第百九十話 バジルへ 二

「いやぁ助かりました。まさか今話題の種族の輪サークルの方々に依頼を受けてもらえるとは」


 俺達は今商人の護衛中でバジルへ向かっている。

 俺とケイロンは馬車の中に、そして他の面々は外で護衛をしていた。


 目の前にいる老人はベルト商会という商会の商会長。

 聞くところによるとかなり大きな商会のようだ。


 最初この依頼を受けようとした時「この人数でも大丈夫だろうか? 」と思ったが大丈夫だったようだ。

 バジルへおろす荷物も多く護衛範囲が広い。

 それにこの商人——ホルス・ベルトという有翼獣人が出した依頼書には【大人数パーティー大歓迎だいかんげい】と書かれていた。

 道中どうちゅうの食事なども用意してくれるということなので全員一致いっちでこの依頼を受けることになった。


「しかし貴族となったアンデリック殿がわざわざ護衛依頼を受けるなど……」

「お恥ずかしながら国の方の仕事はあまり受けず、冒険者業を本業ほんぎょうにしようかと思いまして」


 それを聞き少し瞳を大きくして艶のある黒い羽根を動かす。


「なるほど、なるほど。爵位を持った冒険者はそのまま騎士になるのがほとんどの中、アンデリック殿のようなお方がいらっしゃると我々も安心しますわい」

「そうなのですか? 」

「ええ、こうして商人をしているとやはりというべきか仲良くなる冒険者やしんのおける冒険者というのが出てきます。そのかた爵位しゃくいて冒険者業を止められるとこちらとしては大損おおぞんとなりますゆえ


 なるほど。さきんじて冒険者を商人としてかこいたかったのに冒険者をやめてしまうとそれが出来なくなるということか。


「モンスターだ」


 外からエルベルの声がして馬車がゆっくりと停車する。

 俺も出ようかと思い一言ひとことことわり外に出ようとしたが爆音が鳴りひびいた。


「終わったぞ。後処理を頼む」

「……」

「いやはやお強いお仲間で。感知してから倒しきるまでの時間が私が知っている限りの最速ですな」

「大丈夫だとは思いますが積み荷の方の確認をお願いできますか、ホルスさん。彼女達は少々やり過ぎるところがあるので」

「おお、それは怖い。商人にとって商品は命の次に大切なものですからな」


 そして俺達は軽口を叩きながらも馬車の外に出た。


「多いな」

「来た時ってこんなにモンスターいたっけ? 」


 エルベル達が倒したモンスターの素材をぎ燃やしながら呟いた。

 ケイロンも気になったみたいで頭に疑問符を浮かべている。

 しかし他のメンバーは気にせず倒したようで馬車の方でおしゃべりしていた。

 頼むから、手伝ってくれ。


「この道通るのは二回目だからよくわからないが、どうなんだろ? 」

「聞いてみる? 」


 そうだな、と呟きケイロンと共に馬車の方を向き足を向けた。


「三十のモンスターの群れ、ですか」

「ええ俺達が王都へ向かった時はモンスターに遭遇そうぐうしなかったもので」

「もし平常へいじょう時よりも多いのなら更に警戒しながら進む必要があるのですが」


 ふむ、とだけいいホルスさんは瞳を上にやった


「ない事は無いですが、年に数回のレベルですな。これが他の町や国ならば毎度まいどごとくなのですがバジルへ通る道はモンスターが少ないのです」

「ならば更に警戒しながら進みましょう」

「それがいいかと」


 モンスター素材のぎ取りも終わり燃やし終え俺達はバジルへと馬車を走らせた。


 ★


 ところ変わってバジルの町の冒険者ギルド、ミッシェルの執務しつむ室。

 彼女の机の上には大量の書類が積み上がっていた。

 それに辟易へきえきしながらもさばいて行くミッシェル。


「最近、モンスター被害が多いですね」


 そう独りちると執務しつむ台から客人用の長机に行きそこに手に持つ地図を広げた。

 複写されたその地図は更新されたモンスターの出現位置が書かれていた。

 東が最も多く、次いで南、そして西や北となっている。


 南よりも東が多い、というところにミッシェルは頭を悩ませていた。


 元々モンスターの出現頻度が少ないバジルの町周辺である。

 ミッシェルが時折時間外労働ということで間引まびいていたりするが、それでも最近はその確認数が多すぎる。


「またモンスター暴走スタンピードでしょうか? こんな短期間にまた? 」

「何を困っとるんじゃ? ミッシェル」


 音もなく頭を悩ますミッシェルの前に一人の老人が現れた。

 一見いっけんすると杖を突いている普通の老人なのだがかぎをかけているはずのミッシェルの部屋に侵入している時点でそれはない。


「勝手に入らないでくださいと言ったはずですが、ギルマス」

「そんなお堅い事言わんといてくれ」

「で、その服は何なんですか? 」

「おお、これか! これはだな」

「いえ、結構です。長くなりそうなので」


 今着ている服について熱弁しようとした自身の上司にピシャリと言った。

 もっとも話を持ち出したのはミッシェルなのだが、その奇抜きばつな服にちょっと口がすべっただけなので彼女も聞きたかったわけではない。


 今のこのギルマスの服は白いシャツに何やら魔法で加工されたような絵が描かれている。しかしこれは有名人の顔や王侯貴族の者ではなくどこか異国風情ふぜいあふれる絵であった。

 その絵は女性の顔が書かれておりピンク色の髪をしている。

 ミッシェルはそれをみてまさかその服装のままここに来たわけじゃないだろか、と少し複雑な心境しんきょうになりながらもこの厄介な老人を見上げていた。


「王子誕生祭に来ていた大和皇国の者に複写してもらったのじゃが」

「その話、長くなりそうですか? 」

「う、む……」


 強い語気ごきで言われここは引き下がるしかない、と感じ口を一旦閉じたギルドマスター。


「で、何か異常事態かの? 」

「これを見てください。貴方が遊びに行っているあいだに起こった出来事、です」


 そう言いながら一旦執務しつむ台へ行き大量の資料を長机の上に置いて顔を引き攣らせる上司に読むようにうながすのであった。


 ★


「なんだこの数! 」

「しかし強いモンスターではありません。魔硬散弾バレット


 俺とケイロンが商品に襲い掛かるモンスター達を切り刻み倒していく。

 この異常事態が始まったのはバジルの町へ行く道の真ん中あたりを過ぎた頃からであった。

 モンスター一体一体の強さは強くない。

 元々この地に住むモンスターが強くないのもあるのかもしれないが襲い掛かる数が異常だ。

 種類も雑多ざった

 モンスター暴走スタンピードが起こっているんじゃないかと言われても不思議ではない。


「これで最後! 」


 ケイロンが最後の一体を倒しきるとモンスターの波は治まった。

 その後バジル方面に進むもモンスター集団とばったり街道で出会う事が多かったがそれでも進んだ。

 引き返すという選択肢もあったが引き返し挟み撃ちになる可能性もある。

 なので進むことを選びバジルへ向かった。


 そして……。


「なんだ、これは」


 火災の炎で照らされたバジルの町から黒煙が立ち上がっているのが見えた。

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