第百八十七話 俺達のパーティー

素晴すばらしいですわ!!! 」


 興奮した感じでセレスがそう言った。


 セレスが帰って来た時彼女にエリシャの能力について伝えた。

 俺達はあらかじめこうなる事を予想していた為なんとも思わない。

 もちろんエリシャにもこうなるだろうことを伝えている。

 しかしまだ慣れれないのだろう。ビクッと俺の隣の席で体をちぢませた。


「新属性魔法『影属性』! 新たな発見! 素晴すばらしいぃ! 」


 彼女は立ったまま両手を大袈裟おおげさに開けて光悦こうえつした表情でエリシャを見ている。

 こ、これは怖い。

 やべぇ。

 流石にこの状態のセレスは人様ひとさまに見せれない。


「通常の吸血鬼族には当てはまらない法則に新属性! さぁどのような事が出来るのか教えてください! 」

「ちょ、がっつくな」

「気持ちは分からなくもないけど落ち着いてティナ」

「分かるんかい! 」

「リン抑えてくれ、ワタシだけじゃ無理だ。一体どこからこんな力が」

「分かったのです」

同胞どうほうが怖がってるじゃないか。セレス、めろよ! 」

「「「お前が言うな!!! 」」」

「ええ……」


 閑話休題かんわきゅうだい


「興奮したようで。ご迷惑を」

「治まってくれてよかったよ」

「いや本当に」


 セレスは今正座状態で反省中だ。

 この広間ひろまに誰もいない。

 使用人達にも知らせないとの事だったので使用人を一旦いったん外に出したのだ。

 遠方えんぽうからのぞいているであろう監視役も退いてもらった。

 久々ひさびさにあの黒タイツさんを見たが、変態っぷりがすごい。

 仕事服とは言えよく日中あんな服着て外に出れるな、と逆に感心かんしんしてしまった。

 そしてなぜみんなにバレない。


「さて、コホン。影属性魔法ですがケイロンやリンの言う通り公表こうひょうひかえるべきでしょう」

「やっぱりそうなるか」

「ええ。いずれかはバレる可能性はありますがそこは「再現性さいげんせいがなく公表こうひょうすべき段階ではない」と押し切った方がいいかと」

「タウ家の事もあるしね」

「ええ。あるしゅこっちの方がいくさえた野獣共よりも厄介やっかいかもしれません」


 一斉いっせいにエルベルの方を見て「なるほど」と心を一つにした。


「何か不愉快ふゆかいなことを考えてないか? 」

「「「いいや」」」

「……ならいいが」


 エルベルが少し不機嫌な顔をしながらもへたーっと机の上に腕を伸ばしてくつろいだ。


「エルベルさんはまだ優しい方ですわ。あの者達は私以上に研究バカなのでそこにテーマがあれば飛びつくでしょう」

「ひぃぃ」

「ワタクシの知る限る龍人族よりも真祖の吸血鬼族の方が寿命が長いのであのタウ家の方が先にいのちきると思うのですが、奇人きじん変人へんじんを生み出す家柄いえがらです。何世代せだいにもわたって研究体として観察研究される可能性がありますわ」

「怖い事言うな。研究体って」

「あくまで可能性の話です。それにこの国は軍事的に強くありません。なので彼らを軍閥ぐんばつの者達が動かして兵器へいきとしてエリシャさんをかこう可能性もあります。よって総合的に考えて我らのパーティーと一緒に活動するのがベストかと思います」


 口がのどいたのか事前じぜんに入れてもらっていた紅茶を一口飲む。


「そう言えば「通常の吸血鬼族には当てはまらない法則」って言ってたけどそれは何? ティナ」

「そうですね。ワタクシやエルベルさん、スミナさんのような長命種は基本的にある程度の年齢まで普通の人族と同じ外見的成長をげます」

「そうだね。実際僕とティナは同じ年齢で似たような格好かっこうだもんね」

「ええ、しかしお話を聞くと彼女は眠る前すでに数百年を過ごしているようです。そしてこの外見。単なる少女とは思えません」

「長命種の、一般的な成長法則に当てはまらないってこと? 」

「そう言うことです。もしかしたらそのことも含めて真祖しんそたるゆえんなのかもしれませんが……関係ないですね」


 そう言い少し優しい瞳をセレスはエリシャに向けた。

 それに気が付いたのか少し気味ぎみに下を向く。


「少なくともワタクシのパーティーにいる限りは種族で差別するようなことはありません」

「貴族に王族に変態に常識人に色々いるからな」

「お、オレの事か? 変態って俺の事か?! 」

あきらめろ。いつもの行動を見たらどう見てもお前は変態だ」


 常識人スミナが愕然がくぜんとしているエルベルの肩を叩き、あきらめるようにうながす。

 そんな中、みんなが見守るような目を彼女に向けた。


「ありがとう、なのじゃ」


 少し感極かんきわまったのか少し涙ぐむエリシャ。

 そして机から立ち短い両手と羽根はねを広げた。


「我が名はエリシャ! 種族の輪サークルのエリシャなのじゃ! これからもよろしくなのじゃ! 」

「「「よろしく。エリシャ」」」


 こうしてエリシャが仲間になった。


 ★


「話しは変わりますが転移魔法の件で陛下が種族の輪サークルお呼びでしたわよ? 」

「「「それを先にいえ!!! 」」」


 使用人を中に入れ広間ひろまでおやつを食べている時にセレスは爆弾を落とした。

 エリシャの話どころじゃないだろ!

 何国のトップを後回しにしてるんだ!


「エリシャの事もあるし一旦いったん王城に行くか」

「どう説明するの? 」

「正直に真祖しんそって言っとくか? 」

「隠すのも一手ですぅ」

わらわはどちらでもいいのじゃ」


 俺達は準備をする前にエリシャの事をどう伝えるか話し合っていた。

 真祖しんそと伝えるべきか高位吸血鬼と伝えるべきか、だ。

 本来なら正直に伝えるべきなのだろうが極端きょくたんに武力と権力が集中してしまったセグ家である。

 これ以上目立めだたないことにしたことは無い。


「ギルドに報告してしまったしな。虚偽きょぎ報告をしたと思われると厄介やっかい、か」

「相互不干渉ふかんしょうとはいえ何らかの方法で情報を入手している可能性はあります」

「なら影属性魔法? だけ黙ってりゃいいってことか」

目立めだつのはまぬがれないけどね」

「うぐっ」


「申し訳ないのじゃ」

「そんなことは無いよ、エリシャ。どの道、転移魔法で目立つんだ。気にしなくても大丈夫だ」

「そうだぞ同胞どうほう! むしろ目立ってなんぼだ! かかってくる奴はぶっ飛ばせ! 」

「おお、そうだな我が同胞どうほう! 向かってくる悪人は地獄の炎で焼きくしてやるわ! 」

「それは止めてくれ」


 悪乗りするエリシャとエルベルを一喝いっかつしそれぞれ身支度みじたくをして全員正装せいそうで門へと向かった。


 一台の馬車が貴族街を行く。

 基本的に貴族は王城へ向かう時、どれだけ近くても馬車移動らしい。

 今までの俺達の行動がおかしかっただけのようだ。


「着きましたぞ」


 馬車が止まり慣性かんせいで少し体が前にれた。

 レストさんが一言そういうと馬車の扉が開く。

 じゅんにおりていき最後に俺が城門前に行く。

 相手の門番も俺達が出てきて驚いているような表情だ。

 今まで非常識な入城の仕方をしてたしな!


「陛下に呼ばれて参上さんじょうしました。通していただいても? 」


 そう言い俺は貴族章の短剣を出した。

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