第百九十二話 一方その頃バジルでは 二

「な、な、な、なんなのよ! これは! 」

「これは予想外」

「つよ、つよ、住民」


 エカテー達は町の中へワイバーンで入りモンスターを一斉いっせいに大量召喚していた。


 上はB、下はEの大軍勢が住民を襲いかかりすぐに起こる虐殺ぎゃくさつを笑いながらミッシェルに見せつける予定だったのだがその思惑は最初から崩れてしまう。


 まず城壁外でモンスター暴走スタンピードを起こして冒険者達をおびきせることには成功した。

 冒険者達が出払でばらったその瞬間を逃さずにワイバーンで町を強襲きょうしゅう

 そしてモンスターを召喚したのだが現実は非情ひじょうである。

 虐殺ぎゃくさつされているのは住民ではなく召喚したモンスター達。


「大丈夫よ。このくらいであきらめてたまるものですか! 」

「ここは一旦引いて態勢を立て直した方が良いと、僕は思うのだけれども」

「そうはいきません! 」

「ほほほ、それだけ大きな乗り物で乗り込んで帰れると思うとは、やはりおつむはお山の大将のままかの、エカテー」

「ミッシェル! それにギルバート! 」


 町の南端なんたんそこに隠れるようにひそんでいたエカテーは異様いようなな姿をした二人に驚き叫ぶ。


 現れたのはこの町の冒険者ギルドのトップ二人である。

 しかしその姿もいつもと違い異様いようであった。

 ミッシェルは猫耳ねこみみ魔法使いローブにキラキラした短杖ロッドを持ち、ギルバートと呼ばれた老人は杖を持ちピンクの羽織はおりと茶色い半ズボンそしてピンク色の髪をした少女が書かれたシャツを着ている。


「ありえない! 対策はしていたはずなのに……」


 一応ながら彼女も魔法を使えるモンスターを召喚し、探知対策をっていた。

 しかし相手は対モンスターのエキスパート。しかも元Aランクが二人である。

 その稚拙ちせつな対策はすぐに見破みやぶられ、逆に利用されて彼達を誘導したのは経験の少なさゆえのあやまちであろう。


 尤もワイバーンという巨大なモンスターで乗り込んだので正確な場所は分からなくても方向くらいは誰にでもわかるのだろうが。復讐に取りつかれたエカテーにはそのようなことは一切考えていなかった。


「呼び捨てとはずいぶん偉くなったの」

「全く、我々を甘く見過ぎです」

「なんでここに! 」

「いやむしろなんでバレないと思ったのじゃ? 」

「何か罠でもあるのではないかと思い警戒して損しました」


 エカテーは強襲きょうしゅうした為に罠を張る時間はなかった。

 そのことを後悔こくかいして歯軋はぎしりをしながら二人をにらみつける。


「た、たかが冒険者二人でどうにかなると思ってるの! 召喚サモン! 」


 片腕を地面にかざしとなえると、いくつものにごった魔法陣が数え切れないほど出現しモンスターを召喚していく。

 三体のワイバーンを筆頭ひっとうにオーク・ロード、キング・オーガ、トロール・ファイター等々Bランクモンスターそして大量のモンスター達が現れる。


「泣きわめいてももう遅いわ! 無残むざんに殺してあげる! 」

「腕は鈍っていませんよね、クソ爺」

「むしろ全盛期よりもたぎっとるわい! 」


 こうして南の森での戦いが始まった。


 ★


「っち! 多いな」

「全く、ですね! 」


 ゴン! という音を鳴らして魔杖でモンスターを潰すフェルーナ。

 それをみて「やっぱ磨杖の使い方違うよな」と思うも口に出さないガルム。


 宿の中での攻防こうぼうが終わりガルム達は宿の外で戦っていた。

 宿にこも籠城ろうじょう戦をしても良かったのだが、二階から外の様子を見るとモンスターで町があふれかえっていた。


 よって一先ず宿の周りにいたモンスター達を討伐することに専念せんねんすることに。

 フェルーナの残存魔力の問題もあったのでフェルーナは極力魔法を使わずに魔杖ロッドで殴打して低級モンスターを倒すという方法に出る。

 普通ならば魔杖が折れるか、そもそも腕力が足りずに倒せないのだがそこは剛腕ごうわんのフェルーナ。

 現役時代に使っていた魔杖ロッドも特別性で耐久性の高くゴブリンの頭蓋ずがいくらいではひび一つつかない。


「ん? 何だあれ? 」

「スケルトン・マジシャン? いえ、あれは――」

「ふふふ、人とはおろかよな。みずからこの世界に混乱をもたらそうとするとは。だが久々ひさびさ現世げんせだ。存分ぞんぶんにやらせてもらおう。火球ファイヤー・ボール


 一体のボロボロな外套がいとうかぶった骸骨がいこつが手に持つ魔杖をかかげ、呪文をとなえた。

 人が使うような火球ファイヤー・ボールとはつかない、巨大な火球を出現させると同時に杖を振り建物の方へ向けて発射した。


「フェナ! 」


 ガルムは叫ぶと同時に高速で宿へ向かう火球に飛びつき――


ざん——


 魔法を切った。


 そしてその勢いで二階に入りフェナを抱えて外に出る。

 瞬間夫が娘を移動させていることを確認した後、フェルーナはアンデットの方を向き魔杖を突きつける。


「よくも我が家の宝に、夫に手を出してくれましたね」

「ふふふ、われ現世げんせに映し出したのはほかならぬこのの者であろうに、何たる言いぐさか。ふふふ、だがそれこそ人間。ごうまみれた人間よ」

「貴方の講釈こうしゃくを聞く必要などありません」

「ふふふ、まぁいい。存分ぞんぶんに――『生』を楽しもうじゃないか」

「すぐにでも地獄に送って差し上げます。上限解放オーバー・リミット


 ★


 ガルムは一人愛娘まなむすめを抱えて町の緊急避難所へ来ていた。

 そこには多くの人がいる。

 大人から子供まで、そして様々な種族がそこに避難していた。


「フェナ、ここで大人しくしてろよ」

「パパはここにいないの? 」

「ああ、ママを助けに行かないとな」

「い……わかったわ。フ、フェナは『銀狼』の看板娘だもん! パ、パパを見送るのも役目やくめよ」

「ああ、帰ったらお客さんがいっぱいになるから大変だぞ」

「任せなさい! 」


 じゃぁな、と言い今にも不安で泣きそうな看板娘を置いて外に出た。


「さて、あれはリッチだとは思うが……早めに……ん? 」

「ここに大量の供物くもつがあるとお聞きしたのだが、合っておるかな? 御仁ごじん。シュルルルル」


 ガルムの前に一体の大剣を背負ったモンスターが現れた。

 蜥蜴とかげの姿をそのまま二足歩行したような姿で身長はガルムよりも少し大きい。

 鱗の色はにごった緑で異臭を放っていた。

 それを注意深く、見るガルム。


「ここは湿地しっち帯じゃないはずなんだが、なんでリザードマンがいるんだ? 」

失敬しっけいな! 吾輩わがはいはリザードマンなどという下等かとう種ではない。邪神様よりいただいた種族名は『ドラゴニュート』。すでにここに多くの供物くもつがある事は感知み。吾輩わがはいから逃れれると、思うなよ? 」


 そう言いながら大剣をガルムの方へ向けた。


「ドラゴニュート? ちっ! なんでSランクがここにいんだよ。仕方ねぇ。上限解放オーバー・リミット! 」


 ガルムとフェルーナが大物達を前にそれぞれが戦う中、アンデリック達は城門へ到着した。

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