第百八十八話 転移魔法と真祖と王族と
「わざわざ来てもらってすまない」
「ごめんね。こんな場所で
「いえ、お呼びとの事でしたので」
俺達はいつもの玉座の間ではなく白い会議室のようなところに通された。
そこで座っている王を中心に
形式的な挨拶はほどほどに本題へと入ることに。
「まずは自己紹介を」
王冠を
胸には三つの勲章を示すバッチがつけてある。
それだけでもこの初老の
背中をピンと張り立っている俺達を見る。
「こうして名乗るのは初めてですな。私はこのカルボ王国で
「アンデリック・セグ子爵です」
本来なら役職を言うべきなのだろうが冒険者という名の無職だ。
名乗る役職がない。
少し恥ずかしく感じたのだが、それを感じ取ったのかすぐさま一歩後ろに下がった。
するとカルボ三世が次を
「……北方守護大将レナンド・シリル公爵だ。軍務卿とも呼ばれている。好きな方で呼べ」
「アンデリック・セグ子爵です」
渋い声に見かけよりも額に
それこそ軍人といった
なるほど。前に言っていた発言力とかはこういった所にも現れるのか。
先に文官である
本格的にセレスを、もしかしたら俺達ごと囲い込みに来るかもしれないな。
気を付けないと。
「シリル公爵はこの国の北方を護る北方守護大将。それと同時に、
「ハッ! 差し
うむ、と一回
シリル公、こっちをめっちゃ
怖いなぁ。
「さて、今回の話なのだが転移魔法についてだったとおもうが
「
カルボ三世が『転移魔法』と言うとシリル公がピクリと
そりゃそうだ。
国や軍で管理している転移魔法を
面白くないに違いない。
「
終始シリル公が
恐らく事前にセレスが手回ししていたのだろう。
こうして俺達は転移魔法の限定的使用許可が下りたのであった。
★
「アンデリック・セグ、か」
「閣下
王都より北へ向かう一台の馬車で屈強な男の額に刻まれた
それを見ていた対面の騎士風の男性が不思議そうに聞く。
それもそのはず。この騎士はまだアンデリック達の事を詳しく知らないのだから。
隣国の王女の婚約者として一時期名前が有名になったが名前だけである。
その詳細までは出回っていない。
「先日貴族になったばかりの
「はぁ……」
「だが、本人はともかくその回りが
「直接手を出されるので? 」
男の疑問を聞き少し考える。
戦時に補給のかなめとなるドラグ家に隣国の王族の血を引くアクアディア家、更には獣王国の王女に高位吸血鬼族。
厄介
特に高位吸血鬼族に関しては魔族特有のルールに従う可能性もあるので、もし彼女が自身が保有する戦力以上の権力者であった場合
どうやったらこれだけの戦力と権力を集めることが出来るのか知りたいほどだ、と思いながらも胸にある一つの勲章をチラ見した。
「せめて引き
「囲わないのですか? 」
囲い込み。それも一手だとシリル公爵は考えていた。
しかし本人はあくまで冒険者業をしている。
貴族としては国に仕えていない状態というのはよろしくないのだが、カルボ三世がその方が利益になると判断し役職を与えていない。
ならば
加えるならばアンデリック達の後ろ盾は穏健派のトップ三人だ。
ただの子爵一人の為にやり合うには少々割に合わないと考え「やはり引き
「……少し、そうだな。
そう男が呟きながら馬車は北方へと帰って行った。
★
「やぁ。アンデリック君」
「エレク殿下、ご機嫌
俺達はエカ達にあの場で伝えられなかった
使用人達がいつもきれいにしているのかピカピカの白い机と椅子が並べられている。
事前に使用人の
普通なら怪しまれるところなのだが以外にもすんなりと話が通った。
そしてそこにはエカの他にカルボ三世とドーマ
「ボクの事はエカでいいって言っているじゃないか」
「そういわれましても……」
今の状況を考えてくれ。
この国のトップと文官のトップがいる状態だ。
下手な口の利き方は出来ない。
「して、あまり広めたくない
「はい、彼女についてです」
カルボ三世が本題に入るとエリシャが一歩前に出る。
今までの緊張はどこへやら。
「彼女は見ての通り吸血鬼族なのですが……。
「うむ。
そう言った瞬間空気が固まった。
「……おかしいの。わしの耳には今しがた
「
「現実を見てください、陛下。
そう言うと手で顔を隠し
「なるほど。卿の
「シリル公爵が退出した後にこの話を出したということは、あまり広めたくないということでよろしいかな? 」
「はい。その通りでございます。彼女個人の実力もさることながらタウ家の事もございます。しかし彼女の正体はすでに冒険者ギルドが
今回伝えたのにはいくつか理由がある。
後から「何故伝えなかった」といわれることを防ぐと同時にタウ家から彼女を守るためでもある。
興味のままに動くタウ家。
しかし国に
ならばまえもって話して王家に護ってもらおうということだ。
「
「あい分かった。エリシャ殿に関しても努力しよう」
ありがとうございます、とお礼を言い城を出て俺達はバジルへ向かうために準備を始めた。
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