常個体。


 彼女達に頭によぎったのはこの一言である。

 しかしそれは外れた。


「ケイロンさん、セレスティナさん。あれはリッチ、レッサー・リッチです。Sランクモンスターです。早く逃げてください」

「リッチ?! 」


 フェルーナが必死にその種族名を答え二人に退却たいきゃくうながした。

 二人はその種族名を聞いて驚き顔を見合わせる。


「なんでこんなところにリッチが」

「ええ。秘境ひきょうのような場所ならともかく」

「ふふふ、われを呼んだのはほかならぬこのの者。われの存在に恐れおおのけ! 」


 言葉を放つと同時に魔力が一気に高まる。

 セレスティナは魔力増大マジック・ブーストを使ったのだろうと瞬時しゅんじに理解する。


「誰かが意図的に送り込んだようだね」

「ええ、しかしここで引くという選択肢はありませんね」

「逃げて! 相手はSランクです。幾ら貴方達でも」

「それは出来ない話ですよ、フェルーナさん」

「ええ。その提案は拒否させていただきます」


 フェルーナの懇願こんがんも叶わず二人はやる気満々な様子で魔剣の細剣レイピアと魔導書を手に取り敵の方を向く。


「この地を任されている貴族の娘として」

「この国をあんずるものとして」

「「引くわけにはいきません! 」」

「ふふふ、圧倒的実力差に絶望するが「魔法保存解放リリース物質操作マテリアル・コントロール」ゲフッ! 」


 セレスティナは周囲の瓦礫がれきを動かして高速でレッサー・リッチにヒットさせた。

 しゃべっている途中に攻撃をするというあるしゅこのパーティーの中では常識になりつつある非常識な一撃で戦いが始まった。


魔法保存解放リリース聖光付与ホーリー・エンチャント

「え、ティナ?! 神聖魔法にまで手を出してたの?! 」

「ええ、いざと言う時の為に。本格的に使えるようになったのは最近ですが。しかしこれでダメージが通ると思います。存分に」


 相手が倒れている間にセレスティナはケイロンの細剣レイピアに魔法をかける。

 蒼白い聖なる光がつつんだと思うとケイロンの魔剣は蒼く神聖さを放っていた。

 それをながめながら友人の非常識さに呆れ前を向く。

 

随分ずいぶんめたことを」

火球多連弾マルチプル・ファイアー・ボール

「くっ、次元移動ディメンション・ムーブ! 」

「跳躍! 」


 起き上がったレッサー・リッチが魔杖を杖のように使って立ち上がり憎悪ぞうおちた眼窩がんかを二人に向ける。

 しかし起き上がった瞬間セレスが数十の火球を叩き込みすきを見せないようにする。

 だがくさってもSランク。

 すぐさま次元移動でその場を逃れ態勢を立て直そうとするが――


 青い一人の少女がその先にいた。


「重撃・重ね! 」


 聖光をまとった青い剣がリッチの体を突き刺す。

 瞬間あらわになっている胸元の魔核コアに当たらないように体をずらして急所を外す。

 が、聖光の一撃が効いたのだろう。

 黒いもやのようなものが噴き出た。


 ズドン! ドン! ドン!


「ぐぅぅぅ……」


 地面に叩きつけられて骨だけの軽い体は地面をバウンドしていた。

 黒いもやを出しながら立ち上がろうとするがそれをセレスティナがそれを許さない。


水の拘束ウォーター・バインド


 大気中に存在する水分が水の拘束具を作り一瞬にしてSランクモンスターを捕縛ほばくする。


「なんの、これしき! 」

魔法保存解放リリース聖光付与ホーリー・エンチャント

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 」


 水に付与された神聖な光がレッサー・リッチを浄化し始めた。


 ★


「私は夢を見ているのでしょうか」


 フェルーナは今、少女と呼べる二人がSランクモンスターを圧倒するという非常識な光景を見ていた。

 相手が攻撃を避けたと思うと相方あいかた先行せんこうして相手を迎撃げいげきし魔法で拘束というあるしゅ、典型的ではあるものの難しいことをやってのけている。

 それをレッサー・リッチにだ。


「どれほどの鍛錬たんれんめば。それにあの魔法」


 フェルーナは先ほどからセレスティナが発動させている魔法が気になった。

 大体の魔法は頭に叩き込んでいるはずなのだがあの魔法——魔法保存解放リリースという魔法は聞いたことも見た事もない。

 恐らく独自魔法オリジナル・マジックなのだろうと推察すいさつするが同時にその才覚さいかく畏怖いふねんいだいていた。


 (この年齢ですでに独自魔法オリジナル・マジックを。一体どれだけの才能を持ち努力をすれば……)


 フェルーナの心に少しの嫉妬しっとが混じるもそれはすぐに消えた。


 (いいえ、新しい時代を歓迎かんげいしましょう)


 そう思い彼女がレッサー・リッチを注視ちゅうしすると戦いも佳境かきょうに入っていた。


 ★


「ぐぉぉ……。この程度で、この程度で勝ったと思うなよ! 邪なる眷属創造クリエイト・アンデット


 神聖な水の拘束の効果時間が切れケイロンがとどめを刺そうとした時にレッサー・リッチは魔杖で地面をトンッ! と一回叩き魔法を発動させた。

 その瞬間無数のにごった魔法陣が現れたかと思うとそこから無数のスケルトンが現れた。


「これが最後の手? 」

稚拙ちせつすぎますね。数を増やせばいいというものではなくてよ? 」

「ふふふ、貴様らにこの程度の雑兵ぞうへいが効かぬのは百も承知しょうち。ならばこうするまでよ」


 そう言うとレッサー・リッチは魔杖を怪しく光らせる。

 同時にスケルトン達がモンスターに集合していき――粉々になっていく。


「一体何が……」

「くっついているのでしょうか? 」


 粉々になった魔核コアと骨がレッサー・リッチにくっつき彼の体を強化していった。

 そして……。


「これが我の最終形態。さぁ、蹂躙じゅうりんを始めようか! 」


 先ほどまでよりも三倍以上の大きさになったレッサー・リッチがそこにいた。


「やることは変わりませんわ。氷の束縛アイシクル・バインド


 大きくなったリッチの足元に氷が張りどんどんと体を侵食しんしょくしていく。

 動いているそれの行動を鈍くし、そして最後には止まった――


 と、思ったが自力じりき束縛そくばくから逃れる。


「なっ! 水の拘束ウォーター・バインドよりも強力なはずなのですが」

「この程度でが行進を止めれると思うなよ? 加重グラビティ

「「ぐぅ! 」」


 敵が魔杖をかかげると二人共超重力にさらされてひざをつく。


「ふふふ、まだまだだ。風刃連撃マルチプル・ウィンド・カッター

「くぅ! 魔法保存解放リリース! 土壁ストーン・ウォール! 」


 せまりくる風刃から身を護るために事前にストックしていた魔法を発動させる。

 すると巨大な土壁つちかべがレッサー・リッチと二人の間に生まれた。

 ザッ! ザッ! ザッ! と大きな音を立てながら壁がどんどんと削られていく。


 加重魔法の効果が切れたのか体が動くようになる。

 二人は立ち上がり戦闘隊形を取り直すが不吉な声が頭上から聞こえてきた。


「逃げおおせると思うなよ? 火炎連弾ファイアー・バレット


 魔杖をかかげるとにごった赤い魔法陣が現れ二人を炎が襲う。

 まずい、と二人が思った瞬間、透明な障壁が彼女達を護った。


「なに?! 」

「障壁一つ作るくらいの魔力は残しています。二人共後は頼みました」

「「はい! 」」


「くっ! こざかしい! 火球ファイアー・ボール! 」


 ちゅううレッサー・リッチに襲い掛かるケイロンに巨大な火球が迫る。

 しかしそれを天駆てんくで避けて加速する。


「ワタクシを忘れてもらっては困ります。霧発生ミスト

「たかが視界を奪ったくらいで! 」

「学ばないのですね。|魔法保存解放リリース聖光付与ホーリー・エンチャント

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 」

「ああ、すでに脳はないのでした。ごめんあそばせ」


 レッサー・リッチに迫っていたケイロンが急に離脱したかと思うとそこにセレスティナが魔法のきえいを発生させてそこに神聖属性を加えた。

 苦悶くもんちた叫び声を上げながら空中で魔杖を起動させる。


きりごとらしてくれるわ! 竜巻トルネード! 」


 竜巻できりらすと――


「な?! 」

極光一閃きょっこういっせん! 」


 魔核コアに剣を突き立てるケイロンがいた。


「ぐぉぉぉぉぉ! われが、われがこんなところで……」


 黒いきりを出しながらもだくるしむレッサー・リッチ。

 ケイロンは竜巻トルネードちょくびたせいかボロボロになりながらも地上におりてその様子をセレスティナとフェルーナと共に見ていた。


 そして魔核コアを失ったレッサー・リッチは体を崩壊させながらこの世をっていった。


「しんどかったですわ」

「でも勝ったね」

「少し休んでからアンデリック達と合流しましょう」


 フェルーナは「しんどかった」の一言で先ほどの戦いを済ませるこの二人に温かい目線を送りながらも娘や夫の心配をするのであった。

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